6節目
目の前で瞬く間に負傷した相手の傷が塞がっていく。敵からしたらたまったものではないはずだ。
これで戦意を失ってくれれば、後はこちらが逃げるだけだ。目の前で起こった人知を超えた力に、
山賊たちは動揺の声を上げる。
「ふん、魔術か何か知らねえがビビってんじゃねえ!」
まだデフトンが諦めていなかった。自分の武器である重々しそうな金棒を取り出すとシノーメの方へ
ずんずんと向かってくる。
やはり上手くいかないか、だがシノーメは臆さなかった。
「離れてろマツシタ!」
そう言うと貝紫は慌てて距離を取る。すると、デフトンが持っていた金棒をシノーメに向かって振り下ろした。
流石にまともに盾で防いだら、自身諸共粉砕されそうな一撃だ。弾くように受け流して、一撃を脇にそらす。
その一撃で地面が揺れんばかりの衝撃が走った。この人間離れした怪力が、デフトンを山賊の頭にしている。
シノーメはデフトンの顔面に拳を打ち付けた。
しかし、デフトンはびくともせずにやにやとしながら立っている。
「蚊が止まったようなパンチだ。お前らもよく見てみろ! こいつは武器もないし、こっちの攻撃を
かわすだけのへなちょこ野郎だ! ガキだけを狙え!」
こちらの弱点をすぐに看破された。シノーメは相手を殺すことが出来ない。武器を持つの震えるほどだ。
しかし、向こうからは一方的に攻撃できる。こちらは治癒が出来ると言っても、死んだら生き返る保証はない。
この言葉で、山賊たちの戦意が復活する。
「全員でかかれ! 隙を見てガキを捕まえろ!」
デフトンの号令で、手下たちが声を上げてシノーメたちに向かってくる。盾で向かってくる手下たちを
殴り倒すが、それ以上は平気と気づいた山賊たちの動きは止まらず、一人が貝紫の方へ向かう。
「逃げろマツシタ!」
「大丈夫、俺にはこれが……!」
貝紫は魔狼ワーグを追い払った神の言葉を唱える。光の波が山賊やシノーメを包むが、
それだけで何も起こらなかった。
「そんな! 魔物には効いたのに、人間には効かないのか!?」
予想が外れて貝紫は大きなショックを受けた。これでは山賊たちに通じる物がない。
「逃げるんだマツシタ!」
シノーメが頑張って山賊たちの攻撃を防ぐ、しかし、大勢の山賊による波状攻撃は止まらず、自身の
守りに専念できないシノーメは少しずつ傷を受ける。それでも止まらない山賊たちが、ついに貝紫を
捕らえる。
「マツシタ……!」
「シノーメのおっさん……!」
やはり無謀だったのか、神の言葉の力はこの程度の物だったのだろうか……?