第36話『竜』と『竜』
「ムリュムリュムリュムリュ!」
「グァ! ゲファッ! ゴブァッ!」
「止めたげぇてぇ! そのドラゴンのHPはもうゼロだぁぁぁぁ!」
今の状況を説明しよう。
コスモスと組み手をやってたら、銀髪銀眼の小さな女の子を連れたドラゴンが出て来て、威嚇してきた。んで、コスモスが『丁度いいや!』みたいなノリで、ドラゴンにパンチを一発。ぶっ飛ぶドラゴン。滑るように、ドラゴンの前まで移動したコスモスが、手加減したパンチを連続で当てて、ボッコボコにしだした。
「コスモス! ストップ、ストップ。」
「ムリュ?」
「やりすぎ。」
「ムリュ~。」
コスモスが反省した。多分、おそらく。
「気に入ったぞ!」
「ん?」
ドラゴンに連れられていた女の子が、突然声をあげる。意外と大人っぽい声だな。
「そこのおのこよ!」
「ムリュ?」
「名はなんという?」
「ムリュリュ!」
「『ムリュリュ』では、分からんぞ?」
「あぁ~。こいつはコスモスだ。」
「ムリュ!」
「ほぅ。コスモスよ、妾の婚約者にしてやろう!」
「ムリュ?」
何言ってんだこの子? まだ名前も知らないのに、突然婚約者にしてやろうって、大丈夫かな?
「何を言ってるんですか姫!」
さっきのドラゴンが、傷だらけの人に変わる。人化出来るって事は、上位竜以上って事か。って事は、姫って呼ばれたあの子は竜王の娘か。何の竜王だろう?
「いいですか、姫。そんなホイホイ婚約者を決めないでください。それに、あの少年は竜ではありません。」
「いや、竜にもなれるぞ。」
【千変万化】と【存外操作】を使えば、ドラゴンそのものになんて、簡単になれるだろう。
「なんと、そうか! これでよいだろう?」
「ふざけないでください、姫! そこの貴方!」
「なんですか?」
「出来もしない事を言わないでください!」
「ふむ。見せてやれコスモス。」
「ムリュ!」
コスモスが伸び縮みして、ドラゴンの姿をとる。綺麗な蒼銀色のドラゴンだ。ドラゴンの二人が見とれている。
「よし! 次は人化したドラゴンだ!」
「ムリュムリュ!」
竜形態のコスモスが輝き、人の姿をとる。よよしよし、ちゃんと耳も尖ってるし、成功だな。
「とまぁ、こんな感じだ!」
「ムリュ!」
人化ドラゴン形態だと、力が上がる事に気づいたのか、コスモスが残像を残しながら、シャドーボクシングを始めた。
「完璧ではないか! これで決まりだな、さぁ! 妾の婚約者に!」
「う、どうすれば。」
姫の人は嬉しそうに、お供の人は困った感じで。
「ただ、二つほど問題が。」
「「え?」」
「先ず一つ目、コスモスはお二人の名前を知らない。」
「なんだ、簡単ではないか! 妾はリヒュテ。天竜王リベルデアの娘であるぞ。」
「私は天竜の、ジュトー。姫様の護衛です。」
「コスモスに、ボコボコにされていたがな。」
「かはっ! そ、それは。」
「そして、二つ目! これが、一番の問題だと思います。」
そう! これがかなりの問題だ。コスモスは━━
「コスモスはまだ、一歳なんですよね。」
「ムリュ!」
「「え?」」
そう。コスモスはまだ生まれたて、人形態になっても上手く喋れないし、行動も子供っぽい。さてさて、一歳の子供を婚約者に出来るかな?
「私は一歳児に手も足も出なかったのですか……いえ! それよりも、さすがに一歳児を婚約者にするのは、認めてもらえませんよ。姫様。」
「グヌヌヌヌ。ここは引くとしよう。だが、妾の力でいつか絶対婚約者にしてみせる! まっておれよ!」
「ムリュリュ~。」
竜形態になって去っていく二人に、『またね~』みたいなノリで、鳴き声をあげるコスモス。さて、戻りますか。
「コスモス、そろそろ戻ろう。」
「ムリュムリュ!」
スライムに戻ったコスモスを、頭に乗せて、元来た道を戻る。時折出てくる魔物は、以前のように投げ飛ばして、排除する。
「もうそろそろ、森を抜けるぞ。」
「ムリュ。」
そして、森を抜けた俺達の前には、崩れたヒークの城壁と、火の手が上がり、煙がたちのぼる家々、さらに━━━
空に向けて放たれる魔法と、たくさんの矢。その先には、禍々しい力を発する巨大な竜がいた。




