表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫の憂鬱なる独り言  作者: 柚貴ライア
6/12

6話 人魚姫の密会

タイトルが思いつかず、投稿を迷ってました。

「密会」と書いて「デート」と読んで下さい。

「今後、私がデルフィーン公爵領で公爵令嬢としてオフシーズンを過ごす、ということはあまりない事だと思います。ですから存分に体験してまいります。殿下にはその時の様子を漫画にいたしますので、後にご覧頂きたいのです。

お忍びで遊びにいらした王子様と、領主の娘のお話とかもあれば良いのですが?」


この言葉の前半は、私がデルフィーン公爵領へと向かうことを不満に思っていらっしゃるレムロード殿下を説得するためのもの。


不満であることを隠すこともされない王太子殿下───子供ですか?

確かに16歳ではいらっしゃいますが。


そう思いながらも、悪い気はしないものなのです。

ええ、女心とはそんなもの。


そして、最後の言葉はついうっかり出てしまった。

漫画家だった私の前世が「そんなシチュエーションあったらネタとして面白いかも?」と言わせてしまった言葉。




だって、まさか……本当に殿下がお忍びでいらっしゃるなんて思わなかったんですもの!


それも何度も───


『収穫祭』にも『聖誕祭』にもいらっしゃったのですが、王都でも同じようにお祭りありましたよね?王太子殿下としてのお仕事ありましたよね?


そう聞いてしまうと、殿下はその美しいお顔で悪そうな微笑を浮かべながらはっきりとおっしゃった。


「大丈夫。全部影武者に任せてきた」


それは「大丈夫」と言い切ってよろしいのでしょうか?

というか「影武者」の存在をこんなにはっきりと口にしてよろしいのでしょうか?


もちろんお忍びでいらした殿下は、私の部屋にお泊りです。


「まさか、この秋の更けゆく寒空に(聖誕祭の時は「冬の凍る夜に」でした)私に野宿を望むのかい?」


それならば、きちんとレムロード王子としてこの公爵家を訪問してください!


「コライユが私の求婚に応えてくれていれば、堂々と婚約者として訪問できるのだがね?」


嘘ですよね?

私が「お忍びで遊びにいらした王子様と、領主の娘のお話」なんて言ってしまったから、面白いと思っていらっしゃいますよね?


いろいろな攻防があったものの、最終的には殿下の勝利に終わった。

私の部屋の私の寝台の私の横で、殿下はお休みになられた。




つまりはそういうことである。




王都でのお屋敷と違いここは広くていろいろと助かった気がしたが、翌日の朝私を起こしに来た侍女に殿下と揃って公爵夫妻には内密にと頼みこむ次第となった。


レムロード殿下はいらしたときと同様に騎馬で帰っていかれたが、残された私は針のむしろである。

公爵夫妻には、ばれている気がする。

何か私に対して言いたそうなお義父様、それを宥めるかのようにそっと寄り添うお義母様。




いたたまれない。




それに私も、薄々は解かってはいたのです。


いくら「お忍び」と言っていても、一国の王太子が本当に一人で出歩くなんてありえませんもの。

ちゃんと従者のアトゥームと、街に宿を取っていたのも知っています。だって、私に会いに来てくださる前には、宿で身体を清めて来てくださいましたよね。

お祭りを見学する間、私を抱えて歩く殿下はいつも石鹸のいい香りがしていましたもの。


だから「野宿」云々と言い出されたときも、その表情を見ながら「殿下あざといな」などと思いながらもつい絆されてしまった訳で───。


実際、二人きりでお祭りを回って楽しくて「お休みなさい」だからと言って離れたくない気持ちが私にもあったので、お泊めしてしまったのだけれど……。


おそらく殿下には、国王陛下の配下の護衛で何人か付いてきている。───私には気配は全く感じませんけど、そんな影の部隊が殿下には付いていらっしゃるはずですよね?


これは前世でのオタク女子としての知識といいますか、王子様の基本設定といいますか───です。


ということは、国王陛下にもこのことは筒抜けなのでしょうね……。




この時の私は少し浮かれていて、気付くのが遅れてしまったのだけれど。


身なりのいい(おそらく貴族)の坊ちゃんが、足の悪いピンクの髪の少女(領主様のご令嬢)を抱いて歩いている───レムロード殿下とコライユ公爵令嬢、はい決定。


「仲良くて良いじゃないか」

「殿下のご寵愛が深いご様子だから」

「「デルフィーン領は安泰、安泰」」


領民の方々に安心頂き何よりです。

ってそんなことより殿下の「お忍び」って、ちっとも忍んでないんじゃないですか?


そしてなによりの止めは、年末になって漸く領地に帰ってきた義兄のアンシェル様からの報告だった。


「レムロード殿下、ここに来ていたのかい?」


「………………はい」


お義兄様には嘘はつけない。何しろ言語学者様なので、言葉の端々からいろいろなことを感じ取ってしまわれるから。


「これ、今王都で女性に人気の物語なんだけどね?」


これは、噂に聞いていた「ガリ版印刷」!「活版印刷」よりもお手軽な、書いた本人の文字のまま印刷されているじゃないですか!!


もちろん私が噂に聞いていたのは前世での話。昔の学校での配布物、テスト用紙とか、学校便りにも使われていたらしい。

うわー、こんな風に印刷されるのか。


アンシェルお義兄様は、物語の内容よりも先に印刷技術に注目していた私を不思議そうに眺めていた。


正直に言えば、私はまだこの国の文字が読み書きできない。自分の名前やレムロード殿下のお名前、公爵家の方々のお名前はさすがに覚えたけれど。長文になってしまうとなかなか覚えられない。


英語とも違う───というよりも、私はこの国の文字を前世でも見たことがなかった。

「人魚姫」ってどこの国のお話だった?ヨーロッパのどこか、オランダ……ベルギー……そうデンマーク!

デンマーク語なんて解らないけれど、それ以上にこの国の文字は見たことがない。

言葉は日本語ではないことはわかるけど、ちゃんと通じている。でも前世では、聞き馴染みない言葉ではあった。


童話の世界に転生してしまったと思っていたけれど、違うのかな?


今となっては、それはどうでもいいけれど。

レムロード殿下のお側にいられるだけで幸せなので。


ちなみに物語の内容は、お義兄様に読んで頂いた。


しかし、私はそれを心から後悔した。


「───婚約者の公爵令嬢が静養のために領地へと戻ってしまい、淋しくなった王子はお忍びで公爵の領地を訪れました。そして、仲良く祭り見物を楽しみました」


これってフィクションなのでしょうか?


「この作者はね、王都でも有名な───いや、読者は国中にいるし、確か翻訳もされて外国にも熱狂的な読者がいるらしい恋愛小説家でね。

たまたまデルフィーン領の祭りを見物に来て、お忍び中にしては堂々と街中でいちゃいちゃしている王子様と婚約者のご令嬢を見かけたらしいよ?」


いやーっ!自分で漫画にする前にノベライズされてしまったじゃない!


なんだか色々とショックです。






* * * * *






春になり、王都に戻った私は社交シーズンの準備を始めた。

とは言っても、元々私が出られる夜会は数が限られているので、公爵令嬢としてのお披露目会用のドレスと、レムロード殿下との婚約披露用のドレス制作に重点が置かれていた。


もっとも張り切っているのはお義母様と侍女のお姉さんたち。新しく私付きになった侍女たちも巻き込んで毎日楽しそうである。

私付きの侍女は一年ずつの年契約となっているらしい。何故ならば、私は一年後のレムロード殿下の18歳のお誕生日に王宮へと嫁ぐことが決まっているからだ。

年が明けたので、今度のお誕生日で殿下は17歳になる。だから18歳まではあと一年。


けど、それっていつ決まったのですか?




「コライユちゃんが妊娠してないって判ったからよ?」


王妃様の私的なお茶会の席で、爆弾発言をされたのは王妃様だった。

このお茶会の参加者は、国王陛下にレムロード殿下、デルフィーン公爵夫妻と私。

本当に身内だけの集まりだった。


王妃様とお義母様は笑っていらっしゃるけれど、それ以外の私を含めた参加者はそれぞれの事情から俯くことしかできなかった。


あの晩のことを、ここにいる全員に知られているのかと思うと顔から火が出そうだった。


「あの時身籠っていたら、今頃はとっくにコライユちゃんは王宮暮らしのはずだったのだけれど……」


意外にも王妃様は残念そうな表情を浮かべられていた。


「とにかくレムロードは、あと一年で王太子としての勉強を終わらせなさい。それくらいは我慢できるでしょう?」


王妃様曰く、ランプロア事件で王室の信頼は急降下しているので、これ以上の醜聞は王家のためにならないから婚前子は避けて欲しいとのことでした。


「コライユちゃんも嫌なことは、ちゃんと嫌だと言いなさいね」


いえ、嫌ではなかったので拒めませんでした。


とにかく王妃様主宰のお茶会は、終始王妃様主導で子供達へのお説教会のためのものだったことが判明した。











「王妃様のお説教」が裏タイトルです。


王妃様がコライユに「ちゃん」付けなのは

呼び捨てで書いたときに違和感があったからです。

(私が)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ