段ボールの中から初恋が飛び出してきました。
『段ボール』と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。配送業をイメージする人もいれば、単なる物入れとしか浮かばない人もいるだろう。
引っ越しに、段ボールは必要不可欠だ。外界に姿を晒したままトラックへ運ぼうにも、運ぶのに不便な形だとか積み重ねにくいだとかいう理由で、段ボールに物品が詰め込まれることも多い。
「……自分の部屋整理するの、意外と大変だな……」
虚空に向かって独り言を呟いたのは、泰輔だった。通う高校がずっと離れた地域にあるため、生家から独り立ちしなくてはならなくなったのだ。現在は、私物の整理中である。
生活している分には問題ないのだが、いざ自室の物を取捨選択しようとすると、どうにも悩ましくてならない。
紙くずなどのはっきりゴミだとラベルを貼れるものなら気持ちも決まりが付く。しかし昔の写真や小さい頃に遊んでいたオモチャは、思い出が詰まっているのもあって中々『捨てる』という選択を選びずらい。
「これは……、要らないか。持っていける量にも、限界があるしな」
引っ越し業者に頼んでいるのではなく自家用車で必要な品物を運搬するため、容量には限界が存在する。容量オーバーのものは泣く泣く粗大ごみに出すしかないのだ。
普段触らない箇所を弄ってみると、思いがけない物が出てくるものだ。ほこりをかぶっていて何年前のものかすら分からない書類の下などは、特にだ。
「あれ、こんなものあったっけ……?」
まとめられた段ボールの中に、まだ平易な漢字と平仮名とがまじりあって構成されているノートの表紙がちらりと頭をのぞかせていた。細部まで手入れなどしていないので、若干ほこりを被っている。
『ひみつノート 絶対見ないこと!』
日付からして、小学校卒業の直前だ。三月の桜と風に揺られながら、泰輔少年は何を思い連ねたのだろうか。書いたのは確かだが、記憶からは消えてしまっていた。
ぺらりと、泰輔はページをめくった。
『別々の中学校に行っちゃうけど、ぼくは結ちゃんのことが好き!
一回も言えなかったけど、卒業式で絶対に言う!』
そばには、小学校時代の結と二人並んだ写真がセロテープで張り付けられていた。写真の中の二人とも笑顔満面で、楽しそうであった。
……結ちゃんか……。
結は、泰輔が小学校にいたころの同級生かつ遊び仲間だった女の子だ。中学受験で離れ離れになってから、音信不通で一度も会話を交わしていない。
……これ、結局言えなかったんだよな、恥ずかしくて。
卒業式当日、泰輔は完全にアガってしまっていた。失神寸前で意識を保つのすらやっとだった泰輔は、結に好きと伝えることはおろか式の遂行すらままならなく、思い出の残るはずだった卒業式をセルフでぶち壊しにしてしまったのだ。
結ちゃん、元気にしてるかな……。
今頃、結はどのような女の子に成長したのであろうか。あの時以来女友達を持ったことのない泰輔には、想像もつかなかった。
写真の中の結が、永遠に輝いているように思えた。いつまでも、いつまでも。
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