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トーンの軽い子どものどなり声がした。
ぼくの後ろには『飛び出し注意』と書かれた一本の支柱に取りつけられた男の子の形の看板があるだけだった。その看板を見ているうちに、さっきまでチカチカしていた信号が赤にかわっちゃった。
どう見ても、看板の男の子はぼくを見ている。動いても目が合う気がする。
「おい」
看板がしゃべった。さっきの声はこいつのだ。ぼくは尻もちをついてしまって、もうだめだと思った。
「左右かくにんしないと、殺すよ?」
「いやー!」
看板の男の子がぼくにはものすごく大きく見えたけど、ほんとはぜんぜん動いていなかった。ぼくはゆっくり立ち上がった。
「お、おい。ぼうず。大丈夫か?」
「うん」
「ならいいんだが」
やっぱりそんなあぶなくないみたい。
この交差点に看板があったことをぼくはよく覚えていなかった。あったようななかったような、というくらいでさっきまで見えていなかった。
「ぼうずいいか?信号を渡るときは右、左をちゃんと見ないとだめだぞ。分かったか?あともう一回右な」
「うん」
「ならいい。ていうか、ぼうずひとりか?学校行くとちゅうだろ?」
「ぼく、転校してきたばっかりなんだ」
「――なるほどね」
看板のくせに人間のことにくわしそうだ。
「てことは毎日ここらへんをたんけんがてら学校行ってるんだろ?」
「うん」
「だめだだめだ。知らない場所行ってみたくなる気もちも分からなくもないが、ただでさえ一人はあぶないのにいつもちがうところ歩いてたらもっとあぶないだろ?」
「そうなの?」
「そう。だから、そうだ名前は?」
「わたる」
「わたる、今日から登下校はこの道通るようにしろ。分かったか?」
「うん」
ずっと看板がぼくにしゃべりかけている。
それがふしぎすぎて、うなずいちゃったけど、どうしよう。
とりあえず信号が青にかわっていたから渡ることにした。
「わたる!行ってらっしゃい」
「うん」
なんかまたこわくなってきた。
下校の時はあの看板があるはんたいの道を歩こうと決めて右左をかくにんした。