1-11 魔獣の森5
ロックダイルが突っ込んでくる。アルはロックダイルに向けて泥を大量に放った。するとロックダイルは、泥を回避しながら岩を放ってきた。
「うぉっ!?」
ロックダイルが放った岩はアルが放った泥に隠れて、アルからは見えずに当たりそうになったが、その岩は別の岩によって防がれた。
「先生。」
「おう、アル。すまん!実を言うと俺は諦めかけてたんだ。教師なのにな。でも、お前が戦う姿を見て目が覚めたぜ。生徒が必死に戦ってんのに、教師の俺が戦わないでどうする!」
マギは立ち上がる。
「それはありがたいです。勝つ確率が上がりますから。」
「おう。今までの分を取り返す!」
ロックダイルは岩を放ち続けていたが、マギの岩に防がれ続けていることに痺れを切らしたのか、再び突っ込んでくる。
アルはまた泥を大量に放つ。そしてロックダイルがまた回避しながら岩を放ってくる。そしてそれをマギが岩で防ぐ。
そんなことを繰り返しつつ、アルはマギに作戦を伝える。
「俺はあいつを殺せるかもしれない秘策を思いつきました。そこで隙を見てあいつの後ろに回ってください。」
「わかった。すまんな、俺が打開策を考えるべきなんだが。それで、ただ後ろに回って終わりじゃないだろ?」
「かなりロックダイルに近づいてもらう必要があります。岩を放つ攻撃は俺でも対処できるので、先生にはロックダイルが後ろに下がれないようにして欲しいんです。」
「それなら、岩を後ろから放つとき岩を維持し続ければ良いか?」
「そうですね。それをロックダイルが後ろに下がれないぐらいお願いします。」
「わかった!任せとけ。教師の意地を見せてやる。ちなみに秘策ってのはなんだ?」
「それは───です。」
「なるほどな、気づかなかったぜそんなこと。俺もまだまだ未熟だな。じゃあ俺は今からやつの後ろに回る。」
「はい。お願いします。」
「おう。」
マギはそう言って少しずつロックダイルの後ろに回っていく。そして岩を放っていく。ロックダイルの動ける場所がどんどん狭くなっていく。
(まだ逃げ場は残ってるが、後もう少しだ。)
そしてロックダイルが突っ込んでくるところに、アルが泥を放った。そこでロックダイルが、今までとは違う行動を取った。
泥の中を突っ切ってくる。
(その行動は予想してたけど、もうかよ!作戦を見切られたか?だが大丈夫だ。この距離なら十分攻撃は避けられる。)
そこで、ロックダイルは地面を爆発させると同時に、自分の後ろ足のかかとを爆発させ、加速した。
「はっ!?」
(まずい!コイツ!?ギリギリ……。)
アルは急いで攻撃を避けようとする。
ザッ……
「ぐっ……。」
攻撃の直撃は避けたものの、かすかに当たってしまった。
(危ない。アレクにあのトレーニング方法を教えてもらう前だったら直撃してた。)
「大丈夫かアル!」
マギがアルを心配する声を上げる。
「少し当たっただけです。問題ありません。」
(くそっ、コイツなんて厄介な敵なんだよ!)
「ギュラァァァァ!」
アルにはその咆哮が、俺には勝てないと言っているような気がした。
「ふざけんな、やってやるよ!」
ロックダイルがまた突っ込んでくる。しかしアルはまだ泥を出さない。ロックダイルの加速した攻撃、更に攻撃してくる前足が爆発する攻撃から、少し吹き飛ばされたもののなんとか逃れた。
そしてその隙に、アルは泥をロックダイルに放っていた。
ロックダイルは迷いなく爆発させる。しかし、その泥は今までの泥とは全く異なるものだったのだ。
ドォォォォンッ……
その泥は爆発した。ロックダイルの爆発によって、泥自体が爆発したのだ。
アルがつくった泥は、強い衝撃を与えると爆発する泥だったのだ。
(泥の中に火を入れる発想は元からあった。だけど、それだけではやつには有効ではない。)
───
「わかった!任せとけ。教師の意地を見せてやる。ちなみに秘策ってのはなんだ?」
「それは強い衝撃によって爆発する泥を使うことです。この泥を岩の鎧の傷ついている部分に入れることで、あいつが爆発を使ったら鎧を壊し、更に鎧の内側にまでダメージを与えることができます。
あいつが地面を爆発させた時、岩の鎧が少し欠けて、小さな岩の欠片が辺りに転がっていました。俺達が一生懸命攻撃しても全く傷がつかなかったあの鎧が、傷ついたんです。
俺はそこで疑問に思ったんです。あいつの爆発は、泥を吹き飛ばすために爆風は凄いですが、威力はそこまでではありません。なのに何でそれだけで傷ついたんだ、と。
俺はそこで思いつきました。やつの岩の鎧は、やつ本体に含まれているように見えて、実はそうではない外付けのものだったんじゃないのかということに。元のロックダイルの岩の鎧に加えて、魔法で岩を更にくっつけていた。
そしてそれがやつの堅さの秘密だったのだと思います。背中のゴツゴツは、沢山の岩をそのままくっつけたからで、腹が平たいのは、動きやすくするために形を整えたからでしょう。
そして魔法を使うとき、魔法を出すのは自分の体からです。ということは、あいつが魔法を出すのはあいつが外付けした鎧の内側からです。そして内側から爆発させることによって、岩の鎧が傷ついた。
俺がさっきから覚えていた違和感、あいつが口からしか岩を放たないのもこれが理由だと考えれば辻褄が合います。
正直に言うとこれは俺の憶測でしかありません。ただ、もし違ったとしても、内側から爆発させれば効くということは間違いないと思います。これが秘策です。」
───
「ギュラァァァァ!?」
ロックダイルが咆哮する。アルの予想通り、この攻撃はロックダイルに効いたようだ。
そしてアルは、更に泥を放っていく。ロックダイルは抵抗しようとするが、泥で上手く動けない。かといって、爆発させると、大爆発となって大ダメージを受ける。
アルは状況を覆し、有利になったのだ。
「まじか……。アルがあのボス個体のロックダイルを、こんなにも追い詰めやがった。」
アルとマギの心には希望が生まれていた。生き延びることができると。一度は死ぬ未来が見えたような状況から、やっと逃れることができたのだと。
しかし、どうして忘れてしまったのだろうか。一瞬の油断から、ロックダイルに状況を覆されたことを。絶望した後の希望は、とても明るく見える。もう勝ちが確定したと考えているのなら尚更だ。それは仕方のないことなのかもしれない。
しかし、それは余りにも致命的だった。
ドォォォォォォッッッ……
大爆発が起きる。爆発の連鎖。爆発の強い衝撃が、更なる爆発を起こす。
「グルルァァァァァ!!!」
それはロックダイルの悲鳴。今、ロックダイルの体はとてつもない痛みに襲われていることだろう。しかし、ロックダイルは終わらない。その命が尽きるまで。
岩の欠片が飛んでくるので、アルは反射的に土の壁をつくった。
(まさか、あいつ!)
大爆発の真ん中にいるのは鎧がなくなった上に、血塗れになったロックダイルだ。
だからといって、侮って良いはずはない。鎧がなくなったということは、自由になったということでもあるのだ。
ダンッ……
ロックダイルが踏み込み一瞬で、マギの元へ辿り着く。マギは何とか反応して避けようとするが、遅すぎる。
ゴォッ……
「ぐぁっ!?」
マギが吹っ飛ばされ、今度はアルに向かってくる。
(速い!くそ、何なんだよ。どんだけ手強いんだよお前は!)
アルは心の中で悲鳴をあげていた。




