第02話.黒猫のルー
事故後のお話です。
『あれ?ここはどこだ?』
僕の目の前には無機質な天井があり、自分はベッドに横たわっている。腕には点滴の針が刺さっており、消毒の匂いが立ち込める。どうやらここは病院のようだ。ああ、そうだ。僕はトラックに轢かれたんだった。ここが病院という事は、僕は生きているということだろう。
…ルーはあの後どうなったんだろうか。ふと、気配を感じて足元に目線をやると、ルーが僕の足元で丸まって眠っていた。
『良かった。ルーも生きてた』
…ん?いやいや、そもそも病室に猫が入っていいんだっけ?あんなに吹っ飛ばされて無事な訳がない。普通動物病院に行くはずじゃ…?
理解が追いつかず、困惑しているところにカーテンを開けて誰かが入ってきた。
「幸助!? 気がついたのか! おばさん! 幸助が! 幸助が目を覚ました!!」
その青年の声を聞いて、慌てて母さんが僕に駆け寄ってきた。
「幸助!! ああ、良かった。幸助、幸助ぇ…」
母さんは脇目も振らず、声を上げて泣き始めた。隣の青年も涙目だ。
「ったく。どんだけ心配したと思ってんだ。馬鹿野郎…」
「ごめん。翔。…ありがとう」
この青年は『氷鷹翔』。僕の幼稚園からの幼馴染で、1番の親友。翔はイケメンでクラスの人気者なのに、昔と変わらずこんな地味な僕にも気さくに話しかけてくれる。言い忘れてたが、僕の名前は『本田幸助』。そして今僕の隣で泣き続けているのが『本田優子』、僕の母さんだ。
「事故で意識不明の重体だって電話がかかってきて…母さん心臓飛び出るかと思ったわよぉ…ぐすっ…」
「あの、俺先生呼んできます」
しばらくして主治医らしい男の先生が来た。先生は挨拶もそこそこに、僕の血圧を測ったり、聴診をしたりした後、家族は何人いるかとか、今の総理大臣は誰だとか、事故直前のことを覚えているか等、いろいろ質問してきた。僕はそれらに一つ一つ答えた。一通り問診が終わると先生は言った。
「…うん。記憶障害や後遺症の心配はなさそうです。意識もしっかりしていますし、もう大丈夫でしょう。しばらくは安静にして頂いて、体力の回復と怪我の治療に専念しましょう」
母さんは先生の手を取り、何度も何度もお礼を言った。20時になり、面会時間が終わると翔は家に帰っていった。母さんはここに残ると言い張ったが、僕は大丈夫だから帰るよう言うと渋々帰っていった。後で知ったことだが、事故の日から僕は1週間目を覚まさなかったらしく、その間母さんは泊まり込みで僕の世話をしてくれていたらしい。道理で顔色が優れなかったわけだ。
さて、特にすることもないし、そろそろ寝ようかなと目を閉じた瞬間…
「おい、幸助、寝るな。起きろ」
誰かに呼ばれて目を開けると、ルーが僕の胸の上に立ち、僕の顔を覗き込むように首を伸ばしている。僕は今唯一動かせる右手でルーの頭を撫で、辺りに呼びかけた。
「誰かいるの?」
するとルーが僕の手を払いのけ、こう言った。
「この鈍感! 話しかけてんのは俺だ!」
僕は心の中で叫んだ!
「えーーーーー!!??」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
まだまだ続きます。