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私とGの戦いーー隣家許すまじーー

作者: 黒井 猫

 数年前に「人間の腐った臭いについてーー隣の部屋から腐乱死体がでた話ーー」という、マンションの隣の部屋で孤独死があったというエッセイを投稿した。

 今回はその隣家にまつわる今年起きた話である。ちなみに「人間の腐った臭い〜」とは違い、シリアスさは皆無だ。しかし生理的嫌悪レベルでは今回の方が上だと個人的には思っている。


 孤独腐乱死体がでてしまった隣家のその後をダイジェストでお送りしよう。


 清掃入る

 →東日本大地震で被災して全てを失い、趣味仲間繋がりで当マンションの別部屋に住んでいた一家がより広い隣家を購入して住み始める。

 →今年引っ越すということで梅雨頃から隣家が売りに出される。

 →秋になってから売れたらしく、隣家に入居者現る。


 こんな感じである。相馬からやってきていた前お隣さんとはなんのトラブルもなく平和に仲の良い関係を築いていた。


 現在のお隣さんは、「50代後半くらいのおじさん」で顔を知ってる程度であり、交流は一切なく、隣家で孤独死再びとなる可能性もあるものの、特にトラブルもなく一般的な現代社会のお隣さんとの距離感である。


 ***


 少し話は変わるが、私は大変な虫嫌いだ。特に嫌いなのが黒くてカサカサするあの野郎である。

 奴に関して言えば、もはや「嫌い」の域を超えて「恐怖」の対象である。

 どれくらい恐ろしいかというと、戦闘が不可能なレベルだ。遭遇したが最後、あばば、というギャグにしか聞こえない悲鳴をあげながら安全圏まで走って逃げるという行動を反射的に取る。

 猫が食べたら心配だから倒したいのに、2m以内に近寄れない。倒せない。猫を抱き、叫びながら逃げ惑い、最終的に召喚するのは同居している兄である。なお、兄が居ない場合は震えて眠ることすらできず翌日の仕事に支障をきたしている。


 そんなわけで万が一にも奴が現れると、私が帰宅を拒否し始める可能性が高いため、我が家は常に清潔に保っている。その甲斐あって、オンボロマンションにも関わらず、ここ10年で2匹ほどしかでていない。出ていなかったのだ。


 ***


 さて、話は戻って隣家である。梅雨時に前の住民が出ていき、今年の秋、寒くなり始めてから入居者が現れたわけだが、それと前後して我が家に奴が出没するようになった。


 最初はベランダに死体が二つ。その次は私の部屋で3回。リビングで2回。さらに私の部屋で1回である。これが2週間の間に起きた。

 ちなみにそれらは全て兄と、私が召喚した友人によって始末されている。

 完全に異常発生である。この10年、本当に全然出なかったのだ。


 考えられる原因は三つ。


 一つめは、私の部屋の段ボールだ。

 知人の遺品整理を手伝うために預かっている荷物が入っていて、今年の春頃から私の部屋に大きめの段ボール箱がいくつか置かれている。最初はこの段ボールに卵がついていたのではないか、と考えていた。


 二つめは鳥だ。

 今年から我がマンションを住処と定めたらしいイソヒヨドリが住み着いている。余談だが夜明けに鳴きまくるので大変うるさい。

 彼らが仕留めてきた虫の中に奴がいて、なんやかんやあって大発生した可能性も考えた。


 三つめが隣家である。

 人が入れ替わったタイミングと大発生のタイミングが一致するのだ。

 バルサン系のものを焚き→それから逃れてきた奴らが床下を伝って我が家に来てしまったのでは?という説である。


 結論から言うとおそらく三つめが原因だ。


 段ボールならば夏の間に大発生していないとおかしい。どんなに遅くとも秋の暖かいうちに湧いてないとおかしいのだ。もう寒くなっている。奴らの活動期は終了しているはずだ。

 それに、幼体が見当たらないのもおかしな話である。


 鳥は我がマンションの屋上を住処と定めているようである。

 奴らが天井から湧き出てくるなら鳥の可能性も否めなかったが、奴らは床から湧いてくる。正確に言うと床の隅からニュッと現れるのだ。

 私はもう隙間という隙間が恐ろしくて仕方がない。クローゼットの下に入ってしまった猫のおもちゃを取り出すのすら兄を召喚する始末である。


 話が思い切り脱線してしまったが、そう。奴らは床の継ぎ目から現れ、やたらと弱っており、かつ、成虫なのだ。

 決定打となったのは、我が家の真下の部屋にある実家の話だった。実家も今年に入ってから大発生しているらしい。

 天井から、やたらと弱った奴らが落ちてくると。朝起きると、奴らが落ちて死んでいると。


 間違いない。奴らは我が家の床下兼実家の天井裏にあたる隙間に追いやられてきている。角部屋なのでそれ以上逃げるところがなくなり→這い出してきているのだろうと。絶対に隣がバルサン焚きやがったと。事実はどうあれ私の中ではもうこれで決定である。隣家許すまじ。


 ***


 さて、原因がどうであれ問題は対策である。

 我が家には愛しき黒い猫がいるため、バルサンや殺虫剤はなるべく避けたいところである。

 しかしこのままでは私がここに住めなくなる。

 まずは可能な限り進入経路を塞ぐのが最優先であると考えた。

 兄と相談をして、床と壁の継ぎ目をコーキング材で埋める。

 埋めきれない隙間や、畳の部屋の壁近くにはブラックキャップを貼り付けた。にゅっと出てきてしまったらそのままブラックキャップに入ってもらい、致死餌を得て床下にお帰り頂き全滅して頂こうと言う算段である。

 なお私は隙間恐怖症が進行しまくっていて作業にならなかったので、全て兄に任せた。作業中に奴らが出てきたら気絶する自信がある。

 その後は、私が仕事でいない日中にベッドの下や物陰に奴等の死体がないかを確認し、あれば始末する作業を暇そうな友人にお願いした。見返りは私(料理人)が作る晩飯である。


 そうして2週間ほど贅沢な晩飯を作り続け、ようやく奴らの気配を感じなくなってきて、およそ1ヶ月に及ぶ私の戦いはおそらく終わった。不眠も治った。

 長い長い秋であった。


 ***


 深刻な隙間恐怖症という後遺症に悩まされてはいるものの、なんとか一件落着である。しかし「今年は」の話だ。床下にはおそらくまだ奴らが蠢いているし、隙間が有れば奴らが這い出してきてしまう可能性は常にある。

 そんなわけで我が家は、この冬の間に畳をひっぺがし、フローリングに張り替えるついでに床下にブラックキャップをばら撒く計画を立てている。ちなみにこれも全て兄にやらせる予定だ。私には無理である。

 そして今回、対策を調べるにあたり、「ムエンダー」という画期的な商品を発見した。ペットのいるお家で使用しているブログ等も拝見し、大丈夫そうなので来年はこれを使うつもりでいる。隣家がバルサン焚くより先に絶対やってやる。


 ***


 さて、鋭い読者様の中には、「私とGの戦い」などと銘打っておきながら私が一切戦っていないことにお気付きの方もおられるだろう。その通りだ。


 戦ったのは主に兄であり始末したのは私に召喚された友人である。私は毎日美味い飯を作っては奴らに怯えながら猫を抱いて過ごしていただけだ。だって近寄れないんだから仕方ない。

 タイトル詐欺もいいところだとつっこまれそうだが、対策グッズや、友人への対価たる料理の食材費等は私が捻出しており、これは実質私の戦力と言っても過言ではなかろう。

 つまり、やはり「私とGの戦い」でも間違ってはいないと思う。


 ***


 長々と書いたが、このエッセイを読んで下さっている方に伝えたいことがある。

 マンション住まいで隣家がバルサン焚いてるのを見かけたら、間髪入れずに自分も焚いた方が良い。

 一度やつらが湧き出してしまい、定着してしまえば後に残るのは終わりなきイタチごっこである。早めの対処を強くお勧めする。


 どれだけ対策をしていても、奴らは常に床下で蠢いており、事が起これば壁と床の隙間から湧いてくるのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] G対策の1つとしてお勧めなのは、 アシダカグモ、通称アシダカ軍曹をご招待することです。 蜘蛛が苦手で無ければ基本無害ですし部屋も汚さないし傷めないし、猫だってきっと食べないし。 餌(G)がい…
[一言] すさまじい戦記ですね。 エッセイというより、 ホラーとかで読めてしまいそう。 実話というのが恐怖を煽ります。 (^^;失礼しました。
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