第16話『狙われた村』と『黒幕』
「それじゃ、いくぞ。」
俺はそう言うと、手に持っていた笛を吹いた。
しばらく待つと、風とともに、灰色のターバンに口元も布で隠した人物、フェネが現れた。
「呼んだか?」
「おう! 実はな━━━」
フェネに事情を説明し、レイナの母親を看てもらう。
「“堕落”に“洗脳”、“支配”か。酷いな。」
「そんなに………酷い。」
「で? 何とかなりそうか?」
「この程度、簡単だ。だが、ざっと診た感じ、ここの村人のほとんどが、精神侵食系の魔法を受けてるな。」
「まぁ、とりあえず。この人を何とかしよう。」
「あぁ、【安らぎの聖音】」
心地よい音色が、部屋に響きわたる。
「これで、大丈夫だ。」
「ありがとう! おじさん。」
「おじさん…………か。まぁ、間違ってはいないのか?」
「何言ってんだよフェネ。」
「いや。とにかく、他の村人も治してしまおう。」
「だな。」
その後、アイラとフェネによって、村人達は無事に治っていった。まぁ、皆な寝てるわけだが。
「さて、そろそろ原因を探すか。」
「だな。アイラ。」
「何? フェネ。」
「私とムトで、周囲を調べてこよう。君とリラの二人で、村人達を守ってくれ。」
「りょ~か~い。頑張ろうね、リラちゃん!」
「うん!」
「んじゃ、行くか。」
「あぁ。」
俺とフェネは、森へと向かった。
◇
「う~ん。何もないな~。」
フェネと別れて森の中を調べているが、何も見つからない。
「森じゃ、ないのか?」
そう思っていると、遠吠えが聞こえてきた。この遠吠えはフェネだな。
直ぐに、遠吠えがした方に向かう。すると
「なんだこりゃ?」
「来たか。」
フェネの前には、何かの建物があり、周りには地面の上で、もがき苦しんでいる人がたくさんいた。
「相も変わらず、えげつない。」
「そうか?」
フェネは“幻”を見せつつ、精神を不安定にさせ、敵を行動不能にするコンボをよく使う。溺れてる幻でも見てるんだろうか?
「べらべら喋ってくれたよ。なんでも、あの村に何かの本の断片があるらしい。」
「ふーん。で、こいつらなんなんだ?」
「〈悪魔の茶会〉と、言っていたな。」
「何っ!?」
「知ってるのか?」
「あぁ。」
フェネに〈悪魔の茶会〉について説明すると
「ムトを狙っている? まさか、そいつら……」
「何か知ってるのか?」
「いや、なんでもない。」
どうやら、言えない事情があるようだ。
その時、声が聞こえた。
『伝言。』『王からの伝言』『直ぐに来て』『早く。』『急いで。』
「どうやら。アイラ達に何かあったようだな。」
「あぁ、直ぐ行こう。」
俺達は、フール村へ向けて、走り出した。
◇
■リラ視点■
「誰か来たね。」
「うん。」
アイラと話をしていると、誰かがやってくる気配がした、気配をかなり薄くさせているので、おそらく敵だろう。
暫くして、私達の前に一人の人物が現れる。青色の髪に、緑色の瞳をして、弓を肩に下げた青年だ。
「少しいいか? この村に黒い紙切れがあると、聞いてきたのだが?」
「さあ? 知らないけど。」
「何?」
油断せず伺っていると、顎に手を添えて、何かを考えてるようだった。
「あなた誰?」
「申し遅れた、俺は冒険者のグレイだ。依頼があってここに来たんだが………」
そう言って、辺りを見回し
「話が違うようだ…………そこにいるんだろ? 依頼人。」
建物のカゲに声をかけるグレイさん。
そこに誰かいるの?
「気付かれたっしょ。どうするっしょ? シガレっち。」
「殺せばいいだろ? レゼル。」
「確かにっしょ。殺るっしょ。」
どうやら、敵みたいだね。
「アイラ、村の人達をお願い。アイツらは私が何とかするから。」
「俺も助太刀しよう。殺すとは穏やかじゃない。」
「任せて。」
アイラが走り去るのを確認し、敵に向き合う。グレイさんも肩に下げていた弓に、矢をつがえて構える。
「おいおい、俺達に勝てるとでも?」
「バカっしょ。俺っち達が勝つに決まってるっしょ。」
「それはどうかな?」
「その通り。」
こうして、2VS2の戦いが始まった。