7節目
聖都オズマよりさらに北、聖教国の最北にある町クシャロに着いた。ここまで来れば霊峰サントロンも目前だという。火山であるサントロンが近いせいか、ここは温泉が湧き出ていて、霊峰に向かう者はこの町の温泉で身を清めるのが習わしという。
「こんな状況じゃなかったら、もっと寛いで温泉に入れたのにな」
「万事終わったらまたここに来ればいいんだ。その時は戦争も終わるし、ゆっくりくつろげるはずだ」
グラマトンが使え御使いと呼ばれ、ただ漠然と戦争を止めるためにスプリジョンを旅してきたが、元の世界に帰る事は出来るのだろうか。ロッソもフランツも薄々感じているはずだが、誰もそれを口にする者はいなかった。
「なあ、もし元の世界に戻れなかったらその時はどうする?」
クシャロの温泉に3人で入っているとき、貝紫はぽつりと2人に聞いてみた。
「急にどうした? 元の世界、か……家族はどうしてるんだろうな」
「そう言われると、もう何か月も僕たちこの世界にいるけど、他のみんなはどうしてるんだろうね~」
そして3人は黙り込んだ。ふと元の世界、自分たちの家族、知人たちの顔を思い出す。他にスプリジョンに来ている知り合いはいるのだろうか。それとも自分達だけ? 何故自分たちが? よくよく考えれば未だ疑問は尽きない。
「その時は、元の世界に帰れる手段を探せばいいって事だ! グラマトンは凄い力なんだから元の世界に帰れる力の一つくらいあるだろうさ!」
「そうなったらきっと自由にこの世界と行き来できるようになるかもね~」
ロッソとフランツがそう言ったのを聞いて、貝紫も前向きに考える事にした。戦争が終われば、元の世界への帰る手段を探すことに専念できる。そうやって少しずつ目の前の物事を片付けていけばいいだけだ。
「そうだよな、変な事聞いて悪かったな二人とも」
「帰れなくても俺たちは世界を救う救世主になるんだから、そうなったら俺は王様になって楽しく暮らしたいな!」
「僕はオーディナの人たちと一緒に生活していきたいな~」
この世界でもまだまだやりたいことはたくさんある。だからこそ、ただ元の世界に帰るためだけでなく、この世界を守るために自分たちはサントロンへ向かうんだ。
その時はシノーメと一緒にもっとスプリジョン、この世界を見て回りたいと思った。ミッカジ村でお世話になったムークにもまた会いたいと貝紫は思った。
温泉を上がりクシャロで一晩過ごした後、ついに霊峰サントロンの尾根まで彼らはたどり着いた。