1-10 魔獣の森4
魔獣の中には、魔精に力を与えられた魔獣がいる。
魔精とは、言うなれば魔力を司る存在である。彼らはその全てが、人間では全く太刀打ちできない存在であるとされている。
しかし彼らは、〝星のままに〞(ネイチャー)という教えを信じ、それによって自ら戦うことを禁じられているのだ。その代わりに彼らは、自分が気に入った他の者に力を与え、戦わせることで娯楽を得ているのだ。
その力は、種を問わず与えられる。魔獣であろうと、人間であろうと関係ない。違いがあるのは、魔精に気に入られるかどうか、ただそれだけだ。
与えられる力は千差万別で、その数も違う。そしてその全てが魔精によって決められる。与えられる力は、その者の特徴によって決められる可能性が高いと言われている。それは例えば、今までの行動や、好み、性格、才能などだ。
そして魔精に与えられる力の中で、相手を逃げられなくするという力がある。これを持つ魔獣は、ボス個体と呼ばれている。
その力を与えられる魔獣は、今まで相手から逃げたことのない歴戦の個体だ。つまりその力は、全てに立ち向かいながらも、勝ち続けてきた強者である証なのだ。
更にそういった個体は、他にも力を与えられていることが多く、非常に厄介な魔獣なのだ。
そんなボス個体の魔獣が今、アル達の前に立ち塞がっているのだ。
「ギュラァァァァ!!」
ロックダイルが咆哮する。その口には、先程のモーターカウを喰らってきたのか、血がべっとりとついている。
ロックダイルという魔獣は、擬態が非常に得意な魔獣だ。岩に擬態し、近づいてきた生物を食い殺す。
力はかなり強く、その全身を覆うゴツゴツとした鎧は実に堅牢だ。速さも遅くはない上に、瞬発力はかなり高い。非常に危険な魔獣である。
マギは岩を放つが、ロックダイルは意にも介さず突き進んでくる。マギは岩に覆われた下顎を蹴りつけ、ロックダイルが怯んだ瞬間、岩の鎧を掴み背中に飛び乗った。
マギは背中にパンチを食らわせるが、全く効いていない。
「くそっ、堅すぎだろ。」
しかしロックダイルは、背中に乗られたことに腹が立つのか、前足で地面を蹴って仰向けに倒れる。
マギはその前に背中から離れ、今度は腹に飛び乗る。しかし腹も岩の鎧で覆われていた。背とは違いゴツゴツとはしていないが、堅いことは同じである。マギがパンチをしても、全く効いていない。
ロックダイルは直ぐに体を起こす。
「くそっ、どうするか。」
マギは一旦ロックダイルから距離を取りつつ、ロックダイルの弱点を探そうとしていた。
すると、何かがロックダイルに向かって飛んでいった。それは火だった。アルがロックダイルに向けて火を放っていたのだ。
しかし、ロックダイルには効いていなかった。
「駄目か。」
アルは悔しそうにロックダイルを睨みつける。
「おい、そんなことしたらお前らが狙われるだろうが!」
マギがそう怒鳴るが、アルがそれに反論する。
「先生が負けたら俺らも殺されるだけですよ。だったら俺らも先生と一緒に戦った方が良い。」
「そうか……確かにな。じゃあ援護を頼むぞ!」
マギはそう言ってロックダイルに向かっていく。アル達は全員で魔法を使ってロックダイルを攻撃するが、効いている様子はない。
「私の魔法が効かない!?」
「これは堅すぎるね。」
「チッ!何で俺の毒が効かねぇんだよ!」
「ぜ、全然効いてないです!」
魔法が効いている様子は無いが、鬱陶しいと感じたのか、ロックダイルがアル達の方へ向かう。
「おい、待て!」
後ろからマギが必死に攻撃するが、ロックダイルは止まらない。
アル以外は、まずいと思って逃げ始める。アルが逃げないのは、ロックダイルを止める方法があったからだ。
(俺の泥が活躍する時が来た!)
アルは泥を大量に放出した。ロックダイルはお構い無しに突っ込んでくるが、その速度はどんどん下がっていく。
ロックダイルは泥から抜け出そうともがくが、泥が粘着して中々離れない。これはアルが工夫をした結果だった。
泥を、相手の体と地面の両方に粘着させることで、かなり相手の動きを阻害することができるのだ。
「良いぞ、アル!」
そうマギが言う。
「少しは褒めてやるよ、アル!近づいて撃てば俺の毒が通らない筈がねぇ!覚悟しろ岩ワニ!」
そしてベノンが飛び出し、毒を生み出そうとする。
「おい、危ないぞ!」
マギがそう言うも、もう遅かった。その時、尻尾がベノンを強打する。
「ぐぼぉっ!?」
ベノンは吹っ飛び、地面に叩きつけられる。ベノンの魔防服が消えた。
「う、ぐぅ……痛ぇ……。ゲホッゲホッ……。」
魔防服で威力が弱められたのか、かなりのダメージはあったようだが、致命傷に至ってはいないようだ。
しかしロックダイルの反撃はこれだけでは無かった。
ドォォォッ……
爆発のような音がした。アル達は油断していた。そしてマギも。ロックダイルを泥で捉えて。どこか安心してしまっていたのだ。だから吹っ飛ばされたベノンに意識を向けてしまった。
そして強者はその隙を見逃さない。
「何だ!?」
マギが急いで、爆発のような音がした方、ロックダイルの方を見る。ロックダイルは既に走り出していた。ロックダイルが居た場所にあるのは地面に飛び散っている泥だけ。
ロックダイルはマギを射程圏内に捉えていた。そして尻尾での殴打。マギの魔防服が消え、吹っ飛ばされる。
そして次にアルが気付き、泥を放とうとするが遅かった。ロックダイルは既に、アルへ岩を放っていた。
「うぐっ!?」
アルの魔防服が消え、吹っ飛ばされる。マテリアも、グラスも、マルンも、吹っ飛ばされていく。
一瞬にして、状況は覆されていた。
マギは焦っていた。そしてマギは思考する。
(何故、何故、何故だ。ロックダイルが魔法を使える筈が……。まさか……魔精の力か!?それしか考えられない。くそ、まずい、まずい、まずい。ここからどうすれば良い!どうすればあいつを倒せる!?どうすれば生徒を守れる!?俺に、もっと力があれば……。)
マギはどこか諦めていた。
アルは思考する。
(このままだと、俺は死ぬ……。俺がここで死んだら、俺は最強になれずに終わるのか……。そんなの〝あっていいわけない〞だろうが!俺は絶対に生き延びる。あいつを殺して、俺は!
最強になる!!)
そしてアルは立ち上がる。
ロックダイルはアルを狙って岩を放ってくる。ロックダイルはアルを警戒しているようだ。
アルは分厚い土の壁を作り、それを防ぐ。そして土の壁で視界が塞がれる前の一瞬、そこで見えたもの、アルが持った違和感について思考する。
(飛び散る岩の破片、それはあいつが放った岩か?いや、そんな訳はない。)
思考は加速する。
(あいつは最初に地面を爆発させ、その後マギに直接攻撃した。岩の魔法を使ったのは俺達に向けてだけ。それならあんなあいつの近くに使った魔法の破片が落ちているわけないし、もうあいつが放った岩は消えかけてる。
だったら岩の破片も消えていないとおかしい。だったらあれは……。)
アルは希望を辿る。そして刹那にアルは、一つの結論に辿り着く。
(そうか……!わかった。見つけたぞ、お前の弱点を、お前を殺す方法を!)




