0 爆誕
初投稿です。よろしくお願いします。
この広い広い宇宙の中には、魔力の宿る星というものが存在する。魔力は凄まじい力を持ち、この星に生きる生命はその力を用いることができるのだ。それが宿る星は非常に雄大で、その星には魔力の力で有り得ないような進化を遂げた生き物達が存在する。これは、そんな星に産まれた、一つの野望を宿す一人の少年の物語である───
「昔々、カレッジという街にエンという一人の少年がいました。エンは年が十になったばかりだというのに、大人に負けない力を持っていたのです。
エンに向けられるのは良い感情ばかりではありません。エンを恐ろしいと思う者や、嫌う者がいます。その中に、エンを特に嫌っているゲカスという大人の男がいました。
ゲカスは剣士でしたが実力が足りず、生活が苦しかったのです。そしてゲカスは強いエンを羨ましいと思っていました。そんなゲカスを利用しようと企む者がいました。悪魔です。
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もう駄目だ……皆がそう諦めている中で、エンは立ち上がりますが、不利な状況は変わらないままです。その時、そんなエンに心を打たれた一人の魔精がエンに力を貸します。
エンはその力を使い、悪魔と戦います。それは苦しい戦いでしたが、エンは諦めず戦い悪魔を倒しました。
そのことは王様にも伝えられ、エンは勇者に選ばれました。そしてエンは勇者となり、人々を苦しめる悪魔の王を打ち倒すことを誓ったのです。
こうして勇者エンの旅が始まりました……。と、この辺りで終わりにしておきましょう。続きはまた明日です。」
ここは孤児院。貧しい者達が住む町にある、ボロボロの建物だ。
先程はこの孤児院の院長が子供達に『勇者エンの戦いの旅』という絵本の読み聞かせをしていたのだ。この本、シリーズ物となっていて、絵本にしては一冊が厚い上にそれが三十八冊もある。根強い人気があるからこそだろう。
「えぇー。まだ聞きてぇよ。」
「駄目です。私はまだ仕事が残っていますから。」
「じゃあ仕方ないかぁ。それにしてもエンは強くてカッコいいよな!」
「うん。俺もエンみたいになりたい。」
「お前じゃ無理じゃね。俺の方が強いし俺がなる。」
「まあお前は強いからなぁ。」
「そう言えばめちゃくちゃ弱いのに、魔法使いになりたいって言ってたやつがいなかったか?」
そう言って少年は、ガリガリで背の低い少年の方を向いた。そして歩いて近づいていく。
「おりゃっ。お前みたいな弱っちいやつが、魔法使いになんてなれるわけねぇだろ!」
「そうだそうだ!」
体が強い少年が体の弱い少年、アルを殴ったり蹴ったりし、他の子供がそれを面白そうに眺めている。
魔法使いというのは魔力を利用する、魔法を使って戦ったり、生活を発展させたりするなど多様な内容の職業を一纏めにしたものである。アルが今こうして殴られているのは、アルが将来の夢の発表で魔法使いになりたいと答えたのがきっかけであった。
ドガッバキッ
「痛い……。や、やめてよ……。」
「やめるわけねぇだろ!」
アルはやめてと言うも、それが聞き入られる筈もない。しかし、こうすれば、体が強い少年を必要以上に刺激せず済むのだ。
「こらこら、お前達やめておきなさい。」
そんなとき、院長が子供達を注意する。
「でも先生、俺はこいつに良いことをしてやってるんだぜ。こいつのためを思ってやってるんだ。こんなやつがこんな弱っちいまま外に出たらやべぇぞ。」
「それもそうですね。ですが程々にして下さいね。他の大人達にこんなことがバレては困ります。この後隣町に行ってお前達を連れて偽善者どもから金を貰いに行くんですから。」
「わかったよ先生。」
結局アルを院長が助けることはなかった。これはいつもと変わらないやり取りだ。しかし、一つだけ変わったことがある。
(俺は弱いのか?いや、でも。俺は……。)
それは院長や、自分を虐める子供達が自分に向ける見下す視線の意味がしっかりと分かったことだ。今までアルが目を背けていた現実をはっきりと理解した瞬間、アルの心の中で様々な感情が渦巻きぶつかり合う。
(俺は弱い?いや、違うだろ。俺は強い筈だろ?でも、強いなら反撃すればいい。でもそんなことしたら面倒くさいことになるからしないだけだ。そうだ、そうなんだ。きっと、きっと俺が本気を出せば───
〝こいつらなんて殺せる筈だ。〞)
「あれ……。」
アルは目を開ける。アルは今まで意識を失っていたのだ。アルが居るのは青一色で構成される部屋で、アルはベッドに寝かされている。
「よう、目は覚めたか。」
声がした方向に目をやると、一人の男がいた。
「は、はい。あの、ここはどこなのでしょうか。僕は孤児院にいた筈なのですが。」
「おっと、思ったより冷静だな。お前みたいなガキならびゃあびゃあ泣きわめくと思っていたんだが……。まあ良いか。お前は孤児院にいた筈って言ってるけどもうそれ無くなったんだよな。」
「え?何かあったんですか?」
「うーん。まあそのまま伝えりゃ良いか。何があったってかお前がぶっ壊したんだ。その孤児院をな。」
「え……。」
アルは何を言われているのか分からなかった。自分にそんな記憶などないし、そもそも体の弱い自分にそんな力があるとは思えなかった。
「そんな記憶はねぇって顔してるな。でも事実だ。ただ、わざとではねぇだろうがな。お前は感情を昂らせ、魔力を暴発させてしまった。子供にしては随分多い魔力を持ってるから抑えきれなかったんだろうな。
その結果、孤児院をぶっ壊したんだ。ちなみに孤児院の先生や、子供も全員死んでる。」
「そうなんですか……。」
人を殺したというのに、アルの心はむしろ晴れやかであった。それは自身を虐めてきた者達への恨みからではなく……
(あいつらより俺の方が強かったんだ。)
自分が殺した者に対する優越感からだった。アルは道徳など教わったことはなかった。孤児院の周りは治安が悪く、更に他の人間からの悪意を受け続けていた。その影響が大きいだろう。
そして今、アルという少年の心に他者を越えたいという強い欲望が溢れだしたのだ。
アルがそんなことを考えていると男が話を再開した。
「それでまあお前は結構危険な奴っていう認識をされてるわけだ。でもその才能は結構魅力的でもある。そこでだ。お前には二つの選択肢がある。」
「二つの選択肢……ですか。」
「一つは死ぬこと。もう一つはこれを体内に埋め込むことだ。」
そう言って男は懐からとても小さい球状の何かを取り出した。
「それは……。」
「これはいつでも爆発させられる球だ。こいつをお前がつけることで、お前をいつでも殺せるようになるのさ。まあ、お前が今回のように魔力を暴発させなければこれが爆発させられることはねぇから少しは安心しとけ。」
「わかりました。」
「それで、どうする。死ぬか埋め込むか。」
勿論アルの答えは決まっていた。
「勿論埋め込みます。」
「そうか、わかった。俺は聞き分けの良い奴は好きだぜ。手を汚さなくて済んだ。そういやお前、今何歳だ?」
「えっと……。多分八歳です。」
「まじかよ。お前それにしては大人しいな。じゃあ、俺は色々用意してくるからこの部屋で待ってろ。くれぐれも変なこと考えるんじゃねぇぞ。」
そう言って男は部屋のドアから出ていった。そして暇になり、アルは考えてみる。自分の中に眠る、他者を死に至らしめる程の魔力について。
(この力を自由に操れるようになれば……。)
アルは思い描いていく。自分が望む未来、最強になるという理想を。全てを圧倒し、全てを見下す自分を。この時、アルの理想は明確に決まったのだ。
───俺は最強になれる───
今、一人の怪物が爆誕した。
僅かなストックが尽きたらかなり更新が遅くなると思います。