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1st day_2019.5.7

「連休終わったああ~……働きたくねえなあ……」


 2019年5月7日午前8時12分、出勤の電車に揺られながら、そんなことを呟いていた。

 改元に伴い、異例の10連休となった4月27日から5月6日の10日間。大半の人々はこれを享受し、家族で旅行に行き、映画を観て、有意義なものにしたのであろう。

 一方、俺はと言えば、特に行くところも金もなく、家で動画サイトを巡回してばかりであった。これほど無為な過ごし方もないよなあ。何してんだよ、本当に……。

 電車に揺られること1時間。そこからさらに徒歩15分。連休明けで業務が山積みになっているであろう職場へ、かつてないほど憂鬱な気分で出勤した俺は、自席へ着座するなり、上司から衝撃の一言を受けたのだった。


「キミ、来月から職場に来なくていいよ。」


……………………はい?


「やー、ごめんねえ、紛らわしい言い方しちゃって。まあ、事実だしさあ、ストレートに言うのが楽かなーって……」

「ものには言い方ってもんがあるでしょうが!! 字面通りなら、単なるリストラ宣言じゃないですか。よりによって親方日の丸公務員でそんなこと言われるとは想像だにしてませんでしたよ!?」

 そう言い返すも、まあまあ、と全く意に介さない態度を見せているのが、俺の上司である課長だ。普段からあいまいな指示で仕事を回されているものの、これほど矛盾した発言で仕事を回されたことはなかったぞ……。

 さっきのリストラ宣言は、あろうことか仕事の指示だったのである。それも、役所の仕事とは思えないとびっきり奇妙な……。


「つまりね? 6月いっぱい、全国を飛び回って休日を謳歌して、その上でどの日が祝日にふさわしいか決めてほしいんだよ」

「オッシャッテイルイミガワカリマセン」


 課長が言うには、今回の10連休をきっかけに各種調査を重ねた結果、日本人には休日が強く求められているのだと悟った政府のお偉いさん方が、まずは祝日の無い6月に数年後の祝日設定を想定し、動き始めたということらしい。……ほう、ようやく気付いたか、人類の真理に。俺だって、金さえあれば365連休欲しいもん。切実に。


「でさあ、その調査をキミにお願いしたいんだよ、水無月君。」

「なんで俺なんですか? そんな全国民に関わる重大な事項ですよ? 単なる役所の特に仕事ができるわけでもない平公務員に負わせる任務とは思えませんが」

「ボクの推薦」

「はあ……」

「一般人の意見が欲しいから、極論誰でもいいんだけど、誰かいないー? って知り合いのお偉いさんに相談されてさあ。瞬間、君の顔が浮かんだんだよねえ」

「なんで自分なのですかねえ……」

 なぜお偉いさんに相談を受けているのか、あんた何者だよ、というつっこみは避け、

嫌な予感がしつつも聞いてみた。

 と、課長は、一見さわやかに見える笑顔を浮かべつつ、さも当然かのように、楽しそうな口調で言い放ったのである。

「名前だよ。水無月君」

「…………はあ、さいですか……。」

案の定だった。

 俺、水無月玖郎は、この名前で子供のころからからかわれてきた。小学生のころには、「6月に休日がないのはお前のせいだ」とわけのわからないいじめ方をされ、調べた結果「6月の黒」……という意味にとれてしまうことに気づき、親と大喧嘩をしたことさえある。そんな名前だから、課長が自分のことを連想したことを責めることはできなかった。

「それで、具体的には何をすればいいんですか?」

「お、やってくれる?」

「まあ、要は休みをくれて、給料もくれる夢のような仕事がきたんでしょう? そりゃ、受けますよ。」

「……ほう、そう取るかあ……」

無駄に意味深なためを作った後、課長は俺に業務内容を説明し始めた。

 事前に指定された街へ行き、現地の声を調査する。それを30日間繰り返し、最も6月の祝日としてふさわしい日を報告する。ざっくり言えば、そういうこと……らしい。ざっくりしすぎてて、意味が解らない。というか、この仕事にどんな意味があるか理解できないのは、俺が無学だからか、政府の無能さゆえか……。


 業務開始までの3週間ほど、通常業務をこなしていたわけだが……やけに、同僚の視線が冷たい。なぜだ。まあ、「1か月休み同然の仕事に行ってくるんで、こっちの業務お願いしまーす」となれば、俺でも怒るわ、そりゃあ……。だが、ただ冷たいわけではなさそうだった。近くの席での雑談をひそかに聞いていると……

「水無月君、6月からいなくなるんだって? いざとなると、さびしくなるねえ」

「よりにもよってあれかあ……残念だよ……」

……ん? やけにおおげさな話になってそうです? 単なる1か月出張みたいなものなのに、まるで俺が二度と帰ってこないかのような……


 ……そんなささいな違和感が何の間違いでもなかったことを、6月1日午前9時。業務開始とともに、俺は思い知ることになるのであった……。

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