4節目
「そんな勝手な……この世界のみんながそれでどれだけ傷ついたと思っている!」
「その言葉、聖主様に言ってやりなよ。ここまでしても肝心の聖主は全く姿を見せない。本当に存在してるかも怪しい。いたとしてもきっと、退屈しのぎにこの世界を傍観してるだけさ」
貝紫達は何も言えなくなった。本当に聖主にとってこれまでの出来事は傍観する程度の物なのか。自分たちがこれまでこのスプリジョンの為にやってきたことは……自分たちがこの世界を救うために選ばれたと思ったことは単なる勘違いだったのか?
「主、そんなことはありません!」
従者であるシノーメたちが叫んだ。
「貴方と出会ったおかげで、私は騎士としての本分を知ることが出来ました。それは単なる神の気まぐれなんかではないはずです!」
「ロッソ殿の助けがあったからこそ、私はまだ生きていられる。その姿はまさに救世主そのものでした!」
「フランツ、私たちにチャンスくれた。だからフランツを、助ける!」
彼らだけではない。ミッカジ村の住人や聖教国のローレン卿、貝紫達のこの世界を救いたいという思いは、様々な人々に伝わっていた。それは単なる偶然や神の気まぐれではなく、彼らの行動が起こした故の確かな結果だ。
「シノーメ、ゲオルグ、ハーラ……そうだよな、危ない時もあったけれど、俺たちは自分の出来る限りのことをしたんだ。それは間違いない!」
貝紫は強い意志を持ってダマーに向き合った。
「俺はあんたの言う事が正しいとは思えない! この世界の人々だって争いなんか本当はしたくなかったはずだ! その人々の為に俺たちはあんたのやることを止める!」
そう言う貝紫に対し、ダマーは心底軽蔑したように笑った。
「おいおい、分かってないな。これは僕が主演の物語なんだ。最後に偽物の御使いたちを倒して、楽園を創る真の御使いの物語だ」
火口からあの光り輝くドラゴンが飛び出て来た。その背中には数人の御前天使、真の御使いの従者たちが乗っている。
「既にサントロンが噴火する準備は終えてある。君たちが来る数時間前に」
ダマーが告げる。予言における神の裁き、霊峰サントロンの噴火が起こる事を。
「何だって!?」
「君たちがどうしようが、もう運命は変わらない。神の裁きでスプリジョンは焼かれ、運よく生き延びた人間が僕の前に跪く」
僅かに地面が振動している。噴火までのタイムリミットはそう遠くないことを示している。
「後は予言通り、偽者たちを屈服させて終幕だ。台本通りにね」
ダマーが腕を上げて合図をすると、御前天使たちがグラマトンを貝紫達に向かって唱える。