第6話『乗り合い馬車の旅』と『ある物語』
乗り合い馬車の旅をしているが、かなり静かだ。時折シーレネ━━━初めに話しかけてきた白いローブの女性だ━━━が話しかけてくるぐらいだ。
「そうだ、ムトくん。知っていますか?」
「何を?」
「“黒炎を纏いし獣”の物語ですよ。」
「あぁ。」
“黒炎を纏いし獣”……………か、うちの村でもよく語られてたけど、外でも有名なんだな。
「全てを焼き付くす黒炎を纏った悪の獣が、世界を滅ぼそうと暴れ回ったのを、神々が『終焉ノ地』に封印した話。有名ですよね~。」
「悪の獣?」
「? どうかしましたか?」
「いや、うちの村で聞かされたのと大分違うなと思って。」
「そうなんですか?」
「ああ。」
「その話、私にも詳しく聞かせてもらえませんか?」
「「え?」」
今まで話しかけてこなかった、青いローブの人が話しかけてくる。
「まぁ、いいですよ。では━━━━━
◇
昔昔あるところに、銀の太陽と、金の月に選ばれた姫巫女がいました。とても美しい少女でした。
姫巫女には守り人がいました。黒い髪と黒い瞳をした、少年でした。少年はとても強く竜さえも軽々と狩りました。
ある時。とある国の王子が、姫巫女を嫁に欲しいと言いました。けれど、姫巫女はそれを断りました。『この身は神のモノ』だと、『私の伴侶を決めるのは神』だと、そう言って断りました。
ある日。姫巫女がいなくなりました。姫巫女の守り人は彼女を探しました。そして、とある国で彼女を見つけました。その身を自身の持つ“銀の炎”で焼き、残った骨が………………
守り人は泣きました。骨となった姫巫女を抱いて泣きました。そして、怒りました。同じく“銀の炎”で焼かれた、王子の骨を見て。
“不滅之黒炎”を纏い、その心をも黒炎に焼き付くされた守り人は、黒炎の獣となり、世界を焼こうとしました。
それを知った神々は、守り人が暴れた際に、五つに別れた大陸の一つの、ある場所に封印しました。
そして、守り人が封印された場所は、今でも黒い炎が燃え続けている………………
◇
━━━━以上がうちの村で語られている話です。なんでも、その姫巫女がいたのが、うちの村らしいですよ。」
「へぇ~。」
「成る程。ありがとうございます。」
話を終えると、他の四人も聞いていたようだった。
「だが、おかしくないか?」
「何がですか?」
軽鎧の二人のうち一人が、今の話に疑問をもったようだ。
「おっと、話に割り込んで悪いな。いやなに、なんで“黒炎を纏いし獣”は悪だとする物語が、一般的なんだ? どちらかというと、そこの少年が話した内容の方が正しい気がするが。」
言われてみるとたしかに。何故、うちの村の物語は広まってないんだ? まぁ、村人皆な、外に出ることほとんどないからだと思うけど。
「これは、私の推測ですが。」
青いローブの人が話し始める。
「姫巫女を拐った国。もしくは、その子孫達が自らの失態を隠すためではないでしょうか。」
青いローブの人の言葉に、乗り合い馬車内の人は皆。成る程と、頷く。
「これは、面白い。王都に行ったら調べてみましょう。」
青いローブの人が何かブツブツ言ってるが、よく聞き取れない。
それにしても、物語一つでここまで真剣になれるのは、皆なが暇だからに違いない。きっとそうだ。
◇
乗り合い馬車の旅も、もう少しで終わりそうだ。ちなみに、軽鎧の二人は、一人がロック、もう一人がウィルというらしい。青いローブと全身鎧の人達は、事情があって名前を言えないらしい。
和やかな雰囲気になった乗り合い馬車で、たわいもない話をしていると。
「止まりな!」
「へへ。乗り合い馬車を見つけるなんて、運がいいぜ!」
「おらぁ! 中に乗ってるヤツ降りてこい!」
どうやら、盗賊が襲ってきたらしい。面倒なヤツらが出てきたもんだ。
「ったく、盗賊かよ面倒くせぇ。ウィルさっさと、倒しちまおうぜ。」
「そうだな、ロック。」
彼らは、ランク5の冒険者らしい。任せていいかな?
「いえ、もう大丈夫です。」
シーレネがニコニコしながら言う。そういえば、盗賊の声しなくなったな。
外を見てみると、白く光る球が五つ転がっているだけだった。
「………これは?」
「さっきの盗賊達ですよ。」
「シーレネがやったのか?」
「えぇ、これでも腕はいいんです。」
ニコニコしながら、球を回収するシーレネ。
「驚いたな、アンタ何者だ?」
「あぁ、そうだな。」
ロックとウィルが尋ねるが、シーレネは笑って。
「内緒です。」
誤魔化した。世の中には、見た目で判断しちゃいけないヤツがいるんだな。
ちょっとした、盗賊もあったが。乗り合い馬車は進み、王都の壁が遠くに見えてきたと、御者の人が教えてくれた。
さて、いよいよ王都だ。暫くは王都で冒険者ランクを上げようと思う。ある程度上がったら、別の国や、別の大陸に行って、見聞を広げようと思っている。
まだ、見ぬ地に思いを馳せながら。俺は乗り合い馬車に乗って、王都の門をくぐった。
王都到着です! もうすぐ、ヒロインが出せそうです。