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霊峰サントロン。スプリジョンと呼ばれる世界で一番最初に創造主という存在が造り、降り立ったと言われる聖地。スプリジョン北部の山岳地帯の半分はこの火山が占めているほどで、そんな火山が噴火したのならば、スプリジョンはほとんどの地域が影響を受ける。それは人によってはまさに神の裁きと呼ぶのにふさわしい物なのだろう。
所々で硫黄の雲煙が噴き出し、生き物の侵入を拒むこの地が聖地と呼ばれる様になったのは、人間には計り知れないその存在感と雄大さだけが理由ではないだろう。過酷な環境が人々に畏怖の念を抱かせる。
「山登りなんてボーイスカウト以来だな。それでもこんな危なそうな場所は来たことがないよ」
「あんまり煙を吸うなよ。ただでさえ危険な毒ガスかもしれないのに、もしも吸って喉が焼けたら、グラマトンも使えなくなってしまうかもな」
ロッソの言う通り、グラマトンの力を使うには声を発しなければいけない。高温のガスでも吸って喉をやけどしたら、グラマトンを使うのに支障が出てしまう。そうした危険を警戒しながら、少しずつ山頂へと6人は向かって登っていた。
「クシャロでも、山頂付近で光る物体が飛び回っているのを人々が見かけているので、あの御使いを名乗る者を乗せたドラゴンは間違いなく山頂付近を飛び回っているはずです」
「真の御使いだか何だか知らないけれど、俺たちがせっかく戦争を止めてたのを邪魔しやがって……!」
「目的は何なんだろうね~わざわざ予言の通りに動かなくてもいいのに~」
いずれ起こることが予言なのだから、それが危険な物だと分かっているならむしろ止めようと思うはずだ。危険を承知で予言の通りに物事を進めるなんて、あの御使いを名乗る存在は何を考えているのか……。
「俺は思う。その予言を考えたのはきっと、あの御使いを名乗る奴だって」
貝紫が口を開く。
「自分の自作自演で人を操って、それで起きる結果を予言だって言ってるだけだと思う」
だから貝紫たちが予言に反するような行動をしたから、あの真の御使いを名乗る存在は自分から動かざるを得なかったのだろう。
「俺たちがこの世界に来たのは、この世界をそういう悪い方向へ動くのを防ぐためなんだと思う」
「へへ、多分そうだろうな」
「悪いことするなんて知ったら、見逃せないよ~」
スプリジョンを守るため、まさに本当の救世主としてこの世界に呼ばれたのなら、その役目を果たしたい。貝紫たちの思いはその一つに集中していた。