3節目
「グラマトンの力を使ってか?」
グラマトンという言葉を聞いて、真の御使いは僅かに顔を歪めた。
「そうだよ。この世界に来た時、僕はグラマトンの力で各地の紛争を止めて回った。その力は本当にすごかった。まさに魔法、それ以上だったよ」
「それが、何で今になってまた戦争を起こすようなことを?」
「それは少し違うな。聖教国から諸侯同盟が分裂したのは彼らが自分たちで決めた事だ。元いた世界でもそうだったように、結局人間は何処の世界でも争いを始めてしまうんだよ。だから救世主が必要だったんだ。裁きという罰を受けて、ようやく懲りた人間たちは御使いという救世主に導かれて正しい道を歩んで行けると」
「だからって、わざわざこんな方法は間違ってる!」
「そうだ! 現に俺たちはもう少しで戦争を止められるところまで来ていた! それを邪魔したのはお前の方だぞ!」
ダマーはため息をついた。まるでこちらが何も分かってないと言わんばかりに。
「それじゃあ駄目なんだよ。いずれまたすぐに争いは起こる。きっと100年も経たないうちにね」
「そんなん分からないだろう! それにあんたもグラマトンの力が使えるなら、それを使ってもっと直接争いを阻止すればいいじゃないか!」
貝紫の言葉を聞いてダマーは突然笑い出した。それはどこか怒りにも似た哄笑だった。
「あっははははは! 君たちは知らないんだ。グラマトンはね、子供の内しか使えないんだよ。僕はもうグラマトンは使えないんだ」
グラマトンが使えない? ただでさえ使うには素質が必要らしいのに、それでも時が経てば使えなくなるという事を。貝紫たちはkの時初めて知った。
「言っただろう? 僕がこのスプリジョンに来たのは数百年前だよ。それからずっとこの世界で生きて来た。内乱を止めて数年経った頃、突然グラマトンの力が僕から失われた」
「でもあんたは全然若々しいじゃないか」
「何でだろうね。僕がこの世界の人間じゃないからかな? それは僕をこの世界に呼んだ聖主にしか分からないよ。呼ぶだけ呼んでおいて、役目を終えたら用済みと言わんばかりに力を奪ったこの世界の神……」
ダマーは叫んだ。それは貝紫達にというより自分をこの世界に呼びよせた神、聖主に向かって。
「僕の事を弄んだこの世界の創造主! 今度は僕の番だ! この世界を僕の好きなように弄んでやる! これは復讐なんだ!」
聖主への怒りと憎悪。それがダマーにこんな破滅的な手段を取らせたのだ。
「魔法だけはこの世界の人間と同じように使えた。この世界の魔法も、元はグラマトンを人為的に再現するための力に過ぎない。それでグラマトンの研究をしていく内に、魔法で御使いに近い偽物は作れるようになった。魔物はその副産物だ」
聖教国の魔法大学で見た聖歌隊、そして魔物。それも真の御使いダマーが創ったものだった。
「聖主がそうした様に、僕もこのスプリジョンに色んな物を創ってやったんだ。生命や御使いを創れるのは何も聖主だけじゃないというわけだ」