魔法衝突と世界並列線
人々は〈魔法〉という革命的な技術を身につけて、強大な都市を作った
「魔法は全ての理屈を覆した」「魔法さえあれば人々はどこまでも成長できる」
当時の人間にとって魔法というのは国や世界を簡単に変えるほどの革命的なものだった
しかし人々はさらなる強大な魔法を求めた。
〈召喚術〉を使って魔法の原理を見つけたと言われている〈吸血鬼〉を召喚し、都市や国を大発展させた。
そして魔法を身近なものにするために教育課程などに入れることにより誰しもが魔法を使えるようになった。
しかし…
魔法は時に人類を潰す刃となる
吸血鬼を召喚して200年
これまで共存していたこの世界で吸血鬼は人間、人間と吸血鬼のハイブリッド 〈ヴィルガンド〉
と対立し、魔法の大戦争となった
「おいおい、これ本気でやばいんじゃないか!?」
烈火の炎に包まれた魔法都市〈マボレイド〉を空から
〈空動〉を使って飛びながら見渡す
第一次魔法大戦と呼ばれるこの戦争は
ジルク・ラルバイド率いる吸血鬼〔ヴァンパイア〕軍と俺、牙竜・ガルムナート=ゼロ率いる人間&ヴィルガンド
〔防衛帝名軍〕軍がぶつかり合って起こった魔法戦争であり、都市を賭けた壮大な戦争にまで膨れ上がっていた
「右に3…雷の上位魔法を使う吸血鬼、左に4…召喚士による幻獣族の精霊、いよいよだな。」
一刻も早く吸血鬼軍の親玉を倒すために探しているなかで、防衛帝名軍の仲間の和馬・リングフォードが
〈脳内会話〉を使って脳内に直接話しかけてくる
「牙竜!ジルクの居場所が分かった!ここを真っ直ぐ飛んだ先の小枝が生えている崖だ!軽く数キロメートルはある!〈護衛軍〉と〈極似色彩〉を使ってるから
〈極視〉を使うといい!」
「やっぱり味方の援護をしていたか……わかった。ここからは俺の考えだが、あいつの場合、簡単に見つかることを防ぐために〈極似色彩〉を二重にして使っているかもしれん。〈極視〉にも限界があるから誰か魔法を打ち破ってくれる奴に連絡してくれ。」
〈脳内会話〉はどんなに離れていても相手と会話ができる魔法だが、一人づつしかできないというデメリットがある。
「スナイパー援護で良ければ七瀬がいる!
特殊弾で一時的に魔力を弱らせることができるが時間で考えると数秒しかもたない!いけるか!?」
正直なところ崖にいるのが確信的な情報だとしても数秒間で接近戦に持ち込むのは相当難しい
だが、やってみないとわからないこともある
「七瀬か、、まぁ大丈夫だろう。念のためにプレッシャーでもかけておいてくれ」
「それってむしろダメなんじゃ…」
「あいつは緊張に強い。本番の時に大成功する奴ってよくいるだろ?」
「なんすかそれ、チャンスは一度きりなんですよ?」
「そんなことはわかってる。だからこそ試してみたいんだ。ガラム弾21式特殊速攻弾を使うようにすぐに連絡してくれ」
「了解。リーダーも気をつけて下さい」
「安心しな、失敗はしねぇよ」
〈脳内会話〉を切って崖へと向かう
崖までは数キロメートル、〈空動〉で移動しても1分はかかる。
だが、
「お遊びはここまでさ」
空動を使っているが魔力の消費は全然ない。日頃から行なっている訓練も無駄になることはなかった
両手で大きな魔法陣を二重にして自分の前に作り出す
そこに突っ込んだ途端、空動の効果が倍増し、一気に加速した
強化魔法〈増強〉だ。
〈増強〉は一定時間の間自身にかかっている魔法の効果を最大限に引き出すことができる魔法。
また、〈増強〉によって最大限に発揮した魔法の魔素消費量はもともとの魔素消費量と変わらないというチート級魔法だ。
しかし〈増強〉を使うために魔素が使われるため、魔素に余裕がないといけない。
「これで20秒ぐらいか…」
いつのタイミングで七瀬が特殊弾を発射するのかはわからない。あらかじめ教えることもできたが、それを逃した瞬間に人間軍の敗北は決定する。
「七瀬、お前がこの戦争の鍵だ、、」
ボソっと呟きながら全速力で崖に向かう
「ちょっ!?なんで大事なところを聞いてないんすか!」
「忘れたもんは仕方ねぇだろ。ガラム弾21式特殊速攻弾を使えというリーダーの命令だからな。くれぐれも失敗すんじゃねぇぞ」
急に脳内会話がきたかと思えば「数キロメートル先の崖に見えない敵がいるから特殊弾で打ち抜け」という無理難題を押し付けられた。
さらには撃つタイミングを聞き逃したという
「な〜んでリーダーは俺を選んだんかなぁ」
若干疑問に思いながら特殊弾を右腰のポーチから取り出す。
取り出す時にふと気がつき、急いで和馬に〈脳内会話〉を使う
「崖にいるってのは聞いたけどよぉ、その相手ってどんな格好をしてるんだ?」
「格好?そんなもん〈極似色彩〉を使ってるからわかるわけないだろ」
「…はぁ?」
正直言っていることがわからなかった。
普通は見える相手を打ち抜くものだが、今回は全く目に見えない敵に命中させろと言われている
…これほど意味不明で不可能に近いミッションを命じられたのは初めてだ。
「およその場所ぐらいなら分かる。お前から見て少し左に崖の真ん中ぐらいから小枝が生えてるのが分かるだろ?そこの上にいるはずだ」
「いるはずって…」
「情報は伝えたからな!頑張れよ!」
「頑張れって言われたって鬼畜すぎるだろ!」
装填を終えて自分が打ちやすいように構える
そこで七瀬はガラム弾について学んだことを思い出してしまった。
「ガラム弾の21式って魔法装甲も打ち抜く強力な弾じゃなかったっけ…作るまでの過程が難しすぎるからリーダーでさえも入手するのに困ってるって言ってて、確か値段は通常弾でも軽く100万はするとか…」
考えがだけで鳥肌が立つ
(俺は今から見えない敵に向かってこれを撃つんだろ?この100万の塊を…)
冗談じゃない。
ただでさえ練習で上手くいかない数キロ先の相手を撃つことをいきなり本番、さらには一発100万の超高級弾となると震えが止まらない
だが俺にはできるという自信が溢れてきた。
「やってやろうじゃねぇか」
自分でも何故かわからない、だがこの一発に全てがかかっているからこそできる、そんな気がした。
「標的は見えない相手…しかも数キロメートル先の相手となると魔法で補正をかけてもキツイかもな」
七瀬のスナイパーライフルは武器職人に頼んだ特注品で、4キロ先までは空気抵抗や弾の重さを無視してまっすぐ飛ぶようになっている。
幸い自分がいるビルが一番高いため障害物なしに一直線に見えるが数キロも離れていると特注のスコープでもギリギリ見えるぐらいだ
「あの今飛んでるのがリーダーだろ…で、標的はその先の崖、和馬からの情報だと小枝が生えた崖の上にいるらしいが…」
全くいる気配がない…
「本当に見えないのかよ…けどやるしかないんだよな。人がいること前提でぶっ放してやるよ」
防衛帝名軍に入軍した時に支給されたたった一発のガラムの特殊速攻弾に願いを込めて引き金を引く。
呼吸を止めて崖先の見えない標的を見つめる
「風向は南南西、風力は2といったところか…」
この場合、呼吸や風による1ミリのズレが数キロ先の世界では数十センチメートル単位でズレることになる
(リーダーの命令だ…リーダーが頼ってくれたんだ…俺は…リーダーの役に立ってみせる)
そう自分に言い聞かせた。
見えない相手を打ち抜くなんて前代未聞の初体験だ。
(この初体験をくれてやるよ。吸血鬼のジルクさん)
必ず当たる、その気持ちを心に留めて七瀬は一発を放った。
「だいぶ崖まで近くなってきたか…」
〈極視〉という魔素の量が見える魔法を使っているが崖の先端には何もないように見える。
「やっぱり止まって見てみないと魔素の揺らぎがわからないな…」
魔法というのはもともと自分の中にある魔素というものを消費することで使えるが、魔素によって魔法が形作られると同時に魔素の揺らぎというのが必ず見える。
(〈極似色彩〉を二重に使われてるとほぼ完全に揺らぎが消える…)
内側の極似色彩で自分の外見とカモフラージュさせ、外側の極似色彩で魔素の揺らぎをカモフラージュさせているので普通の人どころか極視を使った人ですら見落としてしまうほど完璧に隠れることができる。
「だからこそ魔法を撃ち抜く手段を選んだ。成功はその次だ」
崖との距離は700メートルを切っていた。
若干焦っている自分がいたのかもしれない。
本当に七瀬はやってくれるだろうか、もし当たったとしても間に合うことができずに対策をされたらどうなるのだろうか。
考えるだけで確率が低いことは身に染みるほど実感できる。
(だからこそ俺は防衛帝名軍のみんなを信じたんだと思う。だから…この勝利は譲れない!)
自分も〈極似色彩〉を使って崖に向かう。
500メートル…400メートル…300メートル…
どんどん近づくとともに自分がこれから行うことがどれだけ重要なことかを知らされる
200メートル…100メートル…
崖には何も見えないはずなのに何かに恐れている
(戦力はお互いに変わらない…いや、ジルクも昔の戦力ってわけないだろう。いかに先制攻撃を打ち込めるかが勝負だ)
もう崖のに辿り着こうとしているのに七瀬の銃弾は来ない。あたらずに過ぎたのかもしれない。
七瀬の銃弾がどうなったのかはわからないがここまできての後戻りは許されない。
自分だって言っていることが無茶だってわかっていた。
だけど半強制だったが七瀬はそれを実行した
(こんなに近くまできたら俺の居場所なんてすぐにバレるだろうな。けどな、みんなのためにも…この戦争は負けられないんだ!)
自分の直感を頼りに突っ込もうとした刹那ーー
自分のいる数センチ隣から何かが飛んできた
(この戦争、負けられないんだろ?)
七瀬が撃った特殊弾は空中で回転を強めて崖先にいたジルクの〈極似色彩〉をぶち抜いた。
(ーーー見えた!)
極似色彩がなくなった相手のリーダー、ジルク・ラルバイドは魔素の揺らぎが全面に溢れ出し、サバンナの荒野にいるたった一体のゾウのように目立った。
「なっ!?二重の極似色彩が破壊された!?」
自分の予想よりも少し右にいるが状況がわかっていないジルク相手にとってこの戦況は圧倒的に俺の方が有利だ。
(飛ぶ向きさえ変えれば先手がうてる!)
瞬時に軌道を変え、ジルクのふところへと忍び込む。
「てめぇ!いつの間に!」
ふところへと入り込んだ俺は即座に魔法を放つ。
「〈噴炎業火〉」
右手に作った魔法陣から繰り出された紅蓮の火の玉はジルクに直撃し、吹っ飛ばした。
「先手必勝!」
ここまで魔力を消費したジルクなら大ダメージを負っているだろう
「念のためにもう一発…」
右手で魔法陣を作り上げようとしたとき、背後に気配を感じた。
「ーーそんなものでくたばるとでも?」
背後に感じるのは、、ジルクだ
「なっ!? グフっっ!」
振り向いて防ごうとしたが間に合わずに蹴りを入れられ、吹っ飛ばされる。
魔法には魔法でカバーをすることができるが打撃ダメージは魔法でカバーがしにくい。
地面に足をつけて吹っ飛ばされた力を軽減する
「なんだよ…直撃じゃなかったのか?」
「〈守護陣〉を使うことができないとでも?」
〈守護陣〉は魔法攻撃を無力化する防御魔法の一つだが、上位魔法だったり制御が難しかったりすることで、魔力の余りがたくさんないと使えない魔法で知られている
「なんでそんなに魔力が残ってるんだよ」
「死人に教える事なんてねぇ!」
両手に魔法陣を作り、こちらに向かってくる
「〈氷塊槍〉」
魔法陣から尖った氷塊が飛んでくる
「〈消印〉!」
〈消印〉は相手の魔法の効果や威力を打ち消す魔法。
しかし、
〈守護陣〉とは性能が異なり、魔法陣に魔法を直接当てないと打ち消すことができない。
すかさず右手で魔法陣を作り、相手の氷塊を打ち消す。
牙竜が使った〈噴炎業火〉は高火力ではあるが魔素をたくさん消費するため、連続で使うためには時間がかかってしまう。
「まだまだ行くゼェ!」
次の攻撃魔法を撃つ前にジルクが攻撃を仕掛ける
「〈氷塊連射槍〉」
両手で作られた大きな魔法陣からは尖った氷塊が沢山飛んできた」
「〈消印〉!〈消印〉〈消印〉〈消印〉!」
ジルクから作られた氷塊を一つ一つ打ち消していくが、当然全てを打ち消すことが出来ずにいくつかの怪我を負ってしまう。
致命傷には至らなかったが長期戦を考えると厄介な傷となった
〈守護陣〉を使えば全てを無効化することが可能だが、それを使ってしまうと攻撃魔法を使う魔素がなくなってしまうことは気づいていた。
だから使わなかった。
いや、使えなかったの方が言葉としては適正だ。
「俺には勝てないことぐらい自分でもわかってんだろ?牙竜さんよぉ!」
ジルクは攻撃の手を休めずに〈氷塊連射槍〉を撃ち続ける
(なんでこいつはこんなに魔力があるんだよ!)
逃げながらも〈消印〉で氷塊を打ち消す
一応、噴炎業火が撃てるぐらいの魔力は溜まったが、相手に当てれるほど簡単な状況ではなかった。
〈氷塊柱!〉
牙竜目掛けて繰り出されたのは尖った氷塊ではなく、大きな氷塊の柱だった。
さっきまで使っていた〈消印〉も、魔法陣よりも大きいものは無効化できない。
(あえて〈消印〉を使わせない気か、それなら…)
両手を地面につけて、地面に魔法陣を作り出す
「〈炎烈防壁!〉」
自分の周りを炎の壁が包み込む。
作り出した炎の壁は分厚く、氷塊の柱を一気に溶かしていく
〈炎烈防壁〉は自分の周りを炎の壁で包み込む魔法だが、作り上げた炎の壁を自由に動かしたりすることが難しいため、この魔法を使うと身動きが取れないというデメリットもある。
「攻撃はできなくても時間稼ぎにはなるだろう。」
安心したとたん、揺らぐ炎から拳を固く握ったジルクがでてくる
「そんなちっぽけな炎でおれがたじろぐわけねぇだろ!」
隙だらけの牙竜目掛けてジルクのパンチが炸裂、思いっきり吹っ飛ばされる。
炎烈防壁も動いてしまったので持続は不可能、あっさりと消されてしまった
空中で一回転し、手足両方を地面につけて吹っ飛ばされないように力を分散させる。
ジルクの居場所を確認するが、吹っ飛ばさされた場所にはもういない。
「目で追えねぇなら相手にもならねぇな!」
振り向くまでもなく、後ろにジルクがいることはわかっていた。
(こいつ、知らない間に比べ物にならないくらいに強くなってやがる!!)
振り向いた所には〈反転暗動波〉
を溜めたジルクがいた。
「ここまで溜めた反転暗動波なら防御魔法使ってもイチコロだなぁ!」
〈反転暗動波〉は禁断魔法の一つで、生身の人間は使うだけで両腕が飛ぶという強力な魔法の一つである。
(これは、、ガチで死ぬ!!)
左手に自分が作れる最大の魔法陣を作り、反転暗動波目掛けて使う
〈消化却然〉
触れたものを完全消去する禁断魔法。
言い伝えでは魔族に支配された地球に対して数人が作った大きな〈消化却然〉の魔法陣によって歴史ごと完全消去したという話まである。
しかし、危険すぎる魔法であり、人に使うことによってその人を完全消去することもできるので使うことを法律で禁止するほどの魔法でもある。
「俺がどうなったっていい!お前を…お前を止めることに全力を尽くす!」
「俺はここでお前を、そして人間をも全て潰す!」
ジルクの作った〈反転暗動波〉と
牙竜が作った〈消化却然〉
二人が作った魔法は互いにぶつかり合い、光を放ったと同時に全身が吹っ飛ばされる
世界並列線変更 ー発動ー
最後まで読んで頂き、ありがとうございます
この作品はもともと異世界の物語を書こうとしてできた駄作でした。しかし、「魔法小説も書いてみるのも面白いかもしれない」と思って作られた勢いとノリでできた作品です。
ノリで作ってしまったので表現の仕方がイマイチだったりしますが、それも一つの面白さととらえて見ていただけると嬉しいです。
それでは次回のあとがきでお会いしましょう。