1-6 魔獣の森2
ストックが無くなりました。次は書き終わったら投稿します。
ガィンッ……
しかし、ボーンラビットの突進は魔防服によって止められる。
「あ、危な……。」
だがボーンラビットは諦めず、噛みついたり爪で引っ掻いたりする。しかし、魔防服が壊れる様子はない。
魔防服は、脆いものもあれば堅いものもある。値段によってかなりの差があるのだ。今回着ているのは並程度の魔防服だが、ボーンラビットの攻撃を防ぐには十分すぎる程の堅さだ。
とは言え、角を向けられて突進されたり、鋭い牙で噛みつかれたり、鋭い爪で引っ掛かれたりというのは、見るだけで怖いものだ。
「俺がボーンラビットをやる!」
そう言ったのは紫色の髪の少年、ポイゾ·ベノンだ。
「お、ポイゾか。良いぞ。」
「助かるよ!」
グラスはボーンラビットに気を取られ、ネイルバットの接近を許してしまっていたが、ベノンの言葉を聞いて余裕ができたのか、ボーンラビットに葉を飛ばし自分から引き離すことに成功する。
「頼んだ!」
グラスはそう言うとネイルバットに対処し始める。
ベノンは、毒の塊を刃の形にしてボーンラビットに向け飛ばすが、避けられてしまう。毒の刃が当たった地面は、溶けるように柔らかくなって切り傷が残る。
「チッ!ならこれならどうだ!」
ベノンは毒の塊を生み出し、それを撃たずに辺りに漂わせる。それを何回も繰り返すことで、沢山の毒の塊を一斉に撃つことができる。
ボーンラビットは逃げようとするが、毒の塊からは逃げられずにやられてしまう。
「これでトドメだ!」
ネイルバットも、根を突き刺されてやられていた。
「チッ、思ったより魔力がキツくなってきやがった。」
「まあ、あれだけ維持してたらな。魔法って生み出す時だけじゃなく、魔法を維持してる時も魔力を使うのが怠いよな。ちなみに維持に魔力を使わなくて良い方法はあるが、それはかなり高度な技術だからな。
さて、後はアニマだけか。じゃあ魔獣を探すぞ。」
「あの、も、もう魔法使っても良いですか!」
「ああ、お前動物の魔法を使えるんだったか。良いぞ。魔力切れには気を付けろよ。」
「はい!ま、魔力の量だけには少しだけ自信があるのでだ、大丈夫です……。お願い、ポッチー!」
マルンはそう言うと、魔法で狼を生み出した。狼とは思えないほど目が可愛くなっているのは彼女の趣味なのだろうか。動物を生み出す場合、その能力は魔法使いの技量と魔力量によって左右される。
生み出された狼は、地面に鼻をつけ、臭いを嗅ぎ始める。すると、魔獣の臭いを嗅ぎとったのか、顔を上げてマルンを見つめ始める。
「魔獣の臭いがわかったの?ポッチー、偉いね!」
そう言うとマルンは狼を撫でる。そして気持ちを切り替えたのか、真剣な表情になる。
「それじゃポッチー、案内して。」
マルンがそう言うと、狼が走り出す。そこまで速度を出していないのは、マルンに合わせているのだろう。
少しして、魔獣が見えた。蛇の魔獣、スナイクだ。
「あれはスナイクだな。来るぞ、奴の攻撃が。」
スナイク。それは蛇の魔獣で、第一地帯の中だと最も厄介な魔獣だという者もいるくらいに厄介な魔獣だ。
特徴は、その毒針を使った遠距離攻撃だ。尻尾に当たる部分が、その毒針を射出する機能を持っている。その毒が非常に強力で、少し触れただけで危険だ。
射出速度はそこまで速くないのだが、その針の鋭く尖った形状により、一定の貫通力がある。
更にこの針は、非常に細いので中々見えづらく、針に気付かずにやられてしまうということが多発する。
そしてスナイクは、生物を感知する特殊な器官を持っており、その範囲はそこそこ広い。おまけにスナイクは素早いので、スナイクを見つけて追いつき殺すことは結構難しいのだ。
「スナイクは毒針を撃ってくるぞ。気を付けろよ。」
マルンは毒針を警戒したが、それでも反応できずに魔防服に当たる。そんなマルンを見て、スナイクは逃げ出そうとする。
「くっ……ポッチー、アイツを倒して!」
マルンがそう言うと、狼は今まで抑えていたスピードを全開にして、スナイクへと迫る。スナイクは素早いが、狼には敵わなかった。近接戦闘は弱いので、狼にあっさりとやられる。
「ふぅっ……お、終わりましたぁ。」
魔法を消したマルンは、緊張の糸が切れたのか、その場に座り込む。
「アニマ、気持ちはわかるが座り込むのは危ないぞ。」
「は、はい。す、すみません……。」
「まあ仕方ないことだ。魔力をかなり消耗しているようだしな。ただ教師として注意はしておかなくてはならないんだ。許してくれ。
それはそうと、さっきの索敵からの魔獣の撃破、見事だった。凄いぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
「ああ。んー、どうするか。」
マギは時計を見ながら何か考え込んでいるようだ。
「どうかしたんですか?」
そう言ったのはグラス。
「ああ、お前らが優秀だから、時間が結構余ってんだよな。このまま帰っても良いが、お前らが見たいならちょっと見せたいものが有るんだが。どうする?」
───
ドドドドドド……
次々と水が地面に叩きつけられる。
「これが水恵木か……。」
グラスが、そう感嘆の声を上げる。
「すげぇ迫力。」
と、ベノン。
「実際に見てみると違うものですね。」
と、マテリア。
「す、凄いです……。」
と、マルン。
(これは凄いな。あの川はこの木から流れてたのか。)
と、アル。
周りの木と比較すると、その高さは低い。しかし、それでもかなりの高さがある。およそ20メートル程だろう。
水恵木とは、木から水を流している木のことである。この水は木の魔力で作られている。
第一地帯に水恵木があるのは珍しいため、この場所は魔法使いにとってのちょっとした観光地となっている。
「少し飲んでみるか?体に害は無いし、初めての魔獣の森なんだ。思い出にもなるだろう。飲みたいやつは手を挙げろ。」
すると全員が手を挙げる。
「よーし。じゃあ流れてるのを直接水筒に入れてくる。勝手に動くんじゃないぞ。何かあった時はこれを押せ。」
マギはそう言って、一面の真ん中が丸いボタンになっている直方体の物、送信魔具をマテリアに渡した。
送信魔具とは、登録してある着信魔具に信号を送ることができるようになる魔法が施された道具である。
「じゃあ行ってくる。」
───
マギが水を取りに行ってから少しして、皆が水恵木を見ながら待っていると、グラスが何かを見つけたようだ。
「見てよ、あれ。凄いでかい岩だ。でかいのは木だけじゃないんだ。」
グラスが指差す先には、横に長く、上側がゴツゴツとしている大きな岩があった。少し遠い所にあるので、木が邪魔をしてアル達からは上手く見えないが、それでもかなり大きいということだけは分かる。
「確かにでけぇな。」
「あ、あれ何メートルくらいあるんでしょうか。」
マルンの疑問にアルが答える。
「横の長さは5メートルくらいだと思う。高さは2メートルくらいかな。」
「そんなことどうでも良いです。」
しかしマテリアが水を差す。その時、マギが戻ってきた。
「おーい。水入れてきたぞー。早速飲もう。」
そう言ってマギは全員に水筒を渡した。
「……美味しいですね。」
「うん。美味いよこれ。気のせいじゃないな。何か少し甘い感じがするな。」
「そうか?俺は少し辛い感じがするけどな。」
「わ、私も甘い味がします!」
「俺も甘い味だ。」
「はぁ!?俺だけかよ。別に俺の味覚はおかしくねぇぞ!」
「あぁ、それは魔力が染み込んだ物の特徴だな。意思がない無機物などは、それに染み込んだ魔力を使えないから、その染み込んだ魔力がそれを口に入れた者のイメージを少しだけ反映するんだ。
まぁ詳しいことはまだ分かってないんだけどな。」
(魔獣のステーキが好きな人がいるのは噛み応えがあるからだけじゃなく、イメージした味に近づくからってのもありそうだな。)
「まあお前らが気に入ってくれたなら良かった。良い思い出になっただろ。今は……よし。丁度良い時間になったし帰るぞ。」
こうしてアル達は、初めての魔獣の森の冒険を終えた。