7節目
「相打ちだと……強化したサウリアの炎がたった3人の子どもなんかに……」
御使いが使うグラマトンの力は人工的に作られた御前天使のそれよりも強力だ。それを3人で合わせて強化したならば、ドラゴンの炎すら無力化できる。
「まだこれで終わりじゃない!」
サウリアの上あごに強烈な一撃が降り注いだ。ゲオルグの槍の一撃が、サウリアの口を地面に縫い付けた。
「ウウウ……!」
口ごと地面に縫い付けられたサウリアはついに動くことが出来なくなった。立っているのは3人の御使いとその従者3人。真の御使いダマーの方は彼一人だけだ。
「もうお前の行くことを聞く奴はいない。俺たちの勝ちだ!」
貝紫の宣言をダマーが怒りの形相でにらみつける。
「まだだ……まだ真の御使いである僕が残ってる! 僕の力で……!」
そういうダマーから僅かに魔力が漏れ出てくるのを感じるが、サウリアに力を使い過ぎたせいか、これ以上何かする魔力は残されていなさそうだった。
「もう勝負はついた。これ以上は無意味だ。お前自身が一番わかってるはずだ!」
「それでも、この憎いスプリジョンを破壊して、僕が救世主になるんだ……まだ終わってない……!」
サウリアも、御前天使も無力化され自身の魔力は残り僅か。それでもダマーは諦めようとしなかった。その諦めの悪さを見ているうちに、貝紫にはむしろ憐憫の感情がダマーに芽生え始めていた。
「ダマー、君がこの世界に来た時、色んな人にあったはずだ。悪い人もいただろうし良くしてくれる人もいた。この世界で生きてきて、君にはその記憶は一つもなかったのか?」
貝紫の問いにダマーがこの世界での記憶をめぐらす。初めてこの世界に来た時、まだグラマトンが使え御使いと称えられた時、グラマトンを失って周りの失望の目、この世界を憎み、神に復讐しようと決意した時、そして、力を失い狼狽える彼を慰めてくれた顔も名前もおぼえてないスプリジョンの住人達……。
ああ、そうか。怒りと憎悪に我を忘れてスプリジョンで出会った様々な人々の事を忘れていた。
「そうか僕は、目の前にあった物が何も見えてなかったのか……」
ふらふらと危なげな足取りでサウリアの頭部に近づくと、労わる様にサウリアを撫でる。ようやく彼も自身の過ちに気が付いたようだった。
「だけど、それももう遅かった。ごめんよサウリア……」
「オオオオオ……!」
何やら小さな声でダマーがサウリアに囁く。すると、サウリアは無理やり突き刺さったゲオルグの槍を引きちぎり、ダマーを翼で包み込むように引き寄せた。
「僕は先に地獄へ行くよ。後始末は……君たちに任せるよ御使い君たち」
サウリアはダマーを身を寄せたまま身体を引きずり、サントロンの火口へと飛び込んだ。