表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛び出し注意くん  作者: 弘田邦友
8/8

8

 登校日の朝、めっちゃおもいランドセルをしょってくつをはいて道具ばこと図書ぶくろをもって外に出たけどなんだか行きたくなくて、会社に行こうとドアを開けたママにどやされるまで玄関ですわっていた。行きたくないのにちゃんと動いていく足が気もち悪い。とちゅうで他の道で行こうかなと思ったけどちゃんとあやまろうと思って注意くんのいる交差点へ向かった。

 ぼくはびっくりして道具ばこの取っ手をぎゅっとにぎりしめて立ち止まった。

 注意くんが支柱から外れて歩道に落ちていた。しかもおなかからまっ二つにわれていた。

「注意くーん!」

「止まれ!」

 急いで横断歩道を渡ろうとした時、向こうから注意くんが声をはり上げた。

「わたる。左右かくにん」

「注意くーん!」

 右、左、右を見てぼくは横断歩道をわたって注意くんにかけよった。

「注意くん大丈夫?」

「おはようわたる」

「おはよう」

「いやー。もうだめだと思う」

 おどけた口調で注意くんは笑いながらそう言った。

「だんだんいしきがぼやけてきてるんだ」

「ごめんねぼく、外出きんしになっちゃって夏休みおわるまで家出れなかったんだ」

「いいんだよそんなことはもう」

 道具ばこと図書ぶくろを歩道においてぼくはまっ二つになった注意くんの上半分をもち上げた。空いている穴にくぎを入れてそっと手をはなすと、ぐるんと回ってさかさまになっちゃった。

「わたる、おろしてもらっていいか?」

 と注意くんが苦笑いをした。

 言われたとおりぼくは注意くんを支柱から外して歩道におきなおした。

「ありがとなわたる」

「もっと元気だしてよ」

「むちゃ言うなよ」

 ぼくは注意くんの下半分をもち上げて、空いている穴にくぎを入れて手をはなすといいかんじにつるせた。後から上半分を取りつければ下半分が支えになって回らないはずと思ったんだけど、上半分を取りつけてみてちょっとするとまたぐるんと回ってそのいきおいでどちらとも道に落ちた。

「わたる。もう大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないよ」

「わたるはもう俺がいなくても大丈夫。車にかくれておれが見えなくなっても、いつだって右を見て、左を見て、もう一回右を見て、じしんをもって前を見て、大きな一歩をふみ出せる。そういう人間になれてるよ」

「注意くん」

「なくな。それじゃ前が見えないぞ?」

「――右も見えないよ」

「ほら行け」

 注意くんの目からふっと何かがぬけた。声をかけても何も言わなくなった。

 ぼくのペンキのぬり方が下手でぬる前よりも見た目が悪い。まっ二つだし。うらっかわの注意くんはぬるのをわすれていてボロボロのままだった。

 注意くんとはいつもここでしゃべるだけで、めちゃめちゃおもしろい話をするとかではなかった。おはようとか、ばいばいとか、あいさつだけの日もあった。「殺すよ」とかたまに言われたけど、そんな悪いやつじゃなかった気がする。もっとしゃべりたかったなぁ。

 道具ばこと図書ぶくろをもってぼくは横断歩道の前まで歩いた。

 右を見て、左を見て、もう一度右を見て、図書ぶくろをもっている右手を上げた。

 歩きだした時にぼくは、ぜったいちこくだなと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ