7節目
貝紫が見つけた神の文字グラフトンは、印のような形でそれだけで色んな文章を表している。
その文章を読んで言葉に発することで、貝紫は力を発動することができる。
ならば、もし、知っている言葉の意味を並び替えて新たな文章を作ったとしたら? 文字がなくても
グラフトンの力を発動させることができるのではないだろうか。
「サン ノリ クァバー……(我が求めるは 祈りによって……)」
貝紫は無意識に言葉を紡ぐ。おぼえた神の言葉が貝紫を導いてるのか、それともこれこそが神の意思か。
知っている詠唱が紐解かれ、その断片が新たな力を紡ぎ出す。これまでの物と違い、貝紫の体内から
光が漏れ出すように放たれていく。
「アム オーディ!! (襲い掛かる苦痛を退けん!)」
貝紫の言葉で彼の身体から淡い光がゆっくりと周囲に広がっていく。
「あ、あれ? 身体が……」
光を浴びた山賊がそのままの姿勢で倒れる。まるで人形がバランスを崩したかのようだ。
「動かねえ……! あがが……」
みな石造の様に身体が固まり動けなくなった。無理に動こうとしても手足が震えるだけで、体勢や
身体の部位は全くびくともしなかった。それはあのデフトンでさえ同じだった。
「くそ、こんな力をまだ持ってたなんて……!」
貝紫もまさかこんなことが出来るなんて思ってもいなかった。
「あ、シノーメのおっさん!」
動けなくなっている山賊たちの中で、シノーメの姿を探す。倒れてるシノーメを見つけて貝紫は
一目散に駆けよる。
「おっさんじゃないって言っただろ」
シノーメが返事を返す。少し傷を負っているが、生きているならいくらでも治すことができる。貝紫は安堵した。
「凄いな、みんな動きを止めてしまった。でも、俺まで動けなくする必要はないんじゃないか?」
「俺だってびっくりだよ。でも、シノーメのおっさんが助かって安心した」
貝紫がニカっと笑顔を見せる。もし、戦争を止める事が出来る者がいるとしたら、彼のような少年
以外にはいないとシノーメは思った。
「ああ、そうだな」
こちらに向かう声が聞こえる。山賊団の新手かと思ったが、聖教国の兵士たちのようだ。馬車隊の
人々がこちらに送ってくれたのだろう。
馬車隊とマツシタは無事で、山賊団も捕まった。自分の想像してたよりずっといい結果が生まれた。
これもマツシタのおかげだ。どうしようもない現状を打破する存在。それこそ救世主と呼ぶのだろう。