9節目
「この位置でいいんだな!」
「こっちも準備できたよ~!」
声と全身で合図を送って準備が出来たことを貝紫に伝える。3人の御使いはサントロンの火口を中心に、北西側が空く様に取り囲んだ。
貝紫の作戦、それは噴火を抑え込むのではなく、グラマトンの力で噴火の力を逆に強めて、一定方向に誘導させて噴出させるという方法だ。スプリジョンの北西に位置するサントロンの北から西にかけて火山の一部であり、後は海に続いている。人のいる南から東の平地側に噴火が向かないようにすれば、被害を最小限に抑える事が出来ると貝紫は踏んだ。噴火したマグマが海に流れ込んだらそこは固まって新たな大地となり、大陸の形が大きく変化する。地球がそうやって大陸を形作ったように、スプリジョンの形を変える大仕事だ。
「主……」
シノーメとゲオルグ、ハーラは危険だからすぐにサントロンを離れる様に伝えた。ダマーの御前天使たちも気絶こそしているがまだ生きている。彼らを連れて避難するのが従者たちの役目だ。
「大丈夫、スプリジョンは絶対僕たちが守るから。御使いの役目を果たすんだ」
「何もできない我々の無力を許してください」
「そんなことはないよ。ここまでシノーメたちの力がなかったら絶対これなかった。シノーメ達が頑張ってくれたから、こうして僕たちの出番が来た。それだけの事さ」
貝紫はにっとシノーメに笑いかける。主として不安な姿は見せられない。精一杯の強がりだ。
「これが終わったら僕たちも山を下りるから、シノーメたちは待っててよ。ご主人様の命令さ!」
そう言って、貝紫は噴火に備えて身構える。その後ろ姿を何度も見返しながら、シノーメたちは先に山を下りて行った。
貝紫、ロッソ、フランツの3人の御使いだけが、火口で噴火の瞬間を待つ。正直な所、この作戦はほとんど賭けの様な物だった。グラマトンの力が環境や空間にも影響すること、複数人で行う事でさらに効果が増幅されること、知っている知識だけでどこまでできるのか分からない。時間の猶予もない中で考え出した最大限の作戦だ。
この方法でスプリジョンを救う。自分を信じてくれたシノーメたち従者、出会った人々、そしてグラマトンを使う選ばれた御使いとしての使命の為に。
これまでとは違う揺れが始まった。空気が震え、巨大な何かがやって来る様な異質な揺れ、そして徐々に大きくなる地鳴り。真っ赤に燃える巨大な火柱がサントロンの火口から昇った。ついに噴火が始まった。