1-1 入学
───総合魔導学校
それは、数ある魔法について学ぶ学校の中でも現在一番レベルが高いと言われる、エリートが集う学校である。一番と言っても、他のトップレベルの学校と大した差はないのだが。
かつては、最も魔法が栄えていた国である、マギパスト魔導帝国に存在したマギパスト魔導学校がブッチギリの一番と言われていた。
しかし、マギパスト魔導帝国は現在内乱で滅んだ後で、マギパスト魔導学校もなくなった。そのため、総合魔導学校が一番と言われている。
───
総合魔導学校には様々な人種の中のエリート達が集められており、最も数が多い平人族は勿論、森人族、山人族、獣人族等がいる。
そんな総合魔導学校の初等部に、アルは入学することになった。
というのも、魔力暴発事件から二年が経ち、アルは自身の魔力を制御できるようになった後、調査を行った結果予想された通り、アルの魔法に関する適正が非常に高いことが判明したからである。
そして今日、アルは入学式を迎えていた。
ザアザアと雨が降る。アルは総合魔導学校の入り口である門の前で思わず立ち止まった。その門は非常に大きく、豪華な装飾品が施されており、門の両端を繋ぐ横断幕には『入学おめでとう!』の文字がでかでかと書かれている。
(凄い金かかってそうだな……。)
そんなことを思いつつ、アルは門を潜り自分の教室へと向かう。
───
アルのクラスは一年第五クラス。アルがその教室に着くと、既に何人かの生徒が教室の中にいた。そしてアルは自分の席を探し、座った。
(先生が来るまで暇だな。魔力を練るか。)
魔力を練るというのは自身の魔力の密度を高めることができる方法で、魔力の密度を高めることで瞬間の魔力を放出できる量を増やすことや、より多くの魔力を体に取り込むことが可能になる。
少ししてチャイムが鳴った。すると教室に教師であろう男性が入ってきた。その男性は、短髪で髪が青くボサボサしており、その目は赤くこちらを睨み付けているかのように鋭い。とても教師とは思えない出で立ちである。その男性が早速口を開く。
「お前ら、まずよく話を聞けよ。二回話すのはめんどくさくて嫌いなんだ。じゃあいくぞ。俺は今からこの学校について説明する。
そんでその後九時になったら入学式があるから魔導館っていう、まあバカ広い部屋に行く。今八時半だから後三十分ぐらいだな。そんでこの学校についての説明だが、一言で言うと超実力主義だ。
強けりゃ金貰える。就職とかもめっちゃサポートされる。後授業で高価な道具を使える。で、弱ければそう言うのは特に何もない。
そんでこの学校には序列っていう生徒の強さをランク付けする制度みたいなもんがあるんだが、このクラスはその最底辺の奴らが集められたクラスだ。まあ俺からは何も言うことはねぇが。
まあこんな感じで説明は終わりだ。じゃあ九時になったら移動するからそれまで好きにしてろ。あぁ、後俺の名前はトート·ブランだ。覚えなくても構わん。じゃあこれで終わりだ。」
ブランがそう説明し終えた途端、教室内が騒がしくなる。一番の話題は、自分達が最底辺だと言われたことについてである。
先程も述べたが、この学校には様々なエリート達がおり、殆どの者が自分は特別だという意識を持っているのだ。そのため自分が最底辺だと言われたことが信じられないのだろう。そんな中でアルは異なる考え方をしていた。
(底辺と言っても、ここから俺が抜かしていけば良いだけのことだ。)
そしてそんな中、アルに話しかけてくる者がいた。つやつやとしている長い金髪に、キリッとした青い目、中々の美少年である。
「そこの君。僕程とはいかずとも、中々に美しい魔力を持っているじゃないか。名前を聞こう。」
「え、俺?」
アルは突然のことに聞き返してしまう。
「当たり前だろう?君と僕以外、このクラスには大したやつがいないだろう。それにこの僕が名前を聞こうと言ったんだ。早く答えたまえ。ああそうか。僕の名前をまだ名乗っていなかったねぇ。
僕の名前はエレガトロ·アレクサンダーさ。アレクと呼びたまえ。それで君の名前は何だい?」
アレクがそう言うと他の生徒達がこちらを睨み付けてきた。
「お、俺はアルだけど。」
「アル……か。名字はなんだい?」
「いや、俺名字が無いんだよ。親がいないし名字もわからないからさ。」
この世界では、名字がわからない者も、大人になるまで自分で名字をつけることができないのだ。
「ほう、ということは良い環境で育ったわけではあるまい。良くそこまで至ったものだ。まあ僕ほどではないがね。」
そうアレクが言うと、他の生徒の一人がこちらに近づいてきて話しかけてきた。その生徒は燃え上がる炎のような形をした赤い髪、肉食獣のように鋭い赤い目で、動物のような耳が生えている。
他の種族に比べ、非常に高い身体能力を持つという傾向がある獣人族の者だろう。
「おいおい、そんなやつが俺より大したやつだって?どうやらお前の目は節穴らしい。そんでそんなお前も俺より強いわけねぇよな。」
それに対し、アレクは呆れたように応える。
「全く、互いの力量の差もわからないとはね。どうやら僕の見立てに間違いはなかったようだね。」
「何だと。なら俺と戦おうじゃねぇか。そしたら白黒はっきりつくぜ。」
「ああ、良いだろう。」
アレクがそう応えた瞬間、ブランが大声で言う。
「待て。お前ら、やるなら後でやれ。そんでそろそろ行くぞ。入学式をやるのは技能鍛練場だ。結構使う頻度高いから道を覚えておけ。さあ廊下に一列で並べ。順番は来た順で良い。」
腐ってもエリート、今にも決闘を始めようとしていた二人も気持ちを切り替えて素早く列に並んだ。
「分かっているとは思うが式中は静かにしろよ?じゃあ行くぞ。」
───
入学式が始まり、校長、来賓が挨拶をした。来賓の中には高名な魔法使いもおり、生徒を興奮させていた。そしてアルが気になっていた、この学校の主席が壇上に上がる。
(あいつがこの学校の中での一位か……。まずはあいつを超えることを目標にしよう。)
アルがそんなことを考えている間に主席の挨拶が始まった。
「俺はスクロング·フレイと言います。この学校で主席をやらせてもらっているものです。この学校に入学できた皆さんは、今までいた環境の中ではトップに立つ程優秀な人達なのかもしれません。
しかしここではその考え方を改める必要があります。何故ならばここに集まった皆さん全員がそのトップ、またはそれ以上のレベルなのですから。必死に努力をしてください。
そうしなければ置いていかれてしまうでしょう。この実力主義の学校で、置いていかれるとは何を意味するのか。それは皆さんのご想像にお任せします。皆さんが良い学校生活を送れるよう祈っています。ご清聴ありがとうございました。」
そして入学式が終わる。するとブランが手を叩き、クラス全員に指示を出す。
「これから教室に戻るわけだが、お前らは最後だ。まあ底辺のクラスだから仕方ないな。ああ、そうだ。アレク、フレイマー、お前ら戦うとか言ってたな。まだ戦うつもりか。」
フレイマーというのは先程アレクと戦おうとしていた生徒の名である。
「当たり前だろ!こんな奴ぶっ飛ばしてやる!」
「威勢だけは一丁前のようだ。結果は見えているが、実際に戦わないとわからないようだから仕方ないね。」
「何が結果は見えてるだよ。やめといた方が良いぜ。負けた時に余計恥をかくだけだ。」
「口喧嘩はそこまでだ。お前ら二人が戦いたいって言うなら丁度良いな。これからクラス全員で一対一の模擬戦を行う。アレクとフレイマーはそこで戦えば良い。」
「へえ、良いな。こんな奴言い訳もできないぐらいぼこぼこにしてやる。」
「口先だけなら何とでも言えるね。何を言おうが結果が伴わなければ意味が無いよ。」
「それじゃグラウンドに移動するぞ。」
ブランがそう言うと、二人は途端に静かになり互いを睨み合っていた。