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文化祭(ヒヨリ)

 そういえばチケットをヒヨリ先輩に渡すんだった。ヒヨリ先輩って、そういえば何年生?

 先輩だっていうことはわかるんだけど……。どうやったらチケット渡せるかなぁ。もしかしたら、屋上にいるとか?

 とりあえず屋上に向かってみることにした。

 ガチャガチャ。

 屋上の鍵は開いていないみたい。……当たり前か。ヒヨリ先輩、どこにいるんだろう。

 チケットをヒヨリ先輩に渡すことが出来なかった。あとでもう一回、来てみようかな。





 [・・・ロードします・・・]





 文化祭開幕の放送が流れた。いよいよ文化祭がスタートだ。

 私は、午前の初めにクラスの輪投げ屋さんのシフトが入っている。私は受付係だ。お釣りの勘定を間違えないようにしないと。

 お客さんがやってきた。最初は接客に緊張したけど、だんだん慣れてきた。笑顔で「いらっしゃいませ」と呼びかけているとセミ子がやってきた。


セミ子

「お姉ちゃーん! 遊びに来たよ!」


 ぶんぶんと手をふってやって来たセミ子が、勢いよく走って私に体当たりしてきた。思わず転びそうになってから、こらっと軽くその小さな頭を叩く。


ボブ子

「だめでしょ、走ったら! まったく、いつまでも子供っぽいんだから」

セミ子

「お姉ちゃんが私を子ども扱いするから、子供っぽく振舞ってあげてるんだよーだ!」


セミ子はぺろっと舌を出す。まったく。こういう憎まれ口だけは、成長したみたいよね。ため息をついていると、セミ子がお財布から百円玉を出してきた。


セミ子

「せっかくだから、ここで遊んであげる。チケットちょうだい」

ボブ子

「ああ。それじゃあ、お姉ちゃんがここのお金を払ってあげるわ。ほら、遊んできなさい」

セミ子

「本当? お姉ちゃん、太っ腹!」


 セミ子はにこにこ笑って、クラスメートから輪投げの輪っかを受け取った。セミ子は結構器用なので、ぽんぽん輪っかをひっかけていく。いつのまにか高得点を取って、お裁縫セットの景品をゲットしていた。


セミ子

「けっこう簡単だったね! ……そういえばさ、お姉ちゃん」

ボブ子

「なに?」

セミ子

「チケットは渡せたの?」

ボブ子

「そ、それは……」


 ヒヨリ先輩会えなかったんだよね……。チケット、どうしよう。セミ子にあげて、もう一回輪投げをやらせてあげようかな。私がチケットを取り出すと、何かを察したセミ子が首を振った。


セミ子

「私はもう遊んだからいいよ。お姉ちゃん、これから休憩でしょ? 今からでも、そのチケット渡しにいけば?」

ボブ子

「え、でも」

セミ子

「いいからいいから!」


 セミ子に背中を押されて、無理やり廊下に出されてしまった。たしかにもうシフトは終わりだけど……。セミ子はいつのまにかどこかへ行っちゃうし。仕方ない。もう一回、屋上へ行ってみようかな。

 屋上に続く扉の前まで来てみたけど……。どうせ、いないよね。生徒はみんな、文化祭で忙しいし。ここで見つからなかったら諦めよう。そんな気持ちでドアノブを回すと、あっけなく扉は開いた。

 屋上では、まるで文化祭なんて知らないというように、いつもどおりコンクリートの上でだらけているヒヨリ先輩がいた。


ボブ子

「さすが不良ですね」

ヒヨリ

「開口一番に悪口か? 後輩のくせに生意気」


 寝っ転がりながらこちらを見上げたヒヨリ先輩は、そのまま隠しもせずに大あくびをした。


ヒヨリ

「それで? 俺に何か用か?」

ボブ子

「お誘いに来ました。私のクラス、輪投げ屋さんをしているんです。よければ来ませんか?」

ヒヨリ

「輪投げ屋?」


 ヒヨリ先輩は面倒くさそうに、私が差し出したチケットをちらりと見た。見るだけで、受け取ろうという動きをまったく見せてくれない。輪投げ、嫌いなのかな?


ヒヨリ

「どうして俺が、そんなもの行かなきゃならないんだよ。パス」


 素っ気なくひらひらと手を振るヒヨリ先輩。どうしようかな。



選択1⇒「しょうがないと諦める」

選択2⇒「さらに押していく」



●選択1「しょうがないと諦める」

 しょうがないし、諦めるか。だってヒヨリ先輩だもん。私がどうこう言ったって、動きそうに無いし。


ボブ子

「じゃあもういいです。このチケットは他の誰かにあげます」

ヒヨリ

「へぇ、他の誰かって?」

ボブ子

「だ、誰かは誰かですよ! ……こう見えても、私は誘う友達はいっぱいいるんです。ヒヨリ先輩なんか誘うよりも、そっちの方がずっと良かったですね!」

ヒヨリ

「へぇ、そうか。だったらさっさとそっちに行け。安眠妨害だ」

ボブ子

「え、また寝るんですか?」

ヒヨリ

「お前には別に関係ないだろ? ほら、さっさとそのお友達とやらのところに行けよ」


 冷たい声で追い払おうとするヒヨリ先輩。すっかり寝てしまう体勢だ。

 ……誘ったって来てくれないなら、いてもしょうがないよね。だけど、なんだか寂しい。

 動けないでいると、ごろりと寝転がったヒヨリ先輩が目だけこちらに向けてきた。でもその瞳は興味無さそうな温度の無い色。


ヒヨリ

「いつまでいる気だよ、どんくせぇな。お前の楽しい楽しい文化祭が終わるぞ?」

ボブ子

「言われなくても行きますよ!」

ヒヨリ

「あー、さっさと行けよ」

ボブ子

「ほ、本当に行きますからね!」

ヒヨリ

「しつけぇな。邪魔だから、行っちまえよ」

ボブ子

「……失礼しますっ!」


 走って屋上を飛び出した。階段を数段下りた所で、思わずしゃがみこんだ。

 ヒヨリ先輩、冷たくて怖かった。仲良くなれていたと思ったのは、気のせいだったのかな? ……このチケット、どうしよう。

 他の誰かに渡す気にもなれなくて、チケットはぐしゃぐしゃにして捨てた。

【あなたでなければいけない理由】





●選択2「さらに押していく」

 でもここで諦めるのも、ヒヨリ先輩に負けたみたいで悔しい。もう、絶対にこのチケットを受け取らせてやる!


ボブ子

「折角、かわいい後輩が誘ってあげたのに! 先輩はケチですね!」

ヒヨリ

「自分でかわいいって言うな。馬鹿か、お前は」

ボブ子

「馬鹿って何ですか。折角の文化祭を楽しまない方が馬鹿です!」

ヒヨリ

「先輩を馬鹿呼ばわりか。お前も偉くなったもんだな」

ボブ子

「だって、こんな日に屋上にいるなんてもったいないですよ! もう、こうなったら引きずってでも連れて行って――あっ……!」


 その時、強い風が吹いた。思わず目をつむった際にチケットを持っていた手の力を緩めてしまい、そのままチケットが風に流されてしまった。大空の向こうに消えて行くチケットに、私は思わず呆然としてしまった。

 それを見ていたヒヨリ先輩がけらけらとお腹を抱えて笑い出した。


ヒヨリ

「はははっ! すっげぇ、いい風だったな! しかもお前はマヌケ面」

ボブ子

「もうっ! 笑わないでください!」

ヒヨリ

「これが笑わずにいられるか! お前のマヌケっぷりは、きっちり目の前で見させてもらった!」


 その後も、ヒヨリ先輩とぐだぐだ喋りつづけた。せっかくの文化祭だっていうのに、やることはいつもと変わらなかったな。まぁ、ヒヨリ先輩らしいといえばらしいけど。折角の休憩が、ヒヨリ先輩との会話で全部終わっちゃった。

【この瞬間が私にとってのすべて】


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