第8話『英雄少女』と『魔物の軍団』
主人公視点ではありません。
━━━ね、ねぇ。そこで何してるの?
━━━ん? 魔法書を読んでるんだ。
━━━そ、そうなんだ。
━━━うん。で? 何かよう?
━━━え、あ、えっと。わ、私の事どう思ってるの?
━━━? 同い年の女の子だけど。
━━━ほ、ほら! 私って、その……………
━━━あぁ、俺が君と比較されてる事?
━━━う、あ、その。
━━━気にしてないよ。言いたいヤツには言わせ
とけばいいんだよ、それに
━━━それに?
━━━絶対強くなって、見返すつもりだから。
━━━……………ね、ねぇ。
━━━なに?
━━━友達になってくれない?
━━━いいよ。
━━━え! ほんと?
━━━うん、俺はムト。君は?
━━━リラ………リラっていうの!
━━━そっか、リラ宜しく。
━━━うん! 宜しくムト!
◇
「…………夢?」
随分昔の夢を見た。彼に………ムトに初めて会った日の夢。初めて恋をした日の夢。最近はよく同じような夢を見る。あの日の…………ムトがいなくなった日の夢も……………あの時は本当に辛かった。
ベッドから起き上がり、鏡を見ると、目が少し腫れていた。気づかないうちに泣いていたようだ。
「ダメダメ! こんな顔してたら、ムトに笑われちゃうよ。」
頬っぺたを叩いて、気持ちを切り替える。ムトが残した手紙には『必ず帰って来る』と、書いてあった。だから、信じる。
髪をお気に入りの青いリボンを使い、後ろでまとめる。
「これで、よし! 今日も一日頑張ろう。」
宿の部屋から出て、一階に降りる。
「あ! リラお姉ちゃん、おはよう!」
「ルルちゃん、おはよう。」
一階に降りると、この宿の一人娘ルルちゃんがいて、朝の挨拶をしたので、こちらも挨拶をかえす。
「おや? リラさん、お出かけですか?」
「はい。冒険者ギルドに行って来ます。」
「そうですか。行ってらっしゃいませ。」
「はい。行って来ます。」
宿“夢咲”の店主、ソルトさんに冒険者ギルドに行く事を伝え、宿を出た。
◇
「お、リラの嬢ちゃんじゃねぇか。」
「ほんとだ~。リラちゃん久しぶり~。」
「久しぶりだな、リラちゃん。」
「お久しぶりです。バルドさん、トト、レードさん。」
冒険者ギルドに入ると、以前一緒に依頼を受けた、クラン〈銀風の鈴〉の第一部隊のメンバーがいた。
「エルクさんは元気ですか?」
「おう! クランマスターなら、火竜の素材が欲しいって言って、“アグラドル火山”に行ったぜ。」
「置き手紙を残してな。」
「言ったら止められるからって、置き手紙は無いよね。」
「キリアさん怒ってそうですね。」
「あぁ、めちゃめちゃ怒ってた。」
久しぶりに会った三人と、たわいもない話をしていると。
「おい! 大変だ!」
「どうした?」
「魔物の軍団が王都目指して、走ってくるぞ!」
「何っ!?」
魔物の軍団? 魔物達の暴走でも起こったのかな? いや、それよりも。
「バルドさん!」
「あぁ、行くぞ! てめぇら!」
「「「「「「おう!」」」」」」
◇
「おうおう。こいつはすげぇ、まるで魔物の壁が迫って来てるみてぇだ。」
バルドさんの言うとおり、数え切れないほどの魔物が、王都に向かって真っ直ぐ走って来ていた。
「じゃあ、私行きますね。」
「え!? リラちゃん!」
「ま、待て! って、もう行っちゃったか。」
「よっしゃ、俺らも行くぞ! 一匹も王都に近づけさせるな!」
こうして、冒険者VS魔物の軍団 の勝負が始まった。
「【旋風竜巻】【雷光竜巻】」
魔物の軍団にある程度近づいたところで、広範囲を攻撃出来る魔法を二つ発動する。普通の竜巻と、放電している竜巻が、魔物達を巻き込み進んで行く。だが、それを抜ける魔物達もいる。よし! 腰に差した剣を抜き。
「【白銀之陽剣】“剣技”銀炎の鳥刃」
スキルの発動とともに、持っていた剣が銀色の炎を纏う。そのまま、“剣技”を発動させると、銀の炎で出来た鳥が撃ち出され、触れた魔物を切り裂き、焼き付くした。
「まだまだ! 【氷結槍】【空間爆裂】」
お次は氷の槍を撃ち出す魔法と、指定空間を爆発させる魔法を使う。
「おらぁ! 剛打撃!」
「いっくよー! 鳳凰拳!」
「“剣技”風剣乱舞」
バルドさん達も、着実に魔物を倒しているようだ。それに
「【光線の雨】」
「あっぶね! おいシーレネ! 範囲魔法やめろよ!」
「ヤサネくん避けるから、いいじゃないですか。」
「ふざけんな! “刀技”鎌鼬」
「さっすがヤサネくん、魔物がゴミのようですよ! 【獄炎爆裂】」
「うおっ! だから、範囲魔法はやめろって!」
どうやら、特級ランクの人も二人ほど、参戦しているようだ。このまま押しきれば、いける!
「“剣技”銀炎の鳥刃!」
向かってきた魔物達へ向けて、再び“剣技”を発動させる。王都には絶対に近づけさせない!
◇
「はぁ、はぁ、ふぅ………」
なんとか魔物を全て、倒しきった。だけど、かなり疲れたし、魔力がほとんど無いので、魔法はもう使えない。帰ったら、ゆっくり休もう。
「よお! お疲れ。」
「バルドさん。お疲れ様です。」
「いやー、もうへとへとだよ。」
「そうだな、今日はもう戦いたくない。」
皆なで勝利を噛みしめている時、一人の冒険者が異変に気付いた。
「お、おい皆な! また来たみたいだぞ!」
「「「「「「何っ!?」」」」」」
本当だ、先程と同じ、いや、それ以上の魔物の軍団が迫って来ていた。
「ハハハハ。嘘だろ…………」
「逃げるぞ。今なら間に合う。」
「王都の人達は?」
「直ぐ避難するさ。」
そう、直ぐに避難するだろう。ここにいるのは得策しゃない。特級の二人も、不利だと思ったらしく、逃げる準備をしている。私も逃げた方がいいだろう。でも…………
「先に行っててください。」
「リラの嬢ちゃん!?」
「何を言ってるんだ!」
「私は、逃げるわけにはいかないんです。」
ここで逃げるわけにはいかない。逃げ遅れる人がいるかもしれない。だから、例え死んでも、魔物達を倒す。それに…………
「守ってくれるよね? ムト…………」
そう小さく呟いた瞬間。轟音とともに、魔物の軍団の一部が吹き飛んだ。
ヒロイン登場! 次回は主人公視点に戻ります。