第48話『正体不明』と『バケモノ』
「数が多すぎる。奴らに近づけない。」
「ですが、このゴーレムにも限りがあるハズです! 頑張りましょう!」
「ムリュ!」
プラド市内の住宅街で、大量のゴーレムと戦うのは、グレイとフィリル。そして、コスモスだ。倒しても、倒しても沸いてくるゴーレムによって、三人は、〈悪魔の茶会〉の二人に、近づけないでいた。
「“弓技”破裂矢!」
グレイが、矢をつがえぬまま、弦を引き絞る。すると突然矢がつがえられ、グレイが弦を放すと矢が飛んでいき、一体のゴーレムに当たって爆発した。
「アイツの矢どうなってんだッ。 どこからでてきてんだよッ!」
「おそらくスキルでしょう。弓矢にはぴったりですね。」
「…………。」
ディルガの言ったとおり、どこからともなく矢がつがえられたのは、グレイのスキル。【瞬間装填】の効果だ。自身が所持している矢を、瞬時に弓につがえるという能力。さらに、自身が想像した矢を創りだし、瞬時につがえられるという、弓使いにとってはありがたい能力だ。
「ホシさん達、攻撃陣形です!」
輝く七つの球体が、光線のようなものを撃ちだし、ゴーレム達に穴を開けていく。さらに、【樹木魔法】によるトラップが、ゴーレム達の足止めを行う。
「アイツも面倒くせぇなッ。」
「状況を判断するのが上手いですね。」
一進一退の攻防が延々と繰り広げられている。両者ともに決定打を与えられずにいた。しかし、不利なのは、ギャゼルとディルガだった。ゴーレムを吹き飛ばしつつ猛進する人影。そう━━━
「ムリュ!」
━━━コスモスである。
グレイとフィリルのサポートを受けつつ、変幻自在の攻撃を繰り出しゴーレム達を蹴散らして行く。時間がたてば、ギャゼルとディルガの元にたどり着けるだろう。
「どうすんだよッ。アイツに勝てる気がしねぇぞッ!」
「まぁ、気をそらせばいいんですよ。簡単な事です。」
「じゃあ、さっさとやれよッ。」
ディルガがふらりと揺れて、消える。
「あれ? 包帯の人がいなくなりましたよ?」
「油断するな。どこから━━━ッ!?」
「もう遅いですよ。」
グレイの背後から現れたディルガが、グレイの腹を抜き手で貫いた。手を抜かれた直後に、傷口が開いて、血があふれ出す。
「ぐ……ぅ。」
「グレイさん!? コスモス!」
「ムリュ!」
フィリルの声に答え、ゴーレムの群れから飛び出し、フィリルとグレイを抱え路地裏に逃げ込んだ。
「はぁ、はぁ、この傷じゃあ回復魔法じゃ治せない。俺だけおいて逃げろ。」
「大丈夫です、任せてください。【生命ノ空】」
スキルの発動とともに、フィリルの身体が輝き周囲を満たす。そして、光が晴れると傷がふさがったグレイが、驚きの表情をうかべていた。
「凄いな。」
「えへへへ………へ?」
ふらりとフィリルがしゃがみこむ。
「魔力をほとんど使ったんだろ。無理するな、まぁ、俺も動けないけどな。」
「そんな! あの二人を倒して先に行かないと、リラさんとムトさんを助けられません!」
「そうだな。」
押し黙る二人を見ていたコスモスが、ピョンピョンジャンプして、アピールする。
「コスモス?」
「どうしたんだ?」
「ムリュ、ムリュムリュムリュ!」
何かを伝えようと、必死に鳴き声をだし、身体を動かすが、二人には伝わらない。すると
「ま………もる…………から。」
「「え?」」
ぎこちなく、しかし、はっきりとコスモスが喋った。
「み………んな………ボクが………ま………もる………から。」
「コスモス?」
コスモスがニコッと笑って、路地裏から飛び出し走り出す。
「駄目!」
フィリルが止めようと手を伸ばすが、既にコスモスの姿はなく。遠くから、何かが壊れる音が聞こえるだけだった。
路地裏から飛び出したコスモスは、たった一人でゴーレムの軍団と戦いだす。止まることなく、次々とゴーレム達を殴り、蹴り、頭突きをして、倒していく。
「アイツ一人で戦ってるぞッ。」
「ふむ。そのうちゴーレム達に潰されるでしょう。」
いくら倒しても沸いてくるゴーレムが、次々とコスモスにのしかかり、動きを封じていく。そして、残ったゴーレム達は先へ、グレイとフィリルのほうへ向かって行く。
万事休すと思われたその時、コスモスを押し潰していたゴーレム達の隙間から、青いナニかが溢れだし、先に進もうとしていたゴーレム達にまとわりつき、動きを封じる。さらに、溢れだしたナニかが、ゴーレム達を取り込んで、大きく膨らんでいく。やがて、一つの形になった。
流動する胴体に、二本の巨大な腕。不気味に輝く黒い瞳は、ギャゼルとディルガの二人を見つめている。そして、巨大な口が開いた。何処までも、何処までも暗く、先の見えない口。全てを飲み込もうとするかのような、巨大な口。その姿は、どんな言葉を使っても説明出来そうにない。
言うなれば、正体不明のナニか。もしくは、バケモノ。どちらにしろ、それがなんとか出来そうには、思えなかった。
「なんだよあれッ?」
「分かりません。かなり危険なモノでしょう。」
正体不明のバケモノは、びっくりと手をギャゼルとディルガの二人に伸ばす。二人は、そんな攻撃を受けるわけないと、見ていた。しかし、
「ッ!? ギャゼルさん!」
「のはッ!」
ディルガがギャゼルを突き飛ばした。突き飛ばされたギャゼルは、起き上がりディルガに文句を言おうとする。しかし、そこには誰もいなかった。あったのは、バケモノの手だけ。いつの間にそこにあったのか、巨大な手は佇んでいた。
「ディルガッ? 嘘だろッ!?」
ギャゼルは、ディルガがバケモノに取り込まれたと気づいた。助かる可能性は低い。なぜなら、半透明のバケモノの身体の中には、ディルガの姿はおろか、取り込まれた大量のゴーレムもいなかった。
「くそッ! “禁術”人体錬成!」
ギャゼルが行ったのは、錬金術の禁術の一つ、人の肉体を強制的に作り替える非人道的な術。ギャゼルは、それを自身に使った。邪人になり、頑強になったギャゼルの身体は、人体錬成によりさらに強化された。
「死ねぇッ! 分子崩壊!」
触れたモノの構造そのものを破壊する、錬金術の秘奥。それが、ギャゼルの手を通して発動し、バケモノの身体が壊れる……………ハズだった。
「あッ?」
なんの抵抗もなくバケモノの身体に、取り込まれたギャゼルは、訳もわからないまま消滅した。【無限の胃袋】の中を吹き荒れる、膨大なエネルギーの嵐に耐えられず、身体が消滅した。
ギャゼルを消滅させたバケモノは、小さく縮んでいき、一匹のスライムになった。紛れもないコスモスに。疲れたのか、そのままコスモスは寝息をたて始めた。
コスモス強ぇぇぇぇ。
コスモスの本気の一つ、というか、奥義【正体不明のバケモノ】身体に触れたモノを、取り込む。それだけの技ですが。身体の中全てを【無限の胃袋】にする事で、取り込んだモノをエネルギーの嵐で消滅させる。という、恐ろしい技です。




