プロローグ『始まり』と『無能少年』
二作品目スタート。最初の作品
『幽霊は異世界ではモンスターのうちに入るのだろうか?』
も、どうぞ!
━━━━不滅之黒炎ヲ纏イシ、獣ハ━━━━
━━━━銀ノ太陽、金ノ月ヲ守リシ━━━━
━━━━守護獣ナリ━━━━
◇
━━━━━━ヴォルテ
それが、この世界の名。
五つの大陸と、その周りに広がる広大な海。そして、海に点在する小さな島々からなる世界。
神々とその従者が住まう“神界”
冥王とその配下。そして、死者が住まう“冥界”
生きた人々や、獣、魔物、幻獣が住まう“現界”
三つの“界”が存在する。
神々とその従者。冥王とその配下。彼らは“現界”には直接には関われない。“現界”に住まう者達で“神界”や、“冥界”がある事を知っている者は少ない。
“現界”には、“人族”だけでなく。獣の力を宿した“獣族”。森に住まう若さを保つ“エルフ”。自然との親和性が高いドワーフや、フェアリー等の“妖精族”。“冥界”への門を守る者達の末裔“魔族”。その他、様々な種族が暮らしていた。互いが干渉せず、はたまた、協力しあっていた。
この世界では、髪と瞳の色で【属性】と、ある程度の【能力値】等が決まる。
燃え盛る赤は、“火”
たゆたう青は、“水”
例外も存在するが、それは、ほぼいなかった。
━━━━さて、本題に入ろう。これから語るのは、とある物語。
始まりは、ある大陸。最も大きく、ほぼ全ての“種族”が暮らす。“イルノア大陸”の東側にある、小さな村。
この村にある日、二人の子供が産まれた。
一人は女の子。陽光を受けて輝く“銀色”の髪。月を写す“金色”の瞳。最も素晴らしいとされる、銀と金の組み合わせをもつ女の子だった。彼女は“英雄の卵”と呼ばれ、皆から祝福された。
一人は男の子。黒い髪に、黒い瞳。【属性】を持たぬ者の証。産まれた時の【能力値】が低い者の証。無能と呼ばれる者達の証。彼もまた、無能と呼ばれていた。
この物語はこの二人から始まる。
◇
「おらぁ!」
「ぐっ!」
まったく。面倒なヤツらに会ってしまった。家に早く薪を届けないといけないっていうのに。
「おいおい。どうした、ムト? 立てないのか?」
「しょうがないよ、アルズくん。こいつ無能だから。」
「そうそう。大人達も言ってたし、ムトは無能だって。」
「本当にな!」
ハハハハハハ。と笑う、三人組。いつもいつも、俺に暴力を振るってくる。たいして痛くないけど。最初の頃は、周りの大人達に暴力を振るわれる事を言っていたが、直ぐに意味がないと分かり、耐え抜く事にした。
「もういいか? 急いでるんだ。」
さて、さっさと仕事を済ませよう。
「ちっ! いつもいつもムカつくヤツだ。少し痛いめ見せてやる。」
そう言って、アルズとかいうヤツが、ナイフを取り出す。そこまでするか? 普通。
「や、やり過ぎなんじゃ?」
「そ、そうだよ。」
「うるせぇ! 俺に逆らうな!」
嫌らしく笑いながら、ナイフを突き付けてくる。そんな時
「ちょっと、あんた達! 何やってるの!」
「げっ! リラだ。」
「に、逃げろ~。」
「お、おい、お前ら、くそっ!」
少女の声がした後、三人組は逃げて行く。
「待ちなさい! もう。ムト、大丈夫?」
銀色の髪をポニーテールにした少女が、金色の目を不安そうにさせて、俺を覗きこむ。
「あぁ、俺が怪我した事ないの、知ってるだろ?」
「そうね。」
リラが笑顔になる。これでよし。
そのまま、家までついてくると行ったので、リラと一緒に歩く。
「ね。もうすぐ“ステータス鑑定”の日があるよね。」
「ん? そうだな。」
「一緒に行かない?」
一緒に……………か。
「迎えに行くから。」
「………………。」
「あ、ついたね。じゃ、私も帰るから。またね!」
「あぁ、じゃあな。」
◇
「ただいま。」
「お帰り。ムト。」
家に入ると、緑色の髪と、同色の瞳をした女性。俺の母さんが出迎えてくれた。
「じゃ、部屋に戻るから。」
「ご飯出来たら呼ぶね。」
「は~い。」
階段を登って部屋に戻り手紙を書く。両親と、リラに宛てて。
「これで、よしと。」
その日は、夕飯を食べて寝た。
◇
次の日の朝。
準備をして、家を出る。っと、出る前に
「行ってきます。母さん。父さん。リラ。」
目指すは、村の北東。理由はなんとなく。目的は
「誰よりも強くなってやる。絶対に」
◇
「ムト~。朝よ~。」
少年の母親が、少年を起こすために部屋に入る。
「……………ムト?」
部屋の中には誰も居らず、二通の手紙が置いてあるだけだった。