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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
終曲
112/114

1節目

「あ……あれ?」

 貝紫は自分が清潔なベッドの上で寝ていることに気がついた。スプリジョンは、サントロンの噴火はどうなったのか、自分は何処にいるのか、一体何が起こったのか。目の前に見えるのは知らない天井、鼻にツンとくる消毒液の匂い、そんなに慣れ親しんだものではないけれど、何故かとても懐かしさを感じた。

「ああ、ヨハン! 目を覚ましたのね!」

 答えを知る前に、聞き覚えのある声と共にぎゅっと抱きしめられた。数か月、それ以上久しぶりに見る貝紫の母親だった。

「ここは……?」

「病院よ。ボーイスカウトに向かう途中でバスが事故にあって……他の子たちは奇蹟的に無事だったけど、あなたは目を覚まさなくて……」

 うれし泣きのあまりしゃくり上げながら貝紫の母親が答える。そういえば、みんなでバスに乗っている途中で事故にあって、その時にスプリジョンに召喚された事を思い出した。こっちの世界ではずっと意識不明のままになっていたようだ。

「もう一週間近く目を覚まさなかったから、お母さんもお父さんも心配でたまらなかったわ……」

「一週間……」

 スプリジョンでは数か月、一年近く生活していたはずだが、こちらではまだ一週間も経ってないらしい。果たしてスプリジョンの事は実際に起きた出来事なんかではなくて、ただの長い夢だったのか。

「何だか外が騒がしいね」

「もしかして他の子たちも目が覚めたのかしら? 山田さんと斎藤さんのお家の子もあなたと同じで、事故が起こった後、ずっと意識不明だったのよ」

 それはロッソとフランツの事だろう。こんな偶然があるはずない。やはり自分は今までスプリジョンという異世界にいたのだと貝紫は確信した。

「身体のどこにも異常はないのに、ずっと起きなくてそれだけが心配だったの……でもきっとすぐに退院できるわ」

 スプリジョンの事は両親には内緒にしておこう、きっと説明した所で信じてもらえないだろうから。眠ってる間、自分は異世界に行っていて途方もない冒険をしてきたのだと。自由になったら一緒に冒険をしたロッソとフランツには話そうと思った。きっと、自分と同じでスプリジョンの事をおぼえているだろうから。

 ただ一つ気がかりなことは、自分たちがいなくなったスプリジョンが無事なのかどうかという事だけだ。サントロンが噴火した後、スプリジョンはどうなったのか、シノーメたちは大丈夫なのか、聖教国と諸侯同盟の戦争は? 向こうの世界のその結末を知るすべは、こっちの世界ではなかった。

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