第60話『正体』と『アイラ』
「うーん。なんか、ただ歩いてても駄目な気がしてきた。」
代わり映えのない森の中を歩いて行くが、声の正体を突き止められるようなカギはない。まぁ、それでも三つは分かってる事がある。
一つ目
・姿が見えない事
二つ目
・声は複数である事
三つ目
・声の正体は森。もしくは、それに関係した力を持っている事
この三つは分かってるんだが、他はなぁ~。そもそも、この森はどうなっているんだろう? 普通に考えれば、幻覚とかだが、なんだか違う気がする。あれかな? 俺が移動するたびに、“木”そのものが動いてるとかかな?
「なーんてっな、あははははははははは……………」
いや、まさか。でも…………
「精霊のいたずらじゃあるまいし…………」
『『『『『『なんで、分かったの!?』』』』』』
「そうなのかよ!」
ツッコンで、脱力してしまう。まったく、これだから精霊は……………
気紛れで、何を考えているか分からない精霊は、いたずら好きで、人を迷わせたり、怖がらせたり、怒らせたり、驚かせたり、困らせたり、と、色々やって楽しんでいる。まぁ、悪い奴らではないけども。
正解したのだから、森から出して貰えると思っていたのだが、木々が動いて道を作りだし、その道を通って小さな女の子がやってくる。
「皆なと遊んでくれて、ありがとう。」
「いや、別にいいよ。それより、ここから出してくれるんだよな?」
「いいよ、いいよ。とりあえず、かなり遠いけど、村の近くの森に━━」
「いや、この森の外側…………兎が沢山いた草原がみえる程度の所でいい。」
そう言うと、不思議そうな顔をした。
「どうした?」
「迷いこんだんじゃないの?」
「強くなるために、丁度いい場所を探しててな。この辺は強い魔物も多そうだし、拠点でも作って暫く暮らそうかと。」
そう言うと、ますます不思議そうな顔をする。
「正気?」
「うん? 兎も速いだけで、攻撃力はなかったし、大丈夫だろ。」
そういえば、あんな速いのになんで、攻撃力は低いんだ?
「………そういうこと。」
「なんだ?」
「なんでもないよ。それなら………」
女の子が手を振ると、木々が動いて道が出来る。そして、その先を指差して……
「この先を行くといいよ。」
「そうか、ありがとな。そうだ、俺はムトだ。また、会おうな。」
「私はアイラだよ。」
アイラに手を振って、道を歩いて行く。
「運命に負けちゃだめだよ。」
最後に何か言っていたようだが、声が小さくてよく聞こえなかった。
◇
「とまぁ、アイラとの出会いはこんな感じだな。」
「それで、森の正体はなんだったの?」
「俺が考えた通り、俺が動くたびに木が動いてたらしい。」
それを聞いた皆なが微妙な顔をする。そうだよな、幻覚ならまだ対処のしようがあるけど、物理的に迷わせてたら、どうしようもないよな。
「お兄ちゃん、次は? 次はなに?」
「んじゃ、次はフェネと会った話を━━━」
あの日は、めちゃくちゃ苦労したなー




