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「お前は今日から“飛び出し注意くん”だ!」
おばけ看板に向かってぼくは言った。
「ほ、ほう。ちょっとあんちょくすぎやしないか?」
「文句言うな」
飛び出し注意くんはまだ文句を言いたげな顔をしている。
「昨日の夜考えたんだ」
「にしても“くん”って。わたるよりけっこう年上なんだぞ?」
注意くんは木で出来た看板で、絵の具はかっぴかぴになってうろこみたいにはがれているところがあって、引っかかれたみたいなきずがたくさんあった。
「何才くらいなの?」
「いやそれはよく分かんないんだけどな」
「じゃあ“くん”でいいじゃん」
「まぁまぁ。まーいいよじゃあ“くん”で」
といやいやO Kした飛び出し注意くんの支柱に書かれた『飛び出し注意』の字を見て、ぼくはランドセルからマジックペンを取り出し、『くん』を書き足して『飛び出し注意くん』にした。ペン先に木くずがついて嫌だなと思った。
「大げさに自己紹介してるみてぇになっとるぞ!注意するのが仕事なんですけど!」
「二度見してもらえるかもよ?」
「――なるほどね」
「まんざらでもないんだね」
“友達”って。看板と何をしゃべればいいんだろう。ゲームとかユーチューブのことなんて分かんないだろうし。
「で、今日は学校何するんだ?」
「えーっと、今日はね水泳があるよ」
と水着とタオルが入った半とうめいでポケモンがかいてあるかばんをもち上げて見せた。
「いいねぇ」
「でもあんまり泳ぐの苦手なんだよね」
「大事なのは息つぎだ!」
「色々知った口きくのやめた方がいいと思うよ」
「冷たいなぁ」
「じゃあちこくしちゃうから行くね」
「おう。がんばれよわたる!行ってらっしゃい!」
「う、うん」
右左をかくにんしてぼくは横断歩道を渡った。
いきおいよくうでをふって走り出すとたまにかばんの角が足にちくちくとささった。それにたえられなくなるたびにぼくは立ち止まって足をぽりぽりかいた。