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美少年の声は世界を救うようです  作者: 八田D子
盾教者の合奏曲
10/114

2節目

 騎士見習いになりたての頃は順調だった。少なくとも高名な騎士の家系と言う自負が、シノーメには

あり、当時は熱心に騎士修行に取り組んでいた。互いに練習用の木剣で打ち合う稽古でも、歴史や騎士道を学ぶ

学業でも、他の見習いたちより優れていた。実際に戦場に出るまでは。

 やがてシノーメも一人前の騎士として叙任され、聖教国と諸侯同盟の戦争へ参加することになった時、

とある騎士の従騎士として戦場へ出た。

 戦場で主人が流れ矢を受けて馬から落ち、一人の敵兵がその隙をついて追い打ちをかけてきた。

シノーメはもがいている主人を守るために飛び出して、敵兵を押し倒すととどめを刺そうとした。

 その時の敵兵が死の恐怖におびえる顔が、今も鮮明に脳裏に焼き付いて離れない。相手の恐怖が伝播した様に

シノーメにとどめを躊躇わせ、長い沈黙が続いた。その間に主人が起き上がり、自分の代わりに

敵兵のとどめを刺した。浴びた返り血と共にまるで呪いの様に、戦いに対する怯えと忌避感がシノーメに生まれた瞬間だった。

 この時はまだ主人を助けようとした事や初めての戦場という事もあって、主人や仲間で非難する者は少なかった。

だが、すぐに前線から距離を取ったり仲間に加勢しようとしないシノーメに、どんどん反感を持つ者が現れ始めた。

 誰もが必死で戦っている中、シノーメは殺すことも死ぬことも恐ろしくなって、戦場を逃げ回る

事しかできなかった。

 騎士である者が非協力的では味方の兵にも示しがつかない。訓練では優秀なこともあったせいか、

それが却って周りから目の敵にされ、戦場では腰抜け、臆病者と蔑まれ次第に孤立していった。

 それでもシノーメはどんなに味方から詰られて挑発されても、自分から剣を抜くことすらできなかった。

剣を取ろうとしても、あの時の恐怖におびえる敵兵の顔が鮮明に浮かび上がり、腕は震えて動かなくなった。

 やがて、その事が家の耳にも届き当時領主だった父に呼び戻されると、顔を合わせた瞬間有無を言わず殴られた。

 家名に泥を塗ったことを説教され、奮起せよと叱咤されても無気力に顔を背けるシノーメの態度に、

厳格な父は怒りと失望を露にした。会話もほとんどないまま、すぐに戦場へ戻されたが、もはや騎士として

ではなく、囚人や奴隷と言った使い捨てのような者たちと共に、危険な斥候や輸送をするようになった。その後も彼は戦場で逃げ続けた。

時には任務や仲間すら見捨て、敵や味方からあざ笑われ蔑まれても逃げ続けた。ある時、自分のいた

部隊が奇襲を受け、壊滅状態になったときその混乱に乗じて、ついに彼は戦場そのものから逃げ出した。

 逃げた先は聖教国領内の山の中。独りあてもなく彷徨い、疲労による不注意から山賊たちの仕掛けた

罠にかかった。捕まったときは敵である諸侯同盟の騎士だったため、如何に残酷に殺そうか話し合われた。

 それでも命が助かったのは彼が文字の読み書きができるためだった。シノーメが命乞いをする中で

それに気づいたデフトンの一声で、彼はウーサブル山賊団に入ることとなった。

 だが、元々敵であり、一番下っ端となったシノーメは戦場から逃げる前とほぼ変わらず、陰では

蔑まれ時には容赦なく殴られた。

 つらい生活だが、死への恐怖で自ら死ぬことも出来ず生き地獄の中をシノーメはもがき続けていた。

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