お祭り他ルート(練絹八十)
●八十君をお祭りに誘おうとしていたら、
八十君と、お祭りに行ってみたいなという気持ちは少しある。でも、連絡先は知らないからなぁ。
諦めてしまおうか……というには夏休みは暇な時間が多すぎる。
一人でクーラーの利いた部屋にいるともんもんとして落ち着かない。とうとうジッとしていられなくて、学校に行くことにした。
放課後にいつも校内をふらふら彷徨っている八十君だもん。今日だって、もしかしたら学校に行けば会えるかもしれないし……。そんなちょっとした希望を胸に、私は学校に向かうことにした。
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本当に、学校に来てしまった。しかもわざわざ制服に着替えてまで……。
学校の玄関口に着いた瞬間、ちょっとだけ頭が冷静になってしまう。このまま帰ってしまおうか、とも思ったけどなんとなくもったいない気もする。
もし、本当にいるとしたら、八十君は図書館にいるかな? よくいるみたいだしね。図書館を見て、八十君がいなかったら本でも借りて帰ってしまおう。そうしよう。そんな気持ちで図書館に行くことにした。
なんとなく怖いような気持ちで一つずつゆっくりと本棚を見てまわっていると――窓際の本棚横の机に八十君が座っていた。
いたらいいなとは思っていたけど、いざ本当にいたらどうしていいかわからなくなる。本当に、誘ってもいいのかな?
おそるおそる、八十君に声をかけてみた。
ボブ子
「八十君」
練絹八十
「……驚きました。こんにちは、五津木さん。今日はどうしたんですか」
ボブ子
「その、八十君に会いに来たの」
練絹八十
「私に、ですか? それでは何のご用ですか?」
本を閉じて、八十君が体を私の方へと傾けた。
どうしよう。勢いのままここまで来てしまったけど――……ええい! いいのよ! 夏休みにちょっと気持ちが浮ついていつもと違う事をしてしまうなんて、高校生にはよくあることよ! 言うのよ! ボブ子! 誘うのよ!
ボブ子
「今日この町のお祭りがあるんだ。一緒に行かない?」
練絹八十
「お祭り、ですか?」
八十君はお祭りという言葉を、まるで初めて聞いたかのような口ぶりで言う。でも、八十君ならお祭りに行ったことが無くても不思議じゃないかもしれない。それぐらい浮世離れしている。
八十君はしばらく考えるように黙り込んだかと思うと、静かに首を横に振った。覚悟はしていたとはいえ、実際に断られるとちょっとショック……。
練絹八十
「お誘いしてもらって嬉しいです。ですが、私にはお祭りが許されないと思います」
ボブ子
「お家の事情?」
練絹八十
「そう、ですね。お祭りは人が多いと聞きますから、許可を貰わないといけません。今から許してもらうのはおそらく難しいです」
ボブ子
「そっか……」
だよね。やっぱり、当日に誘おうとした私に非があるよね……。
私が肩を落とすと、八十君がぱちぱちと何度か瞬きをした。なんだか不思議そうだ。
練絹八十
「五津木さん、元気が無いようです。私のせいですね」
ボブ子
「あ、ううん。私が勝手に落ち込んでいるだけだから。ごめんね」
練絹八十
「……人を元気づけるためのもの。これが良いと聞きました。これでどうでしょう?」
そう言って八十君が手を差し出す。その手のひらの上には白い折り鶴が乗っかっていた。ぴんと羽を伸ばして美しく折られたその鶴は、なんだか八十君にちょっと似てる。
ボブ子
「これ、どうしたの?」
練絹八十
「学校の折り紙教本にあったので、作ってみました。折り鶴は人を元気づけるらしいので。あ、でも、千羽じゃありませんね。あと九百九十九羽作らないといけません」
そう言って八十君は、机の上に広げていた白い紙を折り始める。あれ、この白い紙。もしかして図書館に置いてあるリサイクル用紙じゃないかな。だから、白い鶴のところどころに黒い線が見えてたんだ。
ボブ子
「いいよ、八十君。その気持ちだけで十分だよ。ありがとう」
練絹八十
「そう、ですか? 力になれなくて申し訳ないです」
ボブ子
「でも、折り紙なんて懐かしいなぁ」
八十君の前の席に座って、開いていた折り紙教本を覗いてみる。ワニの作り方なんて言うのも載っている。なんだか難しそうだなぁ……。
練絹八十
「五津木さんは折り紙やりますか?」
ボブ子
「そうだね。久しぶりにやってみようかな」
選択1⇒「ひまわりを折る」
選択2⇒「カエルを折る」
●選択1「ひまわりを折る」
季節のものだし、ひまわりでも折ろうかな。って、白の紙しかないから、ひまわりってわかりづらいかな。ペンで色でも塗ろうかな。筆箱からペンを取り出して、折ったひまわりに色を塗っていると、八十君が首をかしげた。
練絹八十
「花、ですよね。何の花ですか?」
ボブ子
「ひまわりだよ。学校の裏にも咲いてるよね」
練絹八十
「そうですね。ひまわりは何度か見に行きました。私の胸あたりまで背の高い子でしたね。もっと大きく、私より高くなるでしょうか?」
ボブ子
「八十君より背が高いのは無理じゃないかな?」
練絹八十
「そうですか。ひまわりの花を見ていたら、担任の伊藤忠良先生がひまわりの花の種をくれると言ってくれたんですが……」
ボブ子
「そうなの? よかったね」
練絹八十
「いえ、断りました。先生にモノを貰うのはよくないです。先生には迷惑をかけてはいけません。先生は、あの先生は、どうして私に話しかけたのでしょう? なにか私に問題でもあるのでしょうか?」
ボブ子
「え、そんなこと無いと思うけど。どうして?」
練絹八十
「先生はそういうものですから。でも断ったのは、少し残念で、後悔しています。ヒマワリの種、シマシマ模様が素敵ですから」
ボブ子
「そっか……」
八十君って、先生が苦手なのかな?
●選択2「カエルを折る」
ちょっと季節外れだけど、カエルを折ろうかな。
私が折ってみせると、八十君が興味深々という感じで私の手元を覗き込んできた。
練絹八十
「生き物ですね。それは何ですか?」
ボブ子
「ほら、こうやると飛び跳ねるの」
私が折り紙のカエルの背中を指先で軽く押すと、ぴょこんとカエルが小さく跳ねた。ぴくりと八十君が肩を揺らしたのが面白くて、もう一度カエルを跳ねさせる。
ボブ子
「ね、おもしろいでしょ」
練絹八十
「おもしろい、のでしょうか? びっくりしました。本物のカエルってこうやって動くんですか?」
ボブ子
「どうだろう……? 八十君は本物のカエル見たこと無いの?」
練絹八十
「梅雨の時期に探してみたんですけど、カタツムリしか見つけられませんでした。……生きているのは見たこと無いです。一度、動いているカエルが見てみたいです」
ボブ子
「私も動いているカエルは見たことが無いな。中学の理科の実験でカエルの解剖をしたことはあるんだけど」
女の子はみんな嫌がったりしていたけど、私はけっこう平気だったな。
私がそう言うと、八十君は折り紙を折っていた手を止めてしまった。
練絹八十
「カエル、解剖したんですか?」
ボブ子
「うん、授業で。八十君は?」
練絹八十
「……そっちじゃないので」
八十君はそう言ったかと思うと、黙り込んでしまった。解剖とか、嫌いなのかな?
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折り紙をやっているとついつい熱中してしまった。
司書の人に閉館だと告げられる頃には、机の上は折り紙でいっぱいだった。その一つ一つを潰れないように丁寧にファイルの中に入れて、八十君は鞄の中にしまった。
ボブ子
「いっぱい作っちゃったね」
練絹八十
「はい、たくさんです。一人だとこんなにはできませんでした。ありがとうございます」
二人で並びながら廊下を歩く。外はすっかりと日が暮れて暗くなっていた。
あれ、なんだか校庭の方が騒がしい。ちらりと窓から下を見ると、伊藤先生や他の生徒たちが手に花火を持って騒いでいた。
練絹八十
「……きらきらしています」
隣で同じように下を見ていた八十君がポツリと呟いた。
あれ、もしかして八十君は手持ちの花火を見たことが無いのかな。
ボブ子
「あれは花火だよ」
練絹八十
「……小説の中では読んだことがあります。すごいです。あんなに色がいっぱいあるんですね」
ボブ子
「八十君が気になるなら、今度一緒に……」
ひゅるひゅるひゅる――ドンっ!
大きな音が突然鼓膜を揺らした。驚いて音が聞こえた方角に目を向けると、夜空に大きな花火が打ち上がっていた。そういえば、打ち上げ花火があるんだった。
練絹八十
「大きい。とても大きい、花です」
ジッと窓にへばりつくように空を眺める八十君。赤い瞳の中で花火がちかちか光っているのが分かる。色とりどりの光が、その透き通るような白い髪を彩るのがとてもきれいだった。
ボブ子
「こうした方が、よく見えるんじゃないかな?」
私が窓を全開にすると、八十君は無言で会釈をして窓から身を乗り出した。あまりにも身を乗り出すので、心配になって思わず八十君が着ているシャツの裾を手で掴んでしまった。
ひゅるひゅるひゅる――ドンっ!
また花火が打ち上がった。私も八十君と一緒になって、空を見上げる。
光が空に広がっていた。夜空に、目が離せないぐらい輝いている。
練絹八十
「五津木さん」
ボブ子
「……どうしたの?」
いままでじっと黙っていた八十君が囁くように声をかけてきた。花火の音に声がかき消されないように、少しだけ耳元を近づけるとフッと息を吐くような音が聞こえた。もしかして、今、笑った……?
練絹八十
「あなたと花火が見れて、とても嬉しいです」
その後、二人で並んで学校の窓から打ち上げ花火を眺めつづけた。
【勘違いしてもしょうがないと言い訳をする】
一番ボブ子が狂わなかったルート。




