1-3 夢灯
しかしアルは土の壁をつくりそれを防いだ。
「早く諦めたらどうですか?私の勝ちはもう確実です。」
アイセはそう言いながら土の壁の横側に移動してきた。するとその瞬間、アイセに向かって土の槍が放たれた。その槍は壁によってアイセからは見えず、アイセの不意をついた。
「っ!」
しかしアイセはそれを、身体をそらして間一髪で避けた。
「危ないですね。もう少しで当たる……。」
アイセがそう言いながら体勢を戻そうとすると目の前にはアルがいた。
「なっ!」
ゴッ!
アルはアイセを思いっきり蹴った。すると、アイセの魔防服が消えた。
「な、何故動けたのですか……。」
アイセは今起きたことが信じられないのか、呆然としている。するとアルが足を前に突きだした。アイセがアルの足を見ると、燃えていた。
「こういうわけだよ。」
「土だけでなく火も生み出せるのですか!?しかも足から魔法を発動できるなんて……。」
足に魔法を纏わせることは、手に纏わせるよりも難しい。しかし、手から魔法を放つより、足に纏わせる方が簡単である。にも関わらず、アイセが驚いているのは二つ目の物質でそれをしたからだろう。
第五クラスにおいて、きちんとした魔法として二つの物質を生み出すことができる者は、アル以外にいないだろう。
そしてなかなか出てこないアル達にブランが怒鳴る。
「おい、早く出てこい。次がつっかえてるんだ。」
ブランが大きな声で怒鳴ると、アルとアイセは慌てて出た。
───
「それじゃあ、お前らの順位を発表する。」
あの後、クラス全員が模擬戦を行ったが、その大半は魔力が尽きて結局殴り合いで決着が着くというものであった。これは、技量に欠けていることにより起こる魔法の射出速度と、戦闘経験の不足が原因となって起こるものである。
「それじゃあ行くぞ。一位、アル、二位、コール·アイセ、三位、エレガトロ·アレクサンダー、四位、バーン·フレイマー───最下位トウィーク·エリー、順位は以上だ。何か質問は?」
すると何人かの手が挙がった。生徒の一部がざわついており、険悪な雰囲気が漂っている。
「じゃあまずお前。」
ブランが指を指すと、その先にいる生徒が立ち上がる。その顔は険しく、どうやら順位に納得していないようだ。
「はい。僕は模擬戦に勝ちました。なのに何故負けた人より順位が低いんですか!」
「あぁ、順位は勝ち負けだけでは決まらない。一人一回ずつの試合の勝ち負けだけで順位がつけられるわけないだろ。入学試験の時、実力は見てるから大体検討ついてる。
今回はその実力が近いやつ同士でお前らは戦った。だから勝ったやつ全員が負けたやつ全員より強いと決まる訳じゃねぇってことだ。わかったか?」
「……わかりました。」
その生徒は渋々といった様子で着席する。理解はしたものの、納得はできていないようだ。
「他に質問はあるか。」
複数挙がっていた手は一つも残っていなかった。手を挙げていた全員が同じ質問をしたかったのだろう。
手は下ろされているものの、他の手を挙げていた生徒も、先程の生徒と同じで納得はできていないようだ。
「よし。明日からは授業が始まるからちゃんと教材を持ってこいよ。じゃあ解散だ。帰っていいぞ。」
ブランがそう言うと、生徒達は素早く帰りの準備をし始める。
そして生徒達の多くが向かうのはこの学校の寮だ。沢山の施設、美味しいご飯、そこそこ広い部屋、安い料金。更に実力によって割引もあるという。この寮はとても評判が良いのである。
「はぁーあ。」
ドスッ
アルは自分の部屋に着いて早々ベッドに倒れた。
(まずはクラスで一位をとった……。でもそれは当たり前のことだ。本番はここから。ここから強くなっていずれ最強になる。超えるべき目標はベスター·グレイ。現代最強にして史上最強らしいけど、俺なら超えられる。
そのためには───)
アルが長い間考えている内に、寮で決められた夕飯の時間になっていた。アルは三十分程過ぎてからそのことに気付き、慌てて食堂へ向かう。
───
アルが時間に遅れてしまったことを謝罪すると、特に怒られず許してもらえた。アルがほっとしたのは言うまでもない。
「まあ別にこんぐらいの遅刻なら全然構わないさ。二時間も遅刻してくる馬鹿もいるんだ。こんぐらい可愛いもんさ。ただ毎回遅刻するのはやめてほしいね。ああ、用事があって遅れそうな時は言ってくれよ。そんときは別な対応をするからさ。」
そう言ったのは、食堂の料理人である女性ターント·タベナだ。茶色い髪と目で、気さくで話しやすいおばちゃんだが、年齢についての話は機嫌が悪くなるので禁句とされている。
「ありがとうございます。日替わり魔獣ステーキ猪をお願いします。」
「ああ、それはお前さんにはまだ早いね。」
「え?早いってどういうことですか。」
「魔獣ってのは魔力を使える理性の無い生物だってことは知ってるかい?」
「はい。」
「そいつらの肉はめちゃくちゃ硬いのさ。だからお前さんじゃ硬すぎて食えないって訳さ。」
「何でそんなものを売ってるんですか?」
「魔獣ステーキは武器を使って戦うやつらのためにあるんだよ。そいつらは馬鹿見てぇに力が強いんだが、顎の力も強いんだ。普通の肉じゃあ噛みごたえが無いらしくてね。だから魔獣ステーキがあるのさ。」
「初めて知りました。勉強になります。じゃあ豚のしょうが焼きとご飯を一杯お願いします。」
「あいよ。役に立てたなら良かったよ。じゃあ作って持ってくるから待ってな。」
───
「ふぅ……。」
(腹一杯だ。それにしても旨かったなぁ。噂の通りだ。)
食堂の料理を腹一杯食べたアルは笑顔を浮かべていたり今までろくなものを食べてこなかったアルにとって、食堂の料理はとんでもないご馳走であった。
(なんか疲れたし、体洗ってさっさと寝るかな。)
初めて魔法を使った戦いをしたということもあり、アルは疲れていた。そのためアルは体をお湯で流し、寝る準備をしてさっさと寝た。
───
サァァァァ……
(あれ。何だここ。何もないな……。ていうか頭がぼんやりしてる。)
気づくとアルは白い空間の中にいた。その空間の中で何かが動いている。
(何だこれ。)
それに意識を向けるアルだったが、それを詳しく認識しようとしても上手くいかない。その何かの色、形すらわからないのだ。
しかしアルはその何かに妙に惹き付けられていた。無意識の内にアルがそれに手を伸ばし触れた瞬間、白い空間が段々と黒に染まっていく。
ピシッ……パキパキ……バリバリ……
(な、何だ!?)
黒はかなりの速さでアルに迫り、アルを呑み込んだ。
(うわ!?)
しかし特に何か起こるという訳ではなく、アルは何も感じなかった。しかしそのすぐ後、アルは信じがたい物を目にし、驚愕する。
(え?俺?)
その黒の中でアルが見たものは、自分が深い傷を負い、血塗れになっている姿だった。そしてその〝アル〞はこちらに向かって手を伸ばして───