第2話『故郷』と『冒険者ギルド』
故郷到着。あーんど、冒険者ギルドです。
「ん? 空気が変わった…………か?」
修行場所から旅立ち暫く歩くと、周囲の空気が変わった。なんというか、軽くなった感じだ。
「まぁ、大丈夫そうだし、気にしなくていいか。」
テクテクと、森の中を進んで行く。時折魔物が襲ってくるが、適当に投げ飛ばしている。殺した動物は食べるか、売ろう!が、モットーなので、殺さないようにする。近くに売れるような所ないし、ゴブリンや、コボルトなんて食べたくない。
「お。森抜けた。」
漸く森を抜ける事が出来た。ちなみに、森を抜けるのに5日ほどかかりました。森を抜けると、道っぽいモノがあった。それにしても
「村。どっちだろう?」
右か左か。地図を見ても、今の今まで森の中を歩いていたので、どの辺か分からない。だがしかし! こんな時の対処法を、アイラから教わったのだ! 近くの木に寄り、幹を三回ノックする。
「聞きたい事があるんだが、いいか?」
木に問いかける。すると
『答えましょう。』『我らが王の寵愛を持つ者よ。』『答えましょう。』『あなたの問いは?』
女性の声、男性の声、若いような、老いたような、色々な声が聞こえてきた。樹木や植物に宿る精霊の声だ、アイラが言うには普通は聞こえないらしい。
「現在地を教えて欲しいんだが。」
地図を差し出しながら、尋ねる。
『『『『『『ここ。』』』』』』
木の幹から細い腕が出て来て、地図の場所の一つを指差す。ふむふむ。ここが現在地なら、村は右か。
「ありがとな。」
『いいえ。』『また呼んで。』『頼られるのは嫌いではない。』『お話するのは好き。』『またね。』
「おう。またな。」
気配が消えたのを確認し、村がある右へと進んで行く。
◇
「お。見えた! やっと着いたよ。」
修行場所を出発して、早二週間。10年ぶりの故郷だ。村の中を進み家を目指す。そういえば、リラは元気だろうか? というか、今何してるんだろう? まぁ、母さんに聞けば分かるか。
「ただいま~。」
家の扉を開け、声をかける。
「誰?」
それはこっちのセリフなんだが。扉を開けると、小さな女の子がいた。近所の子かな?
「え~と。君は?」
「メル~、どうかした?」
「ママ~、知らない人来た~。」
「知らない人?」
出て来たのは、俺の母さん。もしかして、あの子は俺の妹なのか?
「よ! 母さんただいま。」
「ム、ムトぉぉぉぉ!」
「え、ちょ。」
泣きながら抱きついてくる母さん。そっか、10年ぶりだもんな。
「ごめん。母さん。」
「いいのよ。いいの、本当に無事で良かった。」
「ママ~、その人誰?」
「メルのお兄ちゃんよ~。」
「お兄ちゃん? お兄ちゃん!」
笑顔で足に抱きついてくる妹こと、メル。
「よろしくな、メル。」
「うん!」
◇
現在、メルを膝の上に乗せ、母さんが作る朝食を待っている。
「お兄ちゃん。何処に行ってたの?」
「ん~。修行してたんだ。」
「修行?」
「そう。」
「すごい!」
「そうか?」
「うん! お兄ちゃん、すごい!」
「ありがとな~、メル。」
いや~。我が妹ながら可愛いな、もしメルを嫁に欲しいとか言うヤツがいたら、俺を倒したらいいだろう。とか言いそうな自分がいる。
「エルナ、メル。ただいま~。」
「あら、トルクくん帰って来たみたいね。」
「パパお帰り~。」
「ただいま、メル~。」
メルを抱き上げ笑う父さん。うん、父さんも『娘はやらん!』とか言いそうだな。
「父さんお帰り。後、ただいま。」
「おう。ムトただいま。……………ん? ムト!?」
首をグルンとさせ、びっくりした顔でこちらを見る父さん。10年ぶりに息子が突然帰って来たら驚くよな、そりゃ。
「ムト! 本物か? 本物だよな!」
「あぁ、勝手に出て行ってごめんな。」
「いや、いい。無事ならそれで、それにしても、大きくなったな。」
涙ぐみつつ肩を叩いてくる父さん。ほんと、母さんと父さんには悪い事した。
「はいはい、ご飯ですよ~。」
「わ~い!」
「待ってました!」
「家族全員で食べる初めての食事だな。」
四人でテーブルに座り、母さんの料理を食べながら、談笑する。主な話は俺が何をしていたかだ。向こうで見た珍しい生き物や、植物。向こうで出来た友人の話をした。メルが目をキラキラさせながら聞いていたのが印象的だ。
「メルも行きたい~。」
「ん? そうだな、もう少し大きくなったら連れてってやるよ。」
「わ~い!」
メルを修行場所に連れて行く約束をしたら、頭の中に、老若男女とわず『やめたげて!』というたくさんの誰かの声がしたが、気のせいだろう。
「そういえば、聞きたい事があったんだ。」
「聞きたい事? なにかしら。」
「リラの事なんだけど。」
「あぁ、リラちゃんか。あの娘なら今、冒険者をやってるよ。」
「そうそう。なんとランクは5なのよ! それに、王都を襲った『邪竜』をひとりで倒したから、国中が“英雄”と呼んでるわ。」
「へ~。リラがねぇ。」
気付かないうちに大分強くなったようだ。俺も負けてられないな。
「ムト、これからどうするんだ?」
「ん? あぁ、二、三日したら旅に出ようと思ってる。」
「お兄ちゃん、何処か行っちゃうの?」
メルが悲しそうに此方を見る。しかし、こればっかりは譲れない。
「やらなきゃいけない事があるんだ。夢というか目標というか、小さい頃からずっと変わらない。」
「夢?」
「そう。」
「分かった。メル、お兄ちゃん応援する。頑張ってね!」
「おう! 任せとけ。」
今後の予定も話つつ、食事を済ませる。この後は冒険者ギルドへ行って、冒険者登録をするつもりだ。
「それじゃ、行ってくる。」
「「「行ってらっしゃ~い。」」」
◇
「着いたな。」
剣と盾、それに杖が描かれた看板に、『冒険者ギルド』と書いてある。
そのまま、扉を開けて中に入る。冒険者は一人もいない。田舎だからたな? とりあえず、登録をするために、空いている受付に向かう。
「すいません。いいですか?」
「はい! 冒険者ギルドへようこそ!」
笑顔で答える受付嬢さん。
「私は受付嬢のシルルです。本日は、どのようなご用件でしょう?」
「冒険者登録をお願いします。」
「はい! 冒険者登録ですね。ギルドの説明は要りますか?」
「はい。お願いします。」
「では、コホン。まず、冒険者ランクですが、1~7。そして、特級まであります。」
「1~3は初級冒険者、4~7は上級冒険者となります。2~3までは、依頼を一定数こなすと自動であがります。4~7は依頼の一定数達成に加え、昇格試験があります。特級には、依頼の一定数達成と、ギルド本部で受けられる『特級昇格試験』での合格が必要です。」
「続いて依頼についてです。依頼は大きくわけて三つ、『採取依頼』『討伐依頼』『護衛依頼』です。他にも、『救出依頼』『偵察依頼』等があります。上級冒険者以上には『指名依頼』と呼ばれるモノもあります、場合によっては断れないので注意してください。」
「次に、依頼の達成報告ですが、常設依頼や、ギルドからの依頼等は、ギルドに直接報告してください。依頼主がいる場合は、依頼主に報告後お手数ですが、ギルドにも報告してください。」
「最後に、『強制召集』と呼ばれるモノがあります。魔物の群れの大規模な襲撃等で発生します。余程の事情がない限り、断った場合は冒険者の称号剥奪と、三年間の冒険者登録禁止となりますので、注意してください。以上です。」
「ありがとうございます。」
「では、登録ですが、こちらに………」
「おいおい、黒髪黒目のくせに冒険者だと? 今すぐ帰りな坊主。」
後ろを向くと、下卑た笑顔をした大男が三人いた、帰れと言ったのは、手前にいるでかい斧を持った男だろう。
「有り金全部置いてけば、見逃してやるぜ?」
「ガルズに逆らわないほうがいいぜ。」
「そうそう。殺されちまうぞ。」
ガハハハハハハ。と笑っているが、たいしたようも無いようなので、登録を始めよう。
「登録お願いします。」
「え? いいんですか。」
「はい。お願いします。」
「てめぇ! 無視してんじゃねぇ! 死ねぇ!」
いくらなんでも短気すぎるだろ、と思いながら後ろを向くと、斧が振り下ろされた。とくに速くもないので、片手で受け止める。それにしてもこの野郎。
「なっ!? くそ! 動かねぇ!」
「おい、お前。」
俺は大男を睨み付ける。
「受付嬢さんに当たったらどうすんだぁ!」
「ごふぅっ!」
大男を最大限手加減し、殴り付ける。なんか、そうしないといけない気がした。最大限手加減したにも関わらず、壁をぶち破り飛んでいく大男。もしかして、俺って相当強い? まぁ、いいか。
「ガルズ!?」
「くそっ! 覚えてろよ!」
捨て台詞をはきつつ、去っていく男達。邪魔者も消えたし、登録といきますか。
「すいません。登録お願いします。」
「え? あ、え? え~と。ここに、血を一滴垂らして下さい。」
「はい。」
白いカードをだされたので親指を噛んで、血をだし、カードに垂らす、すると
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【名前】ムト・クレウェル
【性別】男
【種族】人族
【年齢】17
【ランク】1
『所属クラン』
所属なし
『受注依頼』
なし
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カードに文字が浮き出る。カードに書かれた事をみて気になる項目について聞いてみる。
「すいません。“クラン”ってなんですか?」
「“クラン”とは冒険者の集まりの事です。二人以上の冒険者同士で、ギルドに申請すると認められます。“クラン”にたいして『指名依頼』がくる事もありますよ。」
成る程、聞きたい事は聞けたな。
「ありがとうございました。」
「此方こそ、守って下さりありがとうございます。」
軽く会釈して、受付を離れる。いよいよ、初依頼を受けようと思う。