ドウカサレタ星
書いてみました。
面白いかどうかはともかく。
世界人口が五十億人を突破し、人口の増加を原因とする様々な環境・経済問題がさらなる悪化を見せた近未来。
国連はそれらの問題に対処するため、これまで国家間で競い発展させてきた宇宙開発を、国家間で協力し合い発展させる事を表明。
この決定に一部国家は自国の利益を考え反対したが、最終的に全ての国が、次代の若者の事を思い、一致団結して宇宙開発に臨んだ。
――そして月日は流れ、十数年後。
ついに人類は、移住可能な星を見つけるため外宇宙へ旅立った。
果たして彼らが行き着く先は人類のさらなる発展か、それとも破滅か。
俺達が乗る宇宙船は、ついに人が住めそうな無人惑星を発見した。
地球からは、十回以上ワープを繰り返さないと辿り着けないほど遠い惑星だ。
「おお。見た限り人間……それどころか動物すらもいない。にも拘わらず大自然があるとは……移住してくれと言わんばかりの惑星だな」
衛星軌道上から、望遠鏡を用いて惑星を観測しながら船長は言った。
なんだか怪しい惑星だなと……この時、船長のみならず他のクルーも思った。
大自然があるのに、その大自然の中で生きる動物がいないなんて、誰がどう見ても異常な環境である。
もしかすると惑星全域に、植物以外の生命を絶滅させるウイルスが存在しているのかもしれない。
しかし、怪しいからといって降りないワケにはいかなかった。
もしかすると怪しそうに見えて、意外と無害な惑星かもしれないからだ。
「じゃあ諸君、一応宇宙服を着た状態で調査を始めよう」
船長は、宇宙船が無事着陸するなり指示を出した。
※
宇宙服に着替え、俺達は地上に降り立った。
『うはー。なんだか温かい地面ですね』
男性クルーが言った。
『それに柔らかい。まるで草ばかりの湿地帯みたいに』
『その辺に、底なし沼とかあるかもな』
俺は一応、警戒の意味を込めて言っておいた。
『うはー。それはありえますね』
男性クルーは青ざめながら同意してくれた。
『……』
そして、そんな会話をしている時だった。
女性クルーの一人が、周囲を無言で見回し始めたのは。
『どうした?』
船長が女性クルーに訊ねた。
すると女性クルーは、顔を青ざめさせながら、
『せ、船長……な、なんだか視線を感じるんですけど』
と小声で言った。
『視線? ……そう、言われると確かに……』
言われて、船長は気づく。
俺と、他のクルーは遅れて気づいた。
上以外の全ての方向から、誰かが俺達を見ていると。
しかしそれらしい存在は見当たらない。
ちなみに、木はちらほら生えているが……その枝は細く身を隠すのは難しい。
なら、いったいどこから?
まさかとは思うが、この視線は俺達の気のせいなのか。
はたまた相手は透明人間なのか。それとも地下にいるのか。
とりあえず俺達は、宇宙船から持ってきた銃火器を構え、すぐ近くにいるクルーと背中合わせになって互いの背後を守る事にした。
そして、隣にいるクルーと背中合わせになろうとした……その時だった。
「そう構えるなよ」
なんだかフランクな口調の、男の声が聞こえてきたのは。
俺達は一斉に、その声がした方向へと視線と銃口を向けた。
するとそこには、髭面で全裸な背の低いおやじがいた。
ま、まさかこの惑星の先住民か?
いやそれにしては……言語を。さらに俺たち地球人の言語を理解するくらいの知性を、どういうワケなのか持ちながらも……いやもしかすると、たまたま同じ言語を操る知的生命体なのかもしれないが……とにかく外見からして、それらしい文明人にはとても見えなかった。
『キャッ』
女性クルー全員が悲鳴を上げる。
まぁ全裸なおやじがいれば叫びたくもなる。
「あん? 悲鳴を上げられるような事をしたかな?」
しかしおやじは、なぜ悲鳴を上げたのかを理解していなかった。
まさか、この惑星には服を着るという文化が存在しないのだろうか?
『……何者かは知らんが』
船長が、おやじに話しかけた。
『とりあえず、股間を隠してもらえないだろうか?』
「こかん?」
どうやらおやじは股間という概念を知らないらしい。
だけど、船長が自分の股関の部分を両手で隠した事で、なんとかおやじは俺達の要望を理解してくれた。
「しっかしお前さん達には、この部分を隠す文化があるとは……変な文化だな」
おやじは股間を隠しながら言った。
恐るべし。
カルチャーギャップ。
『と、ところで、改めて質問をしたいのだが』
船長が話を切り出した。
『あなたはいったい何者ですか? この惑星の民なのですか?』
「いんや、違う」
おやじは即答した。
「俺はこの惑星の……ガン細胞さ」
俺達は、おやじが何を言ったのか理解できなかった。
するとおやじは、そんな俺達の理解の度合いを察したのか、
「まぁ、話せば長いんだけどよ」
と前置きした上で、詳しく話してくれた。
※
元々この惑星には、普通に人間や、動物や、虫や植物が暮らしてた。
最初はそれぞれがそれぞれの存在を尊重して、平和に暮らしていた。
だけど時が経つと……人間はこの惑星の環境に慣れてきたせいか、火を操る事を覚えた。
そしてそれをキッカケにして、自然界のありとあらゆるモノを操る事を覚え……最終的には、道具を生み出した。
人間は動物や虫や植物を尊重する事を忘れ、無尽蔵に増え続け、それどころか、動物や虫や植物を必要以上に食べた。
だが、物質界のモノは基本的に有限だ。
消費し続ければ……いずれは無くなる。
さらに時が経つと、人間はさすがにそれに気づいて……反省し、再び動物や虫や植物を尊重した……かに見えたのだが、ほとんどの人間は、今度は動物や虫や植物を、自分達の手で増やす事を覚えた。
人間よりも長くこの惑星に存在している先輩をだ。
もはや、不敬罪という概念すら忘れ……いや、人間の中の偉い人間が侮辱された時に適用する不敬罪は存在したが……とにかく、自分達より長く生きている種族を尊重する事を、人間は完全に忘れてしまった。
そしてついに人間は、文明を生み出した。
文明が生まれると、人間の他種族への態度はさらにひどくなり。
食われる動物だけじゃない。
殺される動物だけじゃない。
生き殺しという言葉が一番似合う……〝飼われる〟動物が出てきた。
もはや奴隷に近い扱いだよ。
でもって動物の方も……動物としての誇りを忘れて人間に媚び売っている。
まったく救いようがないな。
そして、そんな状況が続き。
ついに人間は、天敵となりうるモノを全て駆逐し……さらに増殖した。
人間以外の全てを食らい尽くさんばかりの勢いでね。
戦争は、もちろんあったよ。
動物や虫や植物に、敬意を払わない事をよしとしない人間がいたりしたからね。
というかもはや戦争だけが、その時では唯一の……人間が減りうる手段だった。
しかし人間は、その頃にはすでに〝悲しみ〟という感情を覚えていた。
そして戦争で被害を被った人間達は反戦運動を始め、最終的にこの惑星から戦争がなくなった。
そして戦争がなくなれば人間はさらに増え続け、生まれた人間の中から頭の良い人間が出始め、その中の数人が医療を発展させ……ついにこの惑星の人間は、寿命さえも、死さえも、克服してしまった。
死から解き放たれた人間は、さらに増え続けた。
逆に人間以外……動物や虫や植物は減り続けた。
おかげで食糧問題が悪化したが、それを解決できうる時間は存在しなかった。
そして最終的に……この惑星の人口密度は二〇〇パーセントを超え、人間以外の生物は、ついに絶滅した。
ここまで来たら政府も、さすがに別の惑星への移住などの案を考えた。
だがそれは、別の惑星を我々の運命に巻き込む背徳行為だとして没案にされた。
動物や虫や植物の尊厳を散々奪い、減らしてきた人間の意見とは、到底思えない意見だな。
だが政府は、現状打破を諦めなかった。
そして最終的に政府は……なんと、全ての人間を、この惑星と〝同化〟させるというふざけているとしか思えない案を出した。
しかしその案を、この惑星の全ての人間は受け入れた。
戦争で減らすよりは、遥かに穏便な手段だと誰もが思ったのだ。
そして政府は、この惑星と融合するための道具を生み出し……惑星の全ての人間にその道具を渡して――。
※
「――そして、今に至る」
おやじは最後にそう締めくくった。
なるほど。
視線の謎が解けた。
俺達が感じたのは、この惑星と融合した人間達の視線だったんだ。
いや、それだけじゃない。
最初に男性クルーが感じていた、この惑星の温かさ、そして柔らかさも……この惑星が人間でできているが故のモノだったのか。
いや、でもそうだとすると――。
『ちょっと待て!? だったらお前は、どうして人間の姿なんだ!?』
そこだけ疑問が残るので、俺は即座に質問した。
するとおやじは、俺の方を見ながら言った。
「いやぁ、実は他の融合した人間に、協調性がないって事で追い出されてさぁ」
『『『『『はぁ?』』』』』
クルー全員が頭上に疑問符を浮かべた。
「確かにこの状況は平和なんだけどさぁ……なんか気持ち悪いっていうか、なんていうか……そう思った瞬間に追い出されちまった☆」
テヘペロ☆ みたいな感じでおやじはウインクする。正直気持ち悪い。おやじの方が気持ち悪い。いやおやじの言う平和な状況に至った手段も気持ち悪いけどさ。
「というワケで別の惑星からの客人。よかったら俺を別の惑星に運んじゃくれないかい?」
『『『『『はぁ?』』』』』
唐突に、またワケの分からない事を言われた。
「お前さん達が移住する予定の惑星じゃなくてもいいからさ、頼むよ。ここで一人はつらいしさ」
……まぁ気持ちは分かる。
「それに良い情報を教えてやる」
『良い情報? どんな情報だ?』
おやじの言葉に船長が食いついた。
「この惑星では、有機物は全て惑星に吸収されちまう。寄生する対象としての価値がある存在――光などがある限り、エネルギーを作り続けられる植物や、俺のような存在――この惑星と同化した人間共からすれば、ガン細胞も同然なモノじゃない限りはな」
『『『『『な、なんだって!?』』』』』
俺達は同時に驚きの声を上げた。
という事は……宇宙服を着ていなかったらやばかったという事か!?
「惑星と同化する能力を持った人間は、惑星以外の物質をも吸収・同化させる事ができるからな。それも己の意思で。食料になるモノならば全て」
『……な、なんて恐ろしい惑星だ』
船長は宇宙服の中で冷や汗をかきながら言った。
『この惑星への移住は諦めよう。それと……えーと、おやじさん?』
「アロンだ。それが俺の融合前の名前」
船長がおやじの呼び方に迷っていると、おやじは名前を明かした。
『じゃあアロンさん。実に有益な情報をありがとう。約束通り……我々と別の惑星まで、ご一緒しましょう』
「え、ホント? やったー!」
おやじは喜んだ。
『まぁ、あなたが我々と融合しようとしないならば……ですがね』
だが船長は釘を刺す事を忘れない。
「い、嫌だなぁ。さっきも言ったでしょ俺? 融合状態が気持ち悪いって。だから大丈夫だって」
おやじはジョークを言われたと思ったのか、笑いながらそう言った。
※
そして数分後。
俺達はおやじと共に惑星を後にした。
しかし、恐ろしい惑星だった。
まるでIFな地球、とも言える惑星だ。
というか早く移住先を見つけなければ、もしかすると俺達の地球も……。
秋の桜子さん、FAありがとうございます!!
【裏設定】
絶滅したハズの植物が存在する理由は、惑星と融合した人類が惑星内で錬成したからです。彼らは地球限定ではありますが神様も同然の存在になっていたのです。
動物や虫や植物を尊重する事を、人間は完全に忘れたのに、それをよしとしない人間がいた理由につきましては、それを建前にして戦争を起こして金儲けをしようとする勢力が存在したからです。