夢十一夜(第十一夜)
こんな夢をみた。
気づけばそこは暗闇だった。それは飲み込まれてしまうほど深い深い闇。まばたきをして、目を開けても写るのは黒一色、ただそれだけだった。
男は体を動かそうにも果たしてそれが壁なのか、はたまたただ空を切っているだけなのか分からない。それはまるで、宇宙に一人放り投げられたよう。というのも、頭と体くっついているかさえも不安になるほど何もできないのである。ただ先程からサァーサァーと聞き覚えのある音がどこからか聞こえてくる。しかし、時折揺れるような感覚に気分が悪くなりそれがなんの音なのか考える余裕さえなかった。
「あぁ、どうしたものか、こんなにも何もできないだなんて自分は赤子なのか?...それよりここはどこなのだろう、これから自分はどうしたらいいのだろう」
少しの間、男は動揺を隠せないでいた。
少し落ち着いた男はなぜ自分がここにいるのか、今までの記憶を辿っていった。
「たしか...」うっ...オェッ!
やはり揺れには勝てないようで、手や膝に暖かみを感じた。どうにもならない状況で打開策が見つかった訳ではないが、なぜか男は安心できた。
それからかなり時間が経った。男はぐったりとして、きっと本来ならばうなだれているのであろう体勢でただ時が過ぎていった。
すると、男の腹であろうところが鳴った。それが男をどう刺激したのか、
「くそっ、いつまでこの状況が続くんだよ。このままじゃ飢え死にしてしまう。何とかしなきゃ」
と、自分の状況を改めて調べてみた。すると自分は今、手が動くか動かないかというような狭いスペースにいることが分かった。
それは、男にとってさらに自分がおかれている状況がより大変であることを知らせているようなものだった。
「おいおい、マジかよ...どうにもならないじゃないか...」
現状に呆然としてしまう男。
「...もう、どうにでもなれ」というような気持ちが徐々に胸を圧迫しはじめ、冷たくなった手がポツリ、ポツリとまた暖かくなった。
男は色々考え込んでいたので気がつかなかったが、いつの間にか気持ちが悪かった揺れが収まっていた。
そして何か声が聞こえると思った瞬間、ガツンッという音と共に何かの影になりながらも、目に眩い光が射し込んだ。それは強烈な音を出しながら広がっていった。
「まぁ、おじいさん。桃から元気な男の子が出てきましたよ」
その声に、男は自分がちっぽけな存在であると同時に何でもできる環境であることに気がついた。そして、いつかこの暗闇から救ってくれたこの人たちに恩返しをしようと心に決めた。
へんに降りてきたシナリオを思うがままに書いてみました。夏目漱石ファンの方、大変申し訳ございません。
どんなに自分が頑張ってもどうにもならない時はあるし、より自分を追い詰めることになってしまうことだってあると思います。そんなときに助けてくれた人がどれだけ心強いかをこの作品に込めました。