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クールな白刃さんはデレで殺す  作者: アオカラ
第一章 二人の数奇な出会い
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第13話 散歩へお誘い


 新緑の香りが空気を包む五月というのは、学校行事的には中間テストぐらいしか目立った物はなく比較的落ち着いているようで、ゴールデンウィークが挟まっているからイベント的な視点から見ればかなり楽しい月だ。

 もっとも、まだ始まったばかりの学校生活で友達とワイワイエンジョイできる人は全体の半分ぐらいの割合だと思う。中学からの知り合いとか、たった一ヶ月でとてつもなく仲良くなった人だとか、そういうのでも無い限り。


 僕の場合は、かなり仲良くしてくれる男子と女子が一人ずつ居てくれた。

 連休はカズと遊びに行くのも良いかなと考えたりしたが、彼は先約があったようで僕と遊びに行ける日は少ないらしい。さすがようの者。


 白刃さんは誘うには恐れ多いというか、たとえ同じマンションに住んでいるから合流しやすいみたいな外堀そとぼりが埋まる理由があったとしても、男と二人きりはさすがに嫌だろうと考えて僕から誘うのはやめておく。


 せめて仲の良い女の子がもう一人ぐらい居れば、ちょうど良いバランスにでもなりそうなんだけど。


 となると、休みの過ごし方は家でゆっくりするかこの地域のマッピングぐらいだろう。

 散歩でもすれば土地勘も増すはず。

 うん、一年目のゴールデンウィークはこういうのんびりした過ごし方で良い。ワイワイ楽しくは、来年に譲ろう。


 そんな風に考えていた、連休前の登校日。

 明日から始まる休みに何をしようか、どんな事で遊ぼうかといった楽しげな空気が学校全体を包んでいる日。

 僕もその一般大多数のうちの一人の生徒であるはずだった。

 緩い空気感に骨抜きにされて、勉強にもあまり熱が入らない普通の生徒、その枠組みにいるつもりでいた。

 隣の席で、住んでいるマンションも一緒の女の子からお誘いをされるまでは。


 授業後の休み時間。思い出したかのように彼女から聞かれる。


「そういえばあきと君は明日からの連休、何か予定は入ってますか?」

「えっと、お恥ずかしながら特に入ってないよ。家でのんびりするとかテストに向けて軽く復習とか、あとは家の周りを散歩でもしてマッピングしようとか、それぐらいだね」

「お散歩、良いですね。お一人でですか?」

「うん、散歩に誰か付き合わせるのも申し訳ないし、一人だよ」

「あら、そうなのですね」


 ほんの少し考えたかのような素振りをして彼女は続ける。


「私、この連休をどう過ごそうか少し考えてたのですが、もし良ければ遊びに行きませんか?」

「……あ、あの」

「もしかして、ご迷惑でしたか?」

「いや! どちらかと言えば僕が白刃さんの迷惑になるんじゃないかって心配の方が大きいというか!」

「それは問題ありません。迷惑なわけないですよ? 私から誘っているというのが一番の証明になるかと」

「そ、そうかな……?」

「そうですよ」


 さも当然といった具合で言い切る姿は迷いが無い。けれども今の状況、女の子に誘わせているのは甲斐性無しと言われるかも……。

 今の僕が出来ることは、彼女のお誘いにちゃんと向き合って答えることだろう。


「……どこへ行きましょうか」

 気が張りすぎてぎこちない誘い方をしてしまった。彼女が放つものとは程遠い、取って付けたような敬語でのお返事。けれど彼女はほんの少し微笑み、答えてくれる。


「家の近くをお散歩すると言ってましたよね。良ければ案内しますよ」

「良いんですか?」

「ええ、この辺りは馴染みのある土地で色々教えられると思いますから」

「白刃さんはここら辺出身なんですか?」

「はい。と言っても住んでいたのは結構前ですからこの辺りがどう変わったのか少し興味があるのです。ぜひ一緒に行きましょう」

「そう言ってもらえますならありがたいです……」

「ふふ、敬語抜けてませんよ」


 抜けきらなかった敬語で変な喋り方している僕を見て、彼女は小さく笑った。

 恥ずかしいと言っていたのは彼女なのだけど、最近は笑ったところを見せてくれるようになった。

 と言ってもにぱっとした明るい笑顔ではなくほんの少し口角を緩ませる優しい微笑ほほえみ方。僕はそのやんわりとした微笑びしょうを向けてくれることに喜びで気が高鳴ってしまう。彼女にそれだけ気を許してもらえている証なのかなと思ってしまうから。


「あの喫茶店も残っていてくれたら嬉しいのですが……」


 微笑は崩さぬまま、彼女はぼそりと呟いた。懐かしさを憶えている表情で呟いた彼女が気になってしまう。


「喫茶店? 散歩する予定の場所にありそうなの?」

「そうですね、とてもおすすめの場所で素敵なところなのです。もし今もあれば一緒にお茶でもしましょうね」

「わ、分かった。楽しみにしておくよ……!」


 さらっとお茶の予定も組み込んでくるあたり、余念がないというか計画的というか。会話の二手三手先を読まれているようで畏怖すら感じてしまう。人生のどこでこんなさとさを手に入れたんだろう……。


「それと連絡先を交換しましょうか、私まだあきと君のを知らないのです」

「あ、そうだったね。待ってね、携帯出すから」


 正直、女子と連絡先交換なんて結構嬉しい。いや、というか友達ができたことも同じぐらい嬉しい。しかもそれが白刃さんなら尚更。


 そうこうしていると先生が教室に入ってきて、授業の準備を進めていた。

 白刃さんは耳打ちするように声を掛けてくる。


「あきと君、日時などはまたお昼休憩の時に詳しく話しましょうか。今日もお弁当ですよね?」

「うん、もしかしたら近くにカズもいるかもだけど大丈夫?」

「大丈夫ですよ。その時あきと君も月見里やまなし君と予定の相談をできると思いますから」

「あ、そういえば確かにそうだね。ていうか僕がカズと遊ぶ予定なのをよく知ってたね?」

「勘です」

「ジョークだよね?」

「あきと君はしっかりツッコミを入れてくれるから、好きですよ」

「ぐっ……。ま、まぁ分かったよ、またお昼にね」

「はい、お願いします」


 ドキッとするほど特別な意味なんてないのだろうけど、「好き」という言葉は胸に刺さる。慣れない言葉を向けられると、それだけで殺されそうなぐらいだ……。白刃さんはもう少し自分自身の持つ魅力を自覚した方が良い気がするな、周りの人が持たないよ……。

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