第51話『銀炎』と『黒炎』
どうしよう。
「迷ったかもしれない。」
別段遅れてもいいんだけど…………早めに行ったほうがいいよね? ムトの作戦にのったはいいけど、上手くいくかな? まぁ、私は拐われてないし、ムトが“黒炎”にのまれることもないだろうし、ムトが精神支配されるわけないし。これもしかして、私達正面から戦ったほうが早かったんじゃ? …………ま、まぁ、一先ずはいっか!
「それにしても、無駄に広いな~。」
部屋を一つ、一つ調べていくが、誰もいない。戦力の殆どを、外の軍勢にあてているのかな? まぁ、倒す敵がいなくて楽でいい。そんな感じで歩いていると、後ろから殺気。その場から飛び退くと、さっきまでいた所に、火球が当たり弾けた。
「よく避けたな~。」
「敵いたんだ。」
私の後ろにいたのは以前戦った奴。確か、シガレだったかな? 何故か相方はいなかったけど、面倒な奴が出て来た。しかも、濁った赤紫色の瞳………邪人になっていた。と、その時、上のほうから莫大な魔力を感じた。なにこれ? こんなに魔力を使って、ムトを支配するきなの? どうやら、本気でムトを支配しようとしているようだ。これは、急がないといけないかな。
「悪いけど、あなたに付き合ってる暇はない。」
「そういうなよ、新しい力を試したくてウズウズしてんだよ。」
そんな事知らない。腕に纏わせるように、【黄金之月盾】を発動させ、さらに、【白銀之陽剣】を腕に纏わせる。これで、よしっと。
「てめぇ、その炎は…………なんでだ、お前は今、上にいるハズ………」
「さようなら、【銀崩焔・地握】!」
銀炎を纏わせた腕で、シガレの首を掴む。次の瞬間、腕に纏っていた銀炎がシガレを包み込み、崩れるように燃えカスが、地面に落ちる。初めて使ったけど、凄い威力。まぁ、一度使っただけで、腕は焼けただれているけど。
「【光治療】」
とりあえず、腕を治療しておく。少し感覚がおかしいけど、まぁ、大丈夫でしょ。とりあえず、莫大な魔力を目印にして、階段を登り、目的地に急ぐ。魔力が感じられる扉を開けると、青く輝く巨大な魔法陣が、部屋に描かれていて、その中心にムトが横たわっていた。そして、私がいる丁度反対側に、黒紫色の長髪に、同色の瞳をした男と、全体的に白い少女がいて、少女の側には眠っている私がいた。
「おやおや、今頃来たのかね? 冒険者くん。」
「うふふふ。もう遅いわよ。“ブラック”と姫巫女は揃ったもの。魔法陣も完璧。始めましょう、クーディオ。」
「あぁ、シャレル。さぁ、目覚めるのだ黒炎の獣よ。我らに従い、世界を統べるのだ! 精神完全支配術式起動!」
魔法陣から魔力が溢れ、光輝く。私はソレをただじっと眺める。別に諦めたわけじゃない。ただ、ムトを信じて起きるのを待つだけだ。光が収まった瞬間。ムトから漆黒の炎が迸る。
「ハハハハハハハハ! やった! やったぞ! これで世界は我々のモノだ! 手始めに、そこの冒険者を片付けてもらうとしよう。」
「そうね、クーディオ。面白そうだわ。」
「そうだろう、シャレル。やれ、ブラック!」
クーディオの命令に、此方に向かって黒炎が迫り私を包み込む。あ、温かい。なんか、癖になりそう。私が無言で黒炎の温かさを楽しんでいると
「フハハハハハハ! もっとやるのだブラック!」
いっそう激しく私を包み込む黒炎。さて、そろそろいいんじゃないかな? そう思ったのに、黒炎が止まる気配がない。私はため息を吐きつつ
「ムト、茶番はいいから。」
「何を言っている? それに何故黒炎に包まれて平気でいられ………」
「いやー、悪い悪い。」
狼狽えるクーディオの言葉を遮って、黒炎がムトに戻っていった。そして、ムトが立ち上がる。なんか、まだ黒炎が肩とか、腕から出てるんだけど…………
「地味に制御が難しいんだよコレ。全力は出せるんだけど、微調整がな。」
「まぁ、無事“黒炎”を手に入れられたみたいで良かった。あ、コレ取っていい?」
「いいぞ。それと、コスモスもお疲れ様。」
「ムリュ!」
私はお面を取って、そこら辺に投げ捨てる。そして、ムトの言葉とともに、向こうにいた私が、スライムに変わり、溶けていなくなる。作戦大成功! それにしても、分身まで出来るなんて、コスモスは万能だな~。
「まさか、我々を騙したのか!」
「騙さなくても良かったんだが、鼻をあかしてやりたくてね。さぁ、最終決戦といこうか!」
最終決戦って、無敵なムトが、何でも燃やしつくす炎をゲットした時点で、相手に勝ち目はないと思うんだけど…………
私はほんの少し敵に同情した。
リラが入れ替わってるなんて、殆どの人が気付いていたと思います。




