1節目
「それで、主はこの世界とは違う異世界から来たというのか」
貝紫は旅のお供になったシノーメに、自分は異世界から来たという事を正直に話した。元騎士であった
シノーメは貝紫を主と呼んで従ってくれるが、慣れない呼び名に少し気恥ずかしさがあった。
自分を慕ってくれるシノーメには本当の事を教える事にした。最初は信じてもらえないと思っていたが、
意外にもはあっさり納得してくれたようだった。
「驚いたり信じてもらえなかったりすると思ってたけど、信じてくれるの?」
「伝説の神の言葉と、それを使える少年が目の前にいるのだから、その少年が異世界から来たと言われても、
今更些細な事だろう。そこだけを信じない方がおかしいものでしょう」
言われてみるとそうだなと貝紫は逆に納得した。
「俺はもっと格好いい魔法とか剣とか使えるのが良かったけどな」
「魔法ならこの世界でも使える人間はいますがね。オズマには魔法について研究する魔法大学と
言う場所があると聞いたことがあります」
「そうなの!?」
貝紫はこの世界に来てから、未だ直に魔法を見たことがないのを思い出した。グラマトンの他にも
ちゃんとした魔法をいうものが存在するようだ。
「魔法があるなら、それで世界救う奴とかいないの?」
「どうでしょう、聖教国で魔法を習えるのは金持ちの貴族ばかりだし、そこで学んだ連中は上級司祭になって
貴族相手に教義を説き、魔法の研究とやらで自分には詳細の分からない魔法大学へと行く。
諸侯同盟の方はあまり魔法を重要視してなくて、私も騎士の修行中に少し基本を教えてもらった程度。
結局素質がなくて使えませんでしたが」
「俺も魔法が使えたらな。手から炎を出したり傷を治したり……そういえばグラマトンこそ魔法
みたいだけど、魔法と何か違うの?」
素質が必要だとか起きる現象を見ると、グラマトンこそ魔法そのものだ。貝紫がまだこの世界の魔法を
見たことがないのも理由だが、魔法とグラマトンは同じものではないだろうか?
ふむ、とシノーメは少し考えてから言った。
「主のグラマトンは何というか、魔法よりも与える影響力が一層強い。魔法なら確かに手から炎を
出せるかもしれないが、結局それで出来るのは物を焼くくらいでしょう?
グラマトンは、まるで物事を根本から変えてしまってるように感じる、そういう力だと」
「そう? 俺にはその実感ないよ」
「それを実際に身体へ受けた私が言っているのです。グラマトンの力は人知を超えている」
いまいち釈然としないが、もっと自由に扱えるようになればその違いが分かるようになるかもしれない。
やがて集落が見えてきたので、貝紫たちはそこで夜を過ごすことにした。