8節目
「どうしても一人で行くのか?」
「ああ、ミッカジ村の村長とムークって人のお陰でオズマ行きの馬車隊に入れてもらったんだけど、
また何か起こったとき、他の人を巻き込みたくないから。この力があれば一人でもなんとかできると思うし」
山賊はシノーメが一人で退治したことになった。グラマトンの力を話したところでとても信じられない
だろうし、この力の存在が広まってもマツシタにはいいことはないと判断したからだ。彼もそれを認めてくれた。
兵士たちに保護され、聖教国の砦に着いたその日に貝紫はすぐ発つつもりだった。
「俺はすぐにオズマに向かって教皇というのに会わなきゃなんだ。この力の事を話して、
起きてる戦争を止めるためにさ」
マツシタは本当に戦争を止めるつもりのようだった。だが、彼の力ならそれも決して不可能ではないだろう。
「オズマにはまだ何日もかかるほど遠いぞ。しかも小僧一人でなんていくらなんでもな」
「何だよ、おっさんだって俺の力を知ってるだろ! 大丈夫だって!」
「おっさんじゃない。それにいくら凄い力あったところで一人で出来る事は限られてる」
端正な顔が不機嫌な表情に曇る。それを見て笑うとシノーメは言った。
「だから俺も着いていこう。何かあった時、お前の盾となって命に代えてもお前を守る」
一瞬ぽかんとした後、貝紫は弾けるような笑顔を見せた。
「マジで! 本当にいいの!?」
「俺には他にあてもないし、お前のやっていくことをこの目で見てみたいからな」
シノーメは少年の目の前で膝をつくと、真剣な赴きで宣誓する。かつて目指して諦めてしまった
騎士として、再び。
「このシノーメ、騎士として忠誠を尽くします」
「わっ、嬉しいけど何かちょっと恥ずかしいな……へへ」
自ら危険を顧みず、死への恐怖にも抗い救世主と弱者を守護していく存在、盾教者シノーメが誕生した。