第53話『決着』と『二柱の神』
「バカな! 我々の術式は完璧だったハズだ! なのに何故………」
「はいはい。とりあえず、倒させてもらうぞ? リラは他の皆なを、外に逃がしてくれ。」
「いいけど、ムトは?」
「俺はコイツらを片付ける。」
「分かった。頑張ってね。」
「おう!」
リラが部屋から出ていったのを確認し、敵に向き直る。相手は二人、おそらく邪神だろう。まぁ、負ける気は一切ないが。
「ふん! まぁいい、ブラックが手に入らなかったが、黒炎さえ封じれば、我々が負ける事はない!」
「そうね。【能力封印】」
女のほうの言葉とともに、俺の身体に黒い鎖が巻きつき、消えた。ん? 何したんだ?
「クックック。スキルを封じたぞ、これで貴様は手も足もでまい! はぁぁぁぁぁ!」
「ふふふふふ。」
男のほうが、黒紫色の肌をした五メートルほどの化け物に変わり、女のほうは、背中から蝙蝠のような翼が生え、頭からは捻れた角が二本生えた。うーん? 邪神モードでいいのかな、アレ?
「クハハハハハハ! 地獄に送ってやる! 【邪怨息吹】!」
「さよなら、【混沌竜巻】」
禍々しい光線と、竜巻を無視して、相手の背後に一瞬で周りこむ。さて、先ずは一人片付けるか。地面を蹴って飛び上がり、右腕に黒炎を纏わせ、女の心臓を素手で貫く。
「【黒炎貫手】。」
「がはっ!」
そのまま、黒炎で女を包み燃やしつくす。
「シャレル!? バカな、黒炎は封じたハズ………」
「まぁ、もっと厄介なスキルを持ってるんでね。」
「くそっ! 【混沌息吹】!」
「【黒炎防御幕】」
敵のブレスを黒炎で打ち消す。ヤバい、めっちゃ使いやすい。コツも大分掴めてきた。
「くそっ! くそっ! こんなハズでは、こんなところで負けるわけには!」
「残念ながら、お前はここで終わりだ。最後に、俺のとっておきを見せてやる。」
【無敵之存在】それは、盾であり、矛。普段は盾だが、今回は矛を見せてやろうと思う。
「“我求メルハ、総テヲ打チ砕ク矛ナリ。”【星崩之一撃】!」
「━━ッ!?」
白い光に包まれた右腕を、化け物に向かって振るうと、化け物どころか、正面にあったものが消し飛び、遥か彼方の地面まで、抉れたような跡が残った。うん。完全に最終兵器だな、封印しとこう。
「うーん? 一件落着でいいのかな?」
◇
白く広がる世界で、水晶を通して今回の出来事を見ていた人物…………いや、神がいた。輝く純白のローブを着た、黒髪黒目の神は頬を緩ませた。
「感謝するよ、ムト。彼らを救ってくれて。」
神は水晶を懐にしまうと、空中を撫でた。すると、五つの透明なクリスタルが現れる。神はそれを一つ一つ手で撫でて、再び微笑んだ。
「ユメが、ココロを救った。これで皆な、大丈夫だな。いや、セスが心配だな、まぁ、彼女も直ぐに在り方を見つけるだろう。」
神はそう呟くと、空中を撫でて、クリスタルを消した。
「さてと、久しぶりに“変幻次元世界”にでも遊びに行くかな━━━ん?」
何者かの気配を感じとり、振り向く神。そこには、純白のドレスに似た衣を纏い、腰まで伸びた銀髪に、全てを見透かすような金色の瞳をした、少女が佇んでいた。
「イリシア、何かようかい?」
「ファロウ、何時になったら、戻ってくるの?」
イリシアと呼ばれた少女が、ファロウという名の神に問いかける。すると、ファロウはクスリと笑って
「イリシア、僕はもう戻れない。知ってるだろう、虚無神である僕は、邪神扱いされている。神界にはいられないよ。」
「でも、皆な待ってる。私も、それに、貴方は私の━━━」
「イリシア、全能神である君が、一人の神を贔屓するのはいけない事だ。」
ファロウが、諭すように言うと、イリシアが頬を膨らませる。
「じゃあ、私がここで一緒に暮らす。」
「ぶっ!? 何言ってるんだい! 君は神々の頂点に君臨するものだろう? その人が、神格もない僕の側にいるなんて━━━」
「なろうと思えば、私と同じ神格になれるくせに。」
「ぐっ! いや、それとこれとは関係ないだろ?」
必死に説得するが、頑として譲らないイリシア。そんなイリシアに、ため息を溢すファロウ。
「イリシア、お願いだから━━━」
「ずっと一緒にいてくれるって、言ったくせに。」
「なっ!?」
「君だけを愛してるって、言ったくせに。」
「ちょ、ストップ!」
「ファロウの嘘つき! 浮気者! 変態!」
「浮気した事ないし! どこら辺が変態!?」
「知らない!」
「何故にそこで、ドヤ顔!?」
「満足、帰るね。」
「相も変わらず、僕を振り回すね君は………」
ファロウが少しげっそりしながら、ため息をもらす。
「またね。」
「また。」
イリシアがいなくなった空間で、ファロウは少し寂しそうにまたため息を漏らした。
VS〈悪魔の茶会〉終了。次回からは、ほのぼのパートに変わります。




