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吸血鬼と人間

頭が痛い…


なんだ…?何が起こってるんだ…


ゆっくりと目を開ける



見たことない照明、見たことない天井、空間そのものが見たことがなかった


左から光が差し込んでいる、時間帯は午後だろう。


「あ!目が覚めた?道路くん。」


聞いたことない声…女だ。


「ここは…どこだ?」


痛みで重たい頭を左手で抱え込みながらゆっくりと体勢を起こす。


「うそ!?本当にここまでのこと覚えてないの!?あちゃー、こりゃ相当ダメだわ」


痛みがひかない頭をフル回転させて過去の記憶を呼び覚ます。


(俺は…人間との抗争で牙竜と戦って…)


そこまで思い出したジルクはベッドから跳ね上がり戦闘態勢に入った。


「おお〜すごいすごい!」


しかし目に入ってきたのは20代前半の若い女だけ、牙竜どころか、戦っていた場所すら変わっていた。


「牙竜はどこだ!お前も牙竜の仲間か!!」


目の前にいる女に大声で問いかける。


「牙竜?だぁれ?もしかして過去の記憶の面識ある人?」


どうやら女も牙竜とは面識がないらしい。喋り方から本心だとわかった。


戦闘態勢を解いて相手を落ち着かせるような口調で話した。


「ここはどこだ。俺は何をしていた。」


女は問いかけられた質問に対してクスクスと笑い始めた。


「道のど真ん中で倒れてたから助けてあげたのよ?本当に知らない?」


「全く記憶にないな。そんな嘘が通じるとでも?」


「だっていろんな人に聞いてみても『道端で寝てるだけだろ』って言うから心配になって助けてあげたのに…損した気分!」


言っているものこそ信じ難く、くだらないように思えるがこの女が嘘をついているようにも見えない。


「そうか…助けてくれたのはありがたいが、ここはどこなんだ?お前は誰なんだ?」


あたりを見回すがこの部屋には見覚えもなく、当然目の前にいる女も見たことがない。


「私の家だよー!まぁアパートだからはっきりと自分の家って言えないんだけどね。んーで、私はユミカ。

稲浦いなうら ユミカ』よろしく!あなたは?」


正直さっきまで戦っていた相手を失ってここまでグダグダしてはいられないが、話だけ聞くとどうやら助けてくれたらしいので名乗っておく。


「俺はジルク・ラルバイド。見ての通り吸血鬼だ。あんたは人間なんだろ?なんで俺なんかを助けたんだ。」


人間と吸血鬼は文化、風習の違いから仲が良いとはいえない。

中には吸血鬼だからといって見て見ぬふりをする人間も少なくはない。


ユミカは俺が吸血鬼だということを知るなり俺をじっくりと見つめた。


「見ての通り吸血鬼?人間と変わらない気がするけど…まず吸血鬼なんているの?」


…返答に困った。

それと同時に驚いてしまった。

どんなに世間を知らなくても小学校の歴史の授業ですら吸血鬼と人間の歴史を第一に取り上げるのに対してこの女…ユミカはどうだ?歴史どころか吸血鬼の存在を知らないなんて…


「お前、学生か?」


「失礼ね。一応社会人だけど…もしかして社会人に見えない?」


「勿論。いや、学生じゃないとおかしいレベルだ。歴史で習わなかったのか?」


(なんだこいつは…この世界には人間と吸血鬼がいるはずだ、それを踏まえて面接試験などがあるはず…じゃあなんでこいつは社会に適応してるんだ?いや、考えてみろ。どう考えても吸血鬼の話題が出ないのはおかしすぎる。それにここの都市一帯はすでに俺らによって破壊されたはず…)


勢いよく走り出してユミカの家のカーテンを開ける。


見えたのは自分たちが滅した都市とは全く違った世界が見えた。


都市は機械仕掛けのものが増え、吸血鬼と確信できる姿も見えない。


「そうかよ…まさかとは思っていたが、お前もこの家もこの世界も…俺の知っている場所じゃねぇのかよ!?」


ジルクは窓の外から視線をユミカに移し、足早でユミカに歩み寄る。


「なぁ、ここはどこなんだ!?」


ユミカは驚いて一瞬硬直するが、おどおどしながら言った。


「えと、私の家…都市リリアンカーラ、エラント地区のS429-62が住所です、、」


(都市リリアンカーラ…?マボレイドじゃないのか?)


ことごとくユミカとの会話が成り立たない。


(それなら…)


「お前、何か魔法が使えないか?」


そうだ、俺がいた世界では人間でも魔法が使えるはず…

しかし、この女は首をかしげて


「魔法?そんなのあったら人生苦労しないよぉ」


そんなことを呟きながら両手を強く握ったり開いたらしている。


(魔法の使い方を知らない…いや、それどころか魔法の存在すら知っていない)


薄々気づいていたが本当に最悪な結果かもしれない。


ジルクはユミカの肩をがっしりと掴んで聞いた。


「もう一度問う、この世界には魔法が存在しない、吸血鬼がいないんだな?」


「何もないわよ…あんただいぶおかしいね。アニメの見過ぎ?」


サラッと酷いことを言われた気がするが今の俺にはそれを考える脳がなかった。

いや、正確には使っていたから考えれなかったんだ。


(俺が〈反転暗動波アンチヴァルグ〉を放った時…牙竜は明らかに他の魔法を使っていた。原因はそれだろう…禁断魔法に対抗しようと思ったら禁断魔法で対抗するのが普通だ。おそらくその禁断魔法の衝突によってこの世界に飛ばされた、そんな感じだろう)


考えているとユミカがぽてぽてと歩み寄ってきた。


「聞こうと思ってたけど…ジルクさんって外国人?」


直球で意味の分からない質問だな。


「いや、吸血鬼だから外国人という概念すらないぞ」


名前が長いからって外国人だと決めつけるのもよくない。


「外国人は不正解だが、『異族』なら当たりだ。ユミカは人間で俺は吸血鬼だからな。」


「ねぇ、本当に吸血鬼なの?私から見たらアニメの見過ぎた人間にしか見えないわよ?」


どうやらこの世界の人間は吸血鬼と人間の区別がつかないらしい。

まぁこの世界には吸血鬼がいないらしいし仕方ない気もするが俺にとっては驚くばかりの出来事だ。


「本当に吸血鬼かって?もちろん。何度も言ってるが見た目で分かるが…まぁ吸血鬼を見たことないなら仕方がないかもな。一般的に見分けるなら犬歯だな。俺は今隠しているがそれでも尖り具合を見てみると分かる。」


そう言ってユミカに犬歯を見せる。


吸血鬼の犬歯は大変尖っていて他の歯よりも強い強度をもっている。

また、子供の頃から犬歯を出したりしまったりすることができ、犬歯が異常に発達する。


吸血鬼の真祖はこの犬歯で人の血を吸うこともしていたらしいが、研究の結果相手の魔素を測る・奪うなどの時に使ったらしい。


「ほえー、確かに鋭いわね。隠してるって本当の大きさはどんな感じなの?」


「あまり出したりしてないからどうなんだろうな…まぁいいだろう。」


目を閉じてうなじを頭に浮かべる。


引っ込めるのは簡単だが出そうとすると吸血鬼の真祖の都合上、うなじを想像するか見ないと出ないらしい。


「お、伸びてきた伸びてきた。」


ジルクの犬歯はメキメキと音を立てそうな勢いで伸びていく。


「まぁこんな感じだ。これで吸血鬼は相手の血を吸って魔力や体力回復のために使ってたとか使っていなかったとか…って話だな。」


ジルクが出した犬歯は親指くらいの大きさにまで伸びていた。


「へぇ〜、吸血鬼なんているもんなんだね、、でもその犬歯って邪魔じゃない?」


「もちろん。だから真祖から進化を遂げて邪魔だった犬歯をしまうことができるようになったんだろう。」


吸血鬼の真祖話は大体が神話として語り継がれているため、確信を持ったようなことは吸血鬼自体もあまり分かってない。


「じゃあ吸血鬼ってことは認めるけど…どこからきたの?もしかして私が知らないだけで結構吸血鬼っているものなの?」


元の世界ではこんな質問聞いたことがなかった。どうやら本当に世界が変わったらしい。


「わからない。まだこの世界を詳しく知らないからな。ユミカ、俺にこの都市周辺を案内してくれ。俺だってなんでこんなことになってるかイマイチ分かってないんだ」


「そうね、質問攻めして悪かったわ。今日は私も休みだし周辺なら案内できるわよ。」



意外にもユミカは道案内の件を承諾し、どたどたと準備をし始めた。


(元の世界と変わったところは『魔法の存在と吸血鬼の存在がないこと』だ。これはあくまでもユミカだけの証言だけだが、俺が道路で寝ていたことを踏まえて考えると、吸血鬼は吸血鬼をお互いに尊重し合い、困っているあるいは吸血鬼らしくない行動をしている奴に積極的に助けに行くはずだ。

それがなく、逆に吸血鬼を嫌う人間に助けてもらうなどは元の世界ではそうそうあり得ない話だ。)


ジルクがそう考えた上で次に考えなければいけないのは『どうしたらこの世界から元の世界に戻れるか』だった。


「なにぼ〜っとしてるの?私だって他のことやりたいんだから早く行くよ!」


ユミカはちゃっちゃと支度を済ませて玄関へと向かっている。


(まだまだ謎が多そうだが、とりあえずこの世界のことを知らなければ元の世界に帰ることもできねぇか。)


ユミカの後ろを一定距離を保つようについて行った。


「お、おぉ!?なんだここ!?」


ユミカのアパートを出て狭い道路を抜けるとそこには大きな塔を中心とした大都市が広がっていた。


塔を中心とする大きなビルはどれもガラス張りで、太陽の光を全面から反射している。


「案内します!ここが都市リリアンカーラの中心です!実は私の家って中心から結構近いのよ?」



感激した。



まさか魔法なしでここまで大きな塔を作れるとは考えていなかった。予想外だ。


「そういえば今思ったけどあなたって太陽とか平気なの?ほら…アニメとかマンガだと吸血鬼は太陽の光をがあたっちゃうと死んじゃったりするでしょ?あなたはどうするの?」


今思えばそうだ。吸血鬼なんだから太陽の光が苦手だというのは間違ってないはずだ。


それで疑問なのが吸血鬼にも関わらず今俺は太陽光を全身に受けながらも生きているということだ。


「それは…知らん。真祖の頃は太陽の光が苦手だったかもな。」


「ってことは現代になるにつれて吸血鬼も太陽の光の元でも動けるようになったの?」


「俺が特別なだけって訳でもないしな、多分そうだろう。」


「多分って…同じ吸血鬼なんでしょ?命に関わる問題なんだから知ってて当然でしょ…」


知らないというより気にしてなかった。

理由は単純だ。


「少なくとも生まれた時から俺は太陽光を浴びても平気だったし、人間と吸血鬼が共存している時点で俺が生まれる前から耐性がついていたはずだ。耐性がない中で人間のフリをすることなんて到底難しいと思うからな。」


1番わかりやすい説明をしたと思ったのにユミカはふーん。と明らかに興味のない返事をして中心の塔に進んでいった。


俺はというと説明をサラッと無視されて凹んでいるがこの世界の知らない事をユミカが説明してくれることを待ちながら後ろをついて行くしかなかった。


(しかし、これは驚いたな…魔法を使わずしてここまでできるのか。やっぱり人間の思考はよくわからん)


人間の気持ちを理解する気はそうそうないが、このような発想をする人間の思考には少しばかり興味というものがあった。




大道路をまっすぐ進んで5分ほどで中心の塔についた。


「ここが都市リリアンカーラのシンボル『リア・アイナー』っていう電波塔です!


下から顔を上げて見てみるがやはり大きい。元の世界でもこれににた建造物も見られたが、どの建造物よりも明らかに迫力が違った。


「なんだここは…よくここまでの建造物を作ったな。」


「一応制作期間は約2年といったところかな。私もここまで大きな電波塔ができるなんておもってもなかったわ。技術の発展って素晴らしいわね。」


そう言いながらポケットから何かを取り出した。


「ん?なんだそれ 」


もちろん俺は見たことないものだった。


「これ?これも知らないの!?」


どうやらこの世界での必需品らしい。ユミカは呆れた口調で


「これはPST。ポータブルスマートタブレットの略よ。ここのボタンを押す、っと」

ボタンを押したとたんにユミカが持っている何かから画面が現れた。


「うおっ!?なんだそれ…それが人間の作った『技術』なのか?」


「人間の『技術』ってなんなのよ…あ、あなたそういえば吸血鬼だったね。一応これは全て人間が作った物よ?」


画面にはたくさんの機能が付いていて、その中の検索エンジンでユミカはリア・アイナーの詳細を調べた。


「ほら見て、これがリア・アイナーの詳細。高さは842メートル、都市最大の電波塔で、その大きさや都市の中心に位置してることから『地下に裏社会を作っていて情報をその電波塔から収集している』だったり、『他の都市との戦争時にミサイルを撃つことができる』などの都市伝説が絶えないわ。」


そう言ってジルクにPSTの画面を見せた。


「ほう…ニュース掲示板みたいだな」


「うん、よくわかんないけどそんな感じ。」


ジルクの世界にも機会技術はあったがそこまで発展はしていなかった。それこそニュース掲示板という都市一帯のニュースと人々の感想をまとめたものを見るた

めのタブレットはあったが技術もそこまでだ。


「どう?登ってみる?まぁ嫌だと言っても連れてこうとしてたけどね」


「安心しろ、逆に興味がある。人間だけの世界でこんなものが作れるのはちょっと気になったからな。」


ユミカは「じゃあ決定!」と言いながらどんどんリア・アイナーの内部へと入っていった。


俺はというと周囲の建物が気になるが見ているとユミカに置いていかれそうなのでおとなしくユミカの背中を追うことしかできなかった。



(あいつ…牙竜もここに来ているんだよな…出会った場所がどこであろうと関係ねぇ。全力でぶっ潰してやる)

ジルクは心の中で考えながらユミカと共に行動するのだった


最後読んでいただき、ありがとうございます!

赤坂蓮です。

今回は吸血鬼、もう一つのお話です。2つのストーリーを組み合わせて作るのはまた難しく、正直書いている途中で長考することが絶えないです。

まぁ魔法もなかなか登場してくれないので書いてる本人的にはちょっと手が進まない場面にはなってますが、2人分のストーリーが今後噛み合ってくるのかなと考えた時に考えただけで早く進めたくなるんですよね。

それでも物語を変えるつもりはないのでもう少し書いてる本人には耐えてもらいます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

また次回のあとがきでお会いしましょう!

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