銀金の幕.1『手紙』と『悲しみ』
幕間一つ目、二つ書きます。
これは、あの日の記憶。今まで生きた中で、一番悲しかった日の記憶。あの日、私は沢山泣いた。大切な人を失った。でも………彼は………
「ふん♪ ふん♪ ふーん♪」
昨日、ムトと約束した。一緒にステータス鑑定に行くって、約束した。嬉しいな、私はムトが大好きだ! 誰よりも強くてカッコいい。
「こんにちはー! ムトはいますかー?」
ムトのお家の前で、大きな声を出す。まだ、ステータス鑑定の日じゃないけど、気持ちが舞い上がっているので、ムトを誘って遊ぼうと思ったから来た。
「リラちゃん。」
「こんにちはおじさん。」
扉を開けておじさんが迎えてくれた。だけど、いつもの笑顔はそこに無く、まるで、無理矢理笑っているような………何があったの? ムトは?
「おじさん、ムトは? いるんでしょ? ねぇ?」
「それは………」
おじさんが、家に招き入れてくれる。私が迎えにくると、いつも台所の椅子に座っていたムトはいなくて、いつも笑顔だったムトのお母さんが、悲しそうにして座っていた。
「おばさん? なんでそんな顔してるの?」
ムトは何処? 何処に行ったの?
「リラちゃん………ムトね、行っちゃった。手紙だけ残して行っちゃったよ。」
涙をながしながら、おばさんが絞り出すように呟いた。行った? 何処に?
「リラちゃん、ムトから君宛ての手紙だ。すまないが、今日のところは帰ってくれ。」
ムトの家から出て、あの場所を目指す。ムトと初めて話したかの場所に。
◇
村の外れにある大きな木、この木の下でムトに出会った。手紙を開いて、読み始める。
『この手紙を読んでいるということは、俺はもう村から出た後だろう。まずは、勝手に出ていってゴメン。約束破ってゴメン。』
『それでも俺は、強くなりたいんだ。無能と呼ばれる人達のために、強くなる。』
『今までありがと、絶対強くなって帰ってくる。絶対帰ってくるから、待ってて欲しい。』
『次合うときは、かなり強くなってるから、宜しくな!』
「何コレ?」
すごくムトらしい。笑ってしまう。笑わないと涙が出そうだ。
「ヒグッ! うう。なんで、なんでよ、なんで勝手に出て行っちゃうの。まだ、言いたい事たくさんあるのに、一緒に、したい事だって!」
次から次に涙が出てくる。悲しくて、辛くて、どうしようもなくて、あの笑顔がもう一度見たくて………
「うぅぅぅ。あれ?」
手紙に続きがある事に気付く、涙を拭って、続きを読む。
『心配はいらない! と言っても、父さんも母さんもリラも泣いてるだろう。それについては謝る。ゴメン! でも心配はいらない! 俺が怪我した事無いの知ってるだろ? だから、いつもみたく笑っていて欲しい。皆なの笑顔が大好きだから。』
本当にムトらしい。でもね、悲しいものは悲しいんだよ? 辛いものは辛いんだよ?
「帰って来なかったら、絶対許さないんだから!」
この日から十年後、いつも通りの笑顔を浮かべたムトに会うなんて、誰も知り得ない。私も、ムトも。
リラのお話でした。さぁーて、次回は?




