1-9 魔獣の森3
1-4で、マテリアが森人族だと書き忘れていたので修正しました。
入学してから三ヶ月経ち、アルの魔法は上達し続けていた。泥や火を放つことが可能となり、更には魔法の射出速度が全体的に向上した。
「ふぅ……。」
アルは、気合いを入れるように息を吐く。アルは今、学校のグラウンドに座っていた。一緒に魔獣の森に行ったメンバーが揃っている。今日は、学校の試験がある日だ。
その内容は、魔獣の森へ行き、魔獣を倒すというものだ。前回魔獣の森に行った時と同じなように聞こえるが、前回とは明らかに違うところが二つある。
まず一つは、今回は教師のサポートはないということだ。教師は有事の際に備えるのと同時に、試験官として一応付き添いはするものの、見守るだけで基本的に補助はしない。
持ち物も、与えられた資金を使って各々が必要な物を揃えなければならない。
二つ目は、今回は試験であるということ。それは、各々の能力が測られるということを意味している。
ならば当然、生徒が上に上がる、または上位を維持するには、目立たなければならない。とすれば、魔獣の奪い合いが起きることが予想される。
「よし。全員魔防服は着てるな。早速魔獣の森へ行くぞ。立て。」
マギがそう言うと、全員が立ち上がる。マテリア以外は、緊張している様子だ。
「今日は試験だ。この試験の結果で次のクラスが決まる。それを心に刻んでおけ。じゃあ移動を開始する。」
───
「では、これから試験を行うわけだが、改めてルールを説明する。お前らはこれから魔獣の森第一地帯で、魔獣を倒す。その時に使う魔法の技術を主に評価する。
索敵、攻撃、防御、その全てが評価対象だ。そして、魔獣を一体も倒していない生徒には評価不可として、他に問題がなければ前回と同じ評価をつけることになる。
魔法以外の項目で高い評価をされることはないので気をつけるように。今回はお前らが先行することになっている。俺はお前らの後から着いていくことになる。
バラバラには動くなよ。高い評価にならなくても、低い評価にはなるからな。それでは、試験を開始する。」
そしてアル達は、再び魔獣の森へと足を踏み入れる。
すると、ボーンラビットが襲い掛かってくる。
「なっ!?」
キィンッ……
狙われたのはマテリア。魔防服で防がれるものの、攻撃を受けてしまう。
「くっ……。」
しかし、流石というべきか、冷静に魔法を撃ってボーンラビットを倒した。ボーンラビットが倒されたことで、一息つこうとするアル達に別の魔獣が襲い掛かる。
チチュウという鼠の魔獣だ。普段は地中に潜んでおり、そこで繁殖する。爪は土を掘ることに特化しているが、攻撃に使っても十分な威力を発揮する。
チチュウが狙ったのはベノンだ。一安心していたところへの一撃で、ベノンは攻撃されるまでチチュウの存在に気がつかなかった。
「うおっ!?もう一匹かよ!」
ベノンが驚いている間に、アルがチチュウに向けて火を放っていた。
「ヂュッ!?」
アルはとどめに土の槍を放った。チチュウが倒れたが、今度は油断をしている者はいない。
魔獣の森第一地帯に住む魔獣は、その殆どが奇襲に特化した魔獣だ。前回は、マギが魔獣がいることを教えてくれていたので、その力が発揮されることは一回しかなかった。
しかし今回マギは何も言わない。すると、魔獣を先に見つけることができずに、攻撃を許してしまうことになる。マギが何も言わないことは、意外にも大きい影響を及ぼしたのだ。
「次で取り返します……。」
「クソッ、負けてられるかよ!」
魔獣に攻撃を当てられた二人は、次の魔獣を倒して評価を取り返そうと焦っていた。そしてどんどん先へと進んでいく。
そんな二人に、マルンが主張する。
「わ、私魔獣を探せます!」
前回魔獣の森へ行った時、唯一マギに頼らずに魔獣を見つけ出したのがマルンである。
それを思い出したのか、マテリアとベノンの二人の中で、マルンの評価が上がった。
「お願いします。」
「意外と凄ぇんだな。」
「そ、それではいきま……。」
マルンが魔法を使おうとすると、再び魔獣が襲い掛かってきた。襲い掛かってきたのは、ボーンラビットだ。マルンが狙われ、攻撃を受けてしまう。
元々魔獣を見つけられない者が多少の警戒をしたところで、奇襲に特化した魔獣を先に発見できる訳ではない。少し反応速度が上がるくらいだろう。
「ひっ!」
マルンは恐怖で、腕を振り回すことしかできない。
その時ボーンラビットに、植物の根が突き刺さる。
「大丈夫かい?」
グラスがマルンを助けたのだ。
「あ、ありがとうございま……。」
マルンが礼を言おうとすると、また別の魔獣が襲い掛かってきた。狙われたのはグラス。グラスも反応できずに攻撃を受けてしまう。襲い掛かってきたのはネイルバットだ。
「僕はネイルバットに縁でもあるのかな?」
グラスはそんなことを言いつつ、前回と同じようにネイルバットを倒した。
「また気づけませんでした……。私は森人なのに……。今度は絶対……。」
マテリアが悔しがっていると、今まで沈黙していたマギが突然話し出す。
「お前ら、リベンジしようとしているところ悪いが、今日は一旦引き返す。魔獣の数が多すぎるからな。」
「まだ四体だけです。誤差の範囲では。」
リベンジしようとしていたマテリアは、納得がいかないのかマギに抗議する。
「もし何かあったらまずい。少しの変化でも、警戒するに越したことはない。それに、お前らにはわからないだろうが俺にはわかる。魔獣はもっといる。
俺が把握している数だけでもかなりの数だ。魔獣の森に何か異変が起こっているのかもしれない。今試験を中止しても、別の日になるだけだ。ここで終わる訳じゃないから今は引き返すぞ。」
「……わかりました。」
マテリアは、自分の感情を押し殺して言った。
「よし、偉いぞ。それじゃあ引き返……そうとさせてほしいんだがな。」
マギは何かを感じたのか、戦闘態勢をとった。すると、何かの大きな足音が聞こえてくる。
ドドドドドド……
「これは……第一地帯の魔獣の魔力量とは思えない……。そんなことがあるのか?」
ドォッ……
地面を踏み込んで現れたのは、モーターカウという牛の魔獣だ。背中にモーターのようなものがついており、モーターカウの突進力は、数々の魔獣や人間を薙ぎ倒してきた。
通常であれば、魔獣の森第三地帯に生息する魔獣である筈だ。しかし、何故か第一地帯に存在している。
マギは疑問に思うも、考えないようにして戦闘に集中する。
「来い!」
ドドドド……
「ウォォォ!」
ドゥッ……
マギは、拳にゴツゴツしたグローブを作り、突進してくるモーターカウの側頭部に拳を叩き込む。
「ブォォォォ!?」
モーターカウが痛みに悲鳴を上げる。しかし、モーターカウの突進は遅くはなっても止まらない。
ゴッ……
モーターカウの突進がマギを襲うが、マギは後退りながらも突進を止めきり、今度は逆の手で側頭部にパンチする。モーターカウの体がグラリと一瞬右に傾くが、すぐに踏みとどまる。
しかし、マギはそんな隙を見逃す男ではなかった。岩を放って攻撃し、モーターカウを追い詰める。
「よし、逃げるぞ!」
「倒さねぇのかよ。」
ベノンが、逃げながらそう疑問を口にする。
「モーターカウはタフな魔獣だから倒すのは少し面倒だ。それに、もっとヤバイやつが来てる。」
マギがそう言った時だった。
「あれ、何だろこれ、透明な壁?」
先頭を走っていたグラスが、立ち止まる。
「まさか!?」
マギはグラスの言葉で何かに気づいたのか、驚いたような声を出す。
後ろから迫るのは、傷がついた岩の鎧で身を覆うワニの魔獣、ロックダイルだ。
「くそ!ボス個体かよ!」
マギの叫びが木霊する。




