7話 人魚姫の春夏
新しい社交シーズンが始まった。
そのことを一言で片付けるのならば、私のお披露目祭りだった。
まず、王家からの社交シーズンの開会宣言の前日に、私の公爵令嬢としてのお披露目会が行なわれた。もっともこれは、本当に身近な方々だけをお招きしたお食事会のようなものだった。要するに国の要人の方々に新しく公爵家の娘になったのでご紹介します、的なもの。
これならば、新作ドレスの発注は要らなかったのでは?
と思うのですが、どうやらドレスのデザインはお義母様の趣味であるらしい。
お義兄様も12歳になるまではその趣味に付き合わされていた様子で、お義兄様用のドレスが衣裳部屋に大量に保管されていた。
「コユ、僕の可愛い妹よ……。あのドレスは全部君にあげるよ。母上と一緒にドレスのリメイクをして、可愛いコユの姿を私に見せておくれ」
お義兄様は私のことを「コユ」と呼ぶのですが、実はこの呼び方を他の誰にもさせません。
レムロード殿下にすら呼ばせません。
何故、ここまで「妹」に執着をされているのかは不明ですが、アンシェル様は私を本当の妹のように可愛がってくださるのです。
ですが、お義兄様───体よく私にお義兄様のドレスを押し付けましたね?
いくら鈍い私にもはっきりと解かります。
大事なことなのでもう一度言います。
お義兄様のドレス、私に押し付けましたね?
───話を戻します。
お客様は「マーレ公ご夫妻とそのご子息」───国王陛下と王妃殿下、王太子殿下のことである。王家のお名前である「マーレ・ラメール」。これは、「ラメール王国とその属州マーレの統治者」を意味しているので、忍んでいないお忍びの時の偽名である。
元日本人で、元人魚の私には理解不能なのですが───
忍んでいないお忍びって、なんですか?
レムロード殿下が18歳の誕生日を迎えると、マーレの直轄管理は殿下へと譲渡される予定
なので、来年の夏からは殿下が「マーレ公」と呼ばれる。
王妃様の実のお兄様でいらっしゃる宰相閣下に、私が左大臣閣下と勝手にお呼びしていた文部科学文化大臣(要するに文官の長)、そしてお義父様の直属の部下のアバローン提督。
それぞれの方が奥様とご嫡男を伴って、王都にあるデルフィーン公爵邸へとおいでくださいました。
国王陛下と、お義父様、宰相閣下は同い年の幼馴染み。左大臣閣下(実は私から見て陛下の左にいらっしゃるので「左大臣」。お義父様が右にいらしたので「右大臣」と認識していたのだけれど、実は国王陛下からご覧になった左右なので実は逆だったのですがすでに私の中での左右は固定されてしまったので、心の中では左大臣閣下なのです)とアバローン提督は学校(導師様の私塾のようなもの)の後輩にあたるのだそうです。
アバローン提督は10歳年下の後輩ですが。
王妃様やお義母様、そして宰相夫人は、なんと元ライバル令嬢!
アバローン提督夫人以外は、幼い頃から陛下の───当時の王太子の妃候補として集められ、その類の教育を受けていた貴族のご令嬢だったのだとききました。
「コライユ、そんな顔をしなくても大丈夫ですよ」
お義母様───アンジュ様は大輪の薔薇の花が咲き誇るが如く、美しく優雅に微笑まれた。
「皆、望む方の所に嫁げたのです」
あの頃のご令嬢方の男性の好みは全く一致しなかったので、楽しく他のご令嬢の恋の手助けができたのだ。と懐かしそうでした。
そしてなにより驚いたのは、アバローン提督夫人は私よりもわずかに3歳年上なだけ───もう150歳オーバーの私の実年齢は忘れることにしました。何かと面倒なので。
レムロード殿下より2歳年上で、幼い頃は殿下の婚約者候補にもお名前が上がっていたそうなのですが。
「私、年下には興味がなくて……」
「幼女の頃から、カイル(アバローン提督)を追いかけていたものね?」
「5歳の時にはもう、海軍の士官になったばかりのカイルに『提督になったら、紅い薔薇200本の花束を持って求婚しに来てね?』なんて仰っていて───」
「「「可愛らしかったわ!!!」」」
やだ、漫画のネタになりそうなエピソード満載じゃないですか?
後日皆様からより詳しいお話をお伺いして、漫画にしてもよろしいですか?
「コライユちゃん」
「はい、王妃殿下」
「それは、嫌だわ!是非とも『ママ』と呼んで頂戴!」
───えぇぇぇ……それはどうかと……。
「プリムヴェール……さ、まぁ?」
お義母様、なんだか発音がおかしいです。
そもそも、先程までは「プリム」って呼んでいらっしゃるのに変ですよ?
「ダメです!『ママ』は私です!!」
すでにお義父様たちのグループはお酒を楽しみながら、なにやら楽しそうにお話をされているのでこちらの声は聞こえても聞き取れていないと思います。
前世でもあまり参加をしたことはなかったのですが、「女子会」なるものはこんな感じの物なのでしょうか。
* * * * *
そして、殿下達の嫡男グループもなにやら楽しそうにお話をしているご様子。
こういう席はお嫌いなのかと思っていたアンシェルお義兄様も、なにやら楽しそうに雑談をしていた。
気になるのはレムロード殿下の視線ですけど、とりあえず見なかったことにしておいてもよろしいでしょうか?
おそらく殿下が気にされているのは、先程から私が抱っこさせていただいている───
凶悪なまでにお可愛らしい、まさに天使な若きイケメン。アバローン提督のご嫡男のミシェル様に違いない。
金色のフワフワな巻き毛に海の青の瞳の1歳児です。
嗚呼、まさに神の作りたもうた美の化身。
殿下───これは美しいものを愛でたいオタク女子の性であって、恋愛感情はないのですよ?
私の好きな王子様は、金色のふわふわ巻き毛に碧眼なのですよ?
ま、直接告げてしまうと、後々面倒なので言いませんけどね。
少し短めにしてみましたが、どちらが読みやすいでしょうか?
好みの問題とは思いますが、気になります。
誤字脱字ありませんか?
私、変換ミスが多いタイプなので、気になっております。
※少し加筆訂正いたしました。