寿命300文字、または30分。
僕がずっと前から一緒に過ごしてきた少女の形をしたロボットの命がとうとう尽きようとしていた。
その時間、残り30分。
または300文字。
この子はずっと、我慢してきた。
喋ることを、伝えることを必要最低限に抑えた。
表情豊かな彼女は作られたときから無情にも制限がかけられていた。
それは「言葉を規定数以上喋ることができない」と言うことである。
だからよく彼女とは、文字でコミュニケーションをとることがあった。
しかし感情が昂ったり、伝わらなかったりしたときの彼女が発する声が僕は好きだった。
優しい穏やかな声。
まるで僕の母親のようだった。
……………………………母親は病気でなくしている。
何故か僕の脳内に母親の最後の声がこだまする。
…僕はずっと、母親との最後の約束を守り続けている。
父親は発明家だった。
母親をなくしたことは、父親もショックを受けていた。
父親は母親に似た人形ロボットを作った。
すぐに。不眠不休で。
それほど愛していたからこそなのだろうか。
いや、それ以外に理由があった。
作り出したロボットは、完全なものではなかった。
父親も病に蝕まれていた。
彼にも、時間がなかったのだ。
彼は、父さんは言った。
「俺たちの代わりに。大人になる時まで。…すまなかったと…伝えてくれ…」
父親も僕が子供の頃に亡くなった。
「……」
僕はまた大きな人生の終わりを見届けようとしていた。
僕と結局最も長く寄り添ってきた人…友人の死を見届けるのだ。
「あのさ。」
僕は記憶の限りの思い出を全てまとめて語った。
あの頃は大変だったな。この頃には二人での生活にもなれたな、とか。
「僕はお陰さまで、君のおかげで…」
僕は感情が抑えられなくなった。
僕が語りきると、彼女は僕に近付いてきて頭を撫でてきた。
「……」
彼女の目にも、涙が浮かんでいた。
「…ありがとう……ありがとう…」
「…それは僕の…セリフだよ…」
彼女には感謝してもしきれない。
僕のような少年を彼女は養い、育ててきてくれたのだ。
感謝しても…
「君のおかげで…ありがとう。」
「いえ…あなたが頑張って勉強して、生きてきたことがスゴいんです。私は全く…」
「…そんなにしゃべるな…早死にしたいのか?」
「…30分も300文字も変わらないでっ…」
僕は彼女の口を僕の口で塞いだ。彼女を失うのが怖かったからだ。
彼女は目を丸くして、すぐに抱きしめてくれた。
だきしめあい。僕は彼女の目を見てまた大きなものを失う恐さを実感した。
こんなに大事なものを、こんなに大事な人を失い、僕はこのあとどうなるのだろうか。
愛している人を失った僕は…
「私からお願いがあります。」
と彼女は言った。
「私が消えてなくなってしまっても。あなたは私を作ってはいけませんよ。私からおねがいです。…これほど寂しい、別れ話なんて私とあなただけでいいです…」
と彼女は言った。
「そして、私がいなくなっても悲しむのは今日と明日まで。しっかり生きて私に成長した姿を見せてください…」
「…最後の最後まで、ホントに母親に似たな…」
全く彼女は母親と同じセリフを言った。
父親が似せたのかもしれない。
贈り物の優しさが、僕をもっと苦しめている。
「…そろそろ…限界なんですね…実感がわかないや…」
彼女の身体が透けて見える。彼女はもう喋られる言葉が少なくなっていた。
「…今までありがとう。…」
「…さようなら。…さようなら。…」
彼女は涙で顔がくしゃくしゃだった。
僕も多分そうだったと思う。
彼女は最期の、天国の父親母親に、そして僕に向けて。
最期の報告を行った。
「…誕生日おめでとう。」
その日、僕は大人になった。
彼女は穏やかな笑顔で消滅していった。
僕はその日。
大人になったのだ。
このお話は少し連載したいと思ったネタです。
気が向いたら少しまたネタを変えて似たような連載が始まるかもしれません。
そのときはよろしくお願いいたします。
また、意見感想などお待ちしております。