#5 2019.6.2 7:52
部屋の布団で寝ていたところに聞こえてきたノックの音で目が覚めた。寝間着から仕事着(この期間中は普段のスーツではなく私服に設定されている)に着替えると、ドアの前で手持無沙汰に待っていた赤井とあいさつを交わし、ともに食堂へ向かった。
食堂では8時から朝食をとれることになっていた。他に宿泊客もおらず、設置されているテレビには「チャンネルはご自由にどうぞ」とあったので、何の気なしに一通りザッピングしてみた。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、日曜のこの時間帯ってなんか番組やってなかったっけ?報道番組ばかりなんだが」
「ああ、それならたぶん、時間帯変更したあれですね。7時半から8時半のものが、数年前から9時台に移ったんです。まあ、そのおかげで日曜はぐっすり眠れるようになったんですが……」
「やけに思い入れがありそうな口ぶりだね、赤井さん」
「弟に毎朝起こされて付き合わされていましたから……」
他愛ない会話をつづけているうちに、テレビからはポップな歌が聞こえてきた。それ以降、赤井の目が頻繁にテレビに向けられ、残り少ない食事はおざなりになっていたのは、俺の気のせいだろうか……。
9時を少し過ぎてしまったが、今日も調査することに変わりはない。……ん?
「そういえば、この調査って休みないの?」
「事前に説明されていたはずですが。6月の間1か月丸々を調査に費やす代わりに、7月に長期休みをもらえるそうですよ。仕事が終わればバカンスが待っているわけです。実に日本らしいですねえ」
休みの話をしているのに、目は死んでいる。実に日本らしいですねえ……はあ。
本日も駅へ向かう道すがら、人間観察という名の調査を開始した。あのカップルは駅へ向かっているようだ。日曜ならではのスポットがあるのだろうか。あちらの老人は犬と一緒に散歩中だ。日曜の朝だ、のんびり街を散策するのも悪くないのだろう。かと思えば、道端で交通量調査に勤しんでいる学生もいる。休日ならではのデータが取れるのだろうか……。
そんなことを赤井と話すことで調査を続けていると、いつの間にか12時を回っていた。
「そろそろお昼にしませんか?さきほど道行く人が話していたのですが、この近辺においしいランチができる店があるそうですよ!」
赤井のガイドに従い店に入る。彼女は楽しそうにメニューを見ながら店員に件のランチセットを注文した、のだが……。
「申し訳ありません、そちらのメニューは平日限定となっておりまして……」
あっ、と言葉に詰まった赤井は、露骨にがっかりしながら別の定食を注文した。メニューを下げた店員がバックヤードに戻っていったところで、
「祝日もランチメニューはないんですよね……全部平日のままでいいのでは」
調査の前提を根本から覆すほどに闇堕ちするんじゃあないよ……気持ちはわからんでもないが。仕方ない、コーヒー代くらいはおごってやるか。調査のテンションを露骨に下げられてもこちらが困る。
「コーヒー、ご馳走様でした!」
すっかり元気を回復している赤井である。こういってしまうと身もふたもないが、安上がりな人だなあ……。
午後からの調査をどこで行うかは食事中に軽く相談していたのが、そんなにポンポン外出先のアイデアがでるはずもなく、難儀していた。そんな時、店内の客の会話が耳に入ってきたのである。
「これからどこ行くー?」
「どこでもいいよー!」
「もう、エミってばあ、それが一番困るんだってばあ……あ、そうだ!あそこ行ってみない?」
「あそこ?」
「平たく言っちゃえば観光案内所なんだけど、ウチの近所にある案内所のガイドさん、とっても評判いいんだって!客の顔を見るだけで、ホントに行きたいところを見抜いて、案内してくれるんだって!」
「えー……なんか怪しくない?」
「占いみたいなものでしょ?ものは試しだよー、行ってみようよ!」
「……どこでもいいよって言っちゃったしなあ、行きますか!」
「さっすがエミ!ノリイイね!」
案内所ねえ……日曜ならではのスポットを把握してるかもしれないな。そもそも2人で行くところを決めようとしているのが間違いだったか。
「行ってみるか、観光案内所!」




