5節目
「リオ オーラ!」
全身に重りをつけられたように貝紫達は地面に押し付けられた。そのまま全身が潰されそうな程の力で押しつぶされそうになる。
「うぐっ……!」
「グラマトンの力が失われても、素質のある子供を魔法で操ればいい。そのために魔法大学にはあらゆる方法で子供たちを集めさせてきた」
呼吸すらままならない中、貝紫は必死でグラマトンを呟く。
「リオ アム オーデ……!」
グラマトンの眩い光が貝紫から放たれ彼らを包むと、急に身体が軽くなった。邪悪な存在を祓う様な力だったはずだが、御前天使たちのグラマトンを無力化したようだ。間違った方法でグラマトンを使わせていることが影響しているのかもしれない。
「ちっ、悪あがきを!」
ダマーが手を振って指示を送る。
「行けサウリア! 僕の創った最高傑作のお前の力を見せてやれ!」
「グアアアア!」
サウリアと呼ばれた光り輝くドラゴンが口を開くと、炎が噴き出て貝紫達を襲った。
「みんな私の後ろに、伏せて!」
シノーメが前に出て盾を掲げる。大人でも一人丸々隠れられる程の大楯だ。ドラゴンが火を吹く事を予見して、クシャロで準備してきた物だった。それでも、表面はあっという間に赤熱化して、手にしているシノーメの腕を楯越しに焼く。
「うぐっ!」
「大丈夫かシノーメ!」
シノーメは両腕に耐火用の小手を装着しているが、その中の両腕はきっと焼け爛れて見れたものではないだろう。貝紫が癒しのグラマトンを唱えて、急いで傷を治す。
「ぐろろ!」
ハーラが脇から弓を射る。サウリアの顔を貫く寸前で御前天使のグラマトンで矢が弾かれてしまった。
「ははは、お前たちが束になってグラマトンを使っても僕の手下どもにすら敵わないんだ! 僕の指示一つで神の力さえ無意味だ!」
複数人の御前天使、ドラゴンのサウリア、それらを操るダマー。今まで会ったどんな脅威よりも手ごわいのは間違いなかった。
「お前は何も分かってない……!」
貝紫が叫ぶ。
「俺たちの全力はまだこんな物じゃない! それを今から見せてやる!」
貝紫、ロッソ、フランツは顔を見合わせると、それぞれの従者に向ける。信頼と忠誠心でつながった6人は、言葉を使わずともその意志をお互いにくみ取り合った。相手も複数人かもしれないが、それは全てダマーの指示で動く。だから実際はダマーは独りなのだ。仲間と呼べる者は誰一人としていない。その事を6人はダマーに理解させたかった。
「ヴォイ・ド ア シュマ クァバー!」
貝紫がグラマトンを唱える。仲間の身体能力を飛躍的に上げるグラマトンだ。それをシノーメ、ゲオルグ、ハーラの従者3人に力を与えた。
「何をしたところで無駄な努力だ。サウリア、終わりにしてやれ!」
ダマーの言葉に答える様に再びサウリアが燃え盛る炎を吹いた。さっきの様にシノーメが防ぐと思っていたが、今度は違った。
「ヴォイ・ド ア コルダー!」
それはロッソのグラマトンだ。サウリアの炎を正面からグラマトンの衝撃波でかき消した。