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#6 2019.6.2 13:32

 喫茶店で聞こえてきた高校生の世間話を頼りに、駅の近くにあるという観光案内所を探し始めていた。もうやがて20分になるぞ……。スマホの地図アプリで検索しても全く引っかからないし。この近辺は一体どうなっているんだ。全くお・も・て・な・しの心がないじゃないか……。そんな愚痴をどう赤井と共有したものか、と不毛でしかないことを考えていると……ふと、赤井が足を止めた。

「水無月さん……あれ、なんだと思い……ますか?」

「うん?」

とまどったような赤井が指差す先を見てみると、そこには観光案内所……には見えない……チケットショップがあった。

「赤井さん、今自分たちが探してるのは観光案内所であって、あんな人の入りも悪そうな古めのチケットショップじゃないんだけど……」

そう返すと、赤井は不満そうに返してきた。

「そんなことはあなたに言われるまでもありません。よく見てください」

そう言われたので、半ばあきれながら道向かいにあるその建物に注意を向けてみると、居眠りをしているのか不自然な揺れを見せている店員の後ろの壁に一枚の紙が貼ってあった。

「※しぶしぶ観光案内はじめました」

……うわあ、入りたくねえ……信頼できる要素が0だ……。

 うう、だが……最初に決めたことを覆すことをまだ2日目のこの時点でやってしまうと、残りの数十日がブレブレの行動ばかりになりそうだ……。

「……仕方、ないかあ……」

ため息をつきながら、道を渡り、さびれたチケットショップにしぶしぶ入ってみた。

「すみません、ここで観光案内情報をうかがうことはできますか……?」

反応がない。ただの屍……ではなく、ただ寝てるだけだこの人。いらっとくるなあ、真昼間からとは……。そりゃ仕事中に眠気が襲ってがくっときたことくらいはあるけど。

椅子にドカッと座って腕組んで、「寝ています、起こさないでください」と書き残す勇気はないぞ。赤井もそのあまりにも堂々としたさぼりっぷりに堪忍袋が破裂寸前だったらしく、

「あのーっ! 観光案内を! お願いしたいのですが!」

とやつの耳元で大声で叫んだ。するとあまりに驚いたのか椅子からあわてて跳ね起き、椅子からガタンと落ちしりもちをついた。まあ、自業自得だよね!

「……いってえ、ちくしょう……。なんだよ!」

柄の悪い口調で文句を言ってきた店員(胸元のネームプレートには「野原」とある)が睨んできたのに対し、俺ががらでもなく睨み返すと、「ひぃっ」と小さく声をあげ、それきりうつむき気味に黙ってしまった。気まずい空気が流れてしまった。さっきの威勢はどこへいったんだ……。

「あなたは……ここの人なのですか? 店長のワンオペのところ、娘が病気になった連絡を受け、『座ってるだけでいいから』と言われ、仕方なく留守番だけをしている甥っ子とかじゃないですよね?」

そう皮肉たっぷりに赤井が聞いたところに、野原は半ば開き直ったのか

「ご不満でしょうが、ワタクシがここの店員ですとも、お客さん」

と両手を広げて大げさに挑発しているのかというレベルの応対を見せてきた。

「水無月さん、もう出ましょう。ゼッタイにここ、ろくな店じゃないですよ」

と赤井に促されたが、なぜか自分は少し興味がわいていた。

「いや、まあ一応案内、聞いてみようよ。」

赤井にはその返答は予想外だったようで、

「はあ?」

と実にシンプルな返事を投げ返してきた。まあ、ごもっともなんだけど……

さっきの店での女子高校生の会話によれば、客の顔を見るだけで観光する場所を案内してくれるらしい。裏を返せば、客と会話することがほとんどないままに案内できていたのだろう。だから、この客に対する失礼な態度が表面化することもなかったのでは。ということは、この無礼な姿勢さえ無視できれば、有意義な案内が見込めるとも考えられる。せっかく時間を使って出向いているのだから。釣果ゼロは避けたいところだ。

「用件は、先ほど彼女が言ったように観光案内なんです。この近辺で、日曜ならでは、祝日ならでは、といった観光地などありましたら、お教え願えますでしょうか?」

それを聞くと、なぜか野原は後ろにある、コンビニのくじが入っているようなボックスを差し出してきた。

「ん」

……は?

「さっさと引けよ、オラあ!」

……ああ、これが答えか。赤井さん、ごめんよ。無駄に考えをめぐらせた自分が馬鹿だった……。

「赤井さん、引くだけ引いてくれる……?」

それを聞いた赤井も投げやりになったのか、荒っぽく一枚を引くと早々に店を出て行ってしまった。あわてて後をついて店を出ていくと、赤井の持っている紙にはある場所がしるされていた。

「ほのぼの公園」

……行くところ、たしかにないけれど、公園へ行っても成果なさそう……とあきらめているところに、

「行きますよ、水無月さん。足を止めているくらいなら、こんな頼りない指針にでも従って進んだ方がいくらかマシです!」

と言うなり、道にある看板を頼りに公園へ足を運びだした。……豪気だなあ……。

……ったく、なんだったんだ今の客は。いくらこっちが寝てたからって、失礼にもほどがあるだろ。それが人にものを聞く態度か?ああん?不満を頭の中で反芻しているところに、店の奥からあいつがでてきた。

「ちょっと、慎兄?お客さんになんて態度取ってんの!いくらあたしが奥で手の離せない仕事してたからってさあ……いくらダメ兄だからって、もっとやりようがあるでしょうが!」

「うるせえなあ、ちょっと話してそこの紙引かせればいいからって言ったのはお前だろうが、かえで!」

「そりゃ、的中率抜群のあたしの占いの結果を書いた紙だもん!問題はあんなふざけた態度のせいで、全く信用がなくなることでしょうが!」

「別にいいだろ、俺の巧みな話術のおかげで、結局あいつらは引いた紙に書かれた場所に向かったみてえだしな!」

「何の根拠があって言ってんのよ……頭痛くなってきた。とにかく、このままじゃ信用問題に関わるから、あたしが様子みてくる!留守番しててよ!ただし、さっきみたいな態度取ったことがわかったら、晩御飯抜きだからね!」

「へーへー、わかったよ、さっさと行って来いよ、町一番の占い娘さん?」


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